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フランソワーズはステファンが何を考えているのか、彼がどんな人物なのか気になってしまった。
それにこんな風に妹への気持ちを聞かされてしまえば、断ることなどできない。
「わかりましたわ」
「……いいのか!?」
「ステファン殿下のおっしゃる通り、わたくしはこの国から出て自由になりたいと思っておりましたから」
フランソワーズがそう言うと、ステファンの表情がパッと明るくなったのがわかった。
それからもしオリーヴのために力を貸してくれるのなら、フェーブル王国で安全に暮らせるように手配してくれることを約束してくれた。
それは今のフランソワーズにとって、願ってもない提案だった。
(まさかこんな風に安心に過ごせる場所が手に入るなんて……!)
フランソワーズは大きく頷いた。
「それならよかった」
「わたくしの力が役に立つのならば喜んで」
ステファンはホッと息を吐き出した後に安心したように微笑んだ。
いつも笑顔で表情が動かない、ステファンの本当の姿を垣間見た気がした。
「ありがとう……! 本当にありがとう、フランソワーズ嬢」
無邪気に喜ぶステファンの姿を見て、つられるようにして笑みをこぼす。
そんなフランソワーズの表情を見てか、ステファンは今度は驚いているようだ。
フランソワーズは首を傾げてステファンに問いかける。
「ステファン殿下、どうかしましたか?」
「フランソワーズ嬢の笑顔が可愛らしくて驚いてしまったんだ」
「……ッ!?」
「いつもはとても美しくて眩しいくらいだけど、可愛らしい一面を知れて嬉しいよ」
サラリと当たり前のようにフランソワーズを褒めるステファン。
フランソワーズは頬に熱が集まっているのを感じていた。
それからステファンはフランソワーズにいくつか質問をした。
聖女はどのように悪魔祓いをするのか。
宝玉の前で祈る時に何を考えているか、どのくらいの時間祈ればいいかなどだ。
ステファンやオリーヴに様々な方法を試したそうだが、一時的に改善しても、またすぐに元に戻ってしまうことがあると言っていた。
「フランソワーズ嬢には他の聖女にはない何か特別な力があるのか?」
「いいえ、特には。わたくしに特別な力はないと思いますが幼い頃から王妃になるために厳しい教育を受けてきましたから」
フランソワーズは無意識にギュッと膝上で手を握る。
辛く思い出したくない日々の記憶が残っていた。
「……やはりシュバリタイア王国には悪魔が多いという噂は本当なんだね」
「はい。悪魔祓いは貴族の女性ならばできますが、その中でもより強い力を持った女性が王妃に選ばれるのです」
「セドリックは何を考えているのか理解できない……こんなにも素晴らしい力を持っているフランソワーズ嬢をあんな形で追い詰めるなんて」
「義妹のマドレーヌがわたくしよりも強い力を持っているそうですから問題ないと思いますわ」
ステファンはそれを聞いて「セドリックの隣にいた令嬢のことか」と思い出すように言った。
フランソワーズとマドレーヌは従姉妹といっても、雰囲気が違うこともあり、血縁関係には見えないのだろう。
宝玉の中にいる悪魔を抑えられなければ、シュバリタイア王国はなくなると言われている。
だからか悪魔の宝玉は表向きには公表していない。
悪魔の宝玉が狙われて奪われてしまえば、国が壊滅してしまうからだ。
だからこそ他国や国民にも情報は伏せているし、力を持つ貴族たちしか知らされていない。
王太子の婚約者に慎重な理由も頷ける。
(マドレーヌが物語のように、早く宝玉を壊してくれたらいいのだけれど……)
悪魔が媒体にしているものを灰にすることで呪いも消える。
だが、歴代の王妃たちも悪魔の宝玉を壊すことはできなかった。
だから聖女の力で抑えるしか方法がなかったのだ。




