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シュバリタリア王国の悪魔の宝玉ほど力は強くないとしても、ステファンとオリーヴに強く影響を及ぼしているに違いないと思った。
「そこでシュバリタリア王国や聖女について色々と調べていたんだ。力の強い聖女は誰なのかと聞いて情報を集めていた」
「……そうなのですね」
「そして一番力の強い聖女は〝フランソワーズ〟だということを知ったんだ」
ステファンはフランソワーズをまっすぐ見つめていた。
「どうにか助けてはもらえないか……フランソワーズ嬢に接触する機会を探っていたんだ」
「……!」
ステファンはパーティーや外交の度に、聖女の情報を集めていたそうだ。
フランソワーズが一番、強い力があると知って接触しようと試みていたらしい。
しかしフランソワーズは宝玉を守るという使命があったため、大きなパーティーでしか接触できない。
それにすぐ帰ってしまい、なかなか話ができなかったらしい。
パーティーの後、ステファンが強引な態度をとったことやフランソワーズを逃がさないようにと必死だった理由がやっとわかったような気がした。
「今は国中の神父や神官を集めてオリーヴの病を食い止めようとしているんだが……」
ステファンの表情が苦しげに歪んでいる。
恐らくオリーヴの状況は、あまりいいものではないのだろう。
シュバリタイア王国には悪魔の宝玉があるせいで、悪魔や呪いが集まりやすい。
だからこそ聖女たちの力や悪魔祓いの知識が発展したのだと言われている。
そして女神シュバリタリアの血は貴族たちに脈々と受け継がれているが、他国では悪魔はそこまで身近なものではない。
教会に縋ったり、悪魔祓いをしたりするそうだが、大抵はなす術なく、呪い殺されてしまう。
それが悪魔の仕業だと気づかぬまま……。
「そんな時に君がセドリックから婚約破棄を告げられて、国外追放された……フランソワーズ嬢が国を出るつもりだと知って、力を借りたいと思った」
「……!」
「だからこそ強行手段に出たというわけだ」
今までの経緯を聞いて、フランソワーズは不自然な彼の態度の理由を理解することができた。
「初めからそう言ってくださればよかったのです……!」
「このことは伏せているんだ。人に聞かれるわけにはいかなかった。それにあの場で君に納得してもらう理由を話す時間が足りないと判断したんだ……それに他国で好き勝手するにも限度はあるだろう?」
「そうですが、いきなりだと驚きますわ……!」
「それに関しては、本当に申し訳ないと思っているよ。必死だったんだ……それに君も平民として歩いて国外に行くのは大変だろう?」
「……!」
ステファンはフランソワーズの状況を知った上で話しているのだろう。
場を和ませるためなのか、ステファンはニコリといつものように笑みを浮かべた。
「そして今、フランソワーズ嬢は僕の呪いを抑えてみせた。その力でオリーヴを救ってほしいんだ」
「……え?」
「オリーヴのために、力を貸してくれないか?」
ステファンは真剣な表情でフランソワーズを見つめている。
(自分よりもオリーヴ王女殿下を救ってほしいということ?ステファン殿下も呪いに苦しんでいるのに……)
フランソワーズは当然のように自分の名前を出すことなく、オリーヴを救ってほしいという彼の言葉を不思議に思っていた。
「ステファン殿下はいいのですか?」
「……?」
「オリーヴ王女殿下と同じで、呪いを身に受けているのですよね?」
するとフランソワーズの言葉の意味を理解したのか、ステファンは小さく笑った。
「誘拐のような真似をしておいて、頼める立場ではないからね。それに君は……自由になりたかったのだろう?」
「……!」
「あの時、表情一つ変えなかったフランソワーズ嬢が嬉しそうな顔をしていた。それを僕が邪魔してしまったんだ」
ステファンはこんな時にでもフランソワーズの気持ちを優先しようとしてくれているのだろう。
(自分がこんなにも苦しんでいる時に、他人を気遣う言葉がでるかしら……)




