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シュバリタリア王国のように『聖女』はいなくとも、悪魔を祓う『悪魔祓い』が、いるということはフランソワーズも知っていた。
教会にいる神父にもその力があると聞いたことがある。
「……できなかったんだ」
「できない? 何故でしょうか」
「とても強い悪魔だったらしく、誰も祓うことができなかった」
「……!」
「シュバリタイア王国の聖女に来てもらったこともあったんだが、解決することはなかった……王家にも力の強い聖女は国の外に出せないと断られていたんだ」
「力の強い聖女、ですか?」
「ああ……王妃陛下にも長い時間、国を離れさせるわけにはいかないと言われてしまった。守るものがあるから、と」
フランソワーズには、それが宝玉を守るためだとすぐに理解できた。
それと何も利益はないはずなのに、ステファンがセドリックと表向きだけでも懇意にしていた理由がわかったような気がした。
(シュバリタリア国王は何故フェーブル王国に力を貸さなかったのかしら……王妃陛下なら悪魔を祓えるはずでは?)
もし悪魔を祓えたら、大国のフェーブル王国に大きな貸しを作ることだってできたはずではないだろうか。
彼らがそれをしなかった理由が気になっていた。
それとシュバリタリア王国で、もっとも力が強い聖女であるはずのフランソワーズに声がかかったことはない。
(シュバリタリア国王がフェーブル王国に力を貸さなかった理由は何……?)
考えても答えは見つからない。
シュバリタリア王国はフェーブル王国に隣接しているが、国土は五倍ほど。
いつフェーブル王国が攻め入ってくるのか怯えて対策を講じていたが、そんな話も聞かなくなった。
(まさか……内情を知った上で失脚を狙っているのかしら)
シュバリタリア国王たちの考えはわからないが、色々な思惑が重なっているような気がした。
「今日までなす術なく、僕たちはただ耐えるしかなかったんだ」
そう言った瞬間に、ガタガタと大きく揺れる馬車。
窓から見える景色はいつの間にか真っ暗になっていた。
フランソワーズは馬車の揺れに耐えるために壁に掴まるようにして身を寄せる。
「フランソワーズ嬢、大丈夫か?」
上半身が露わになったまま伸ばされるステファンの逞しい腕。
しかしシャツの隙間からは鍛え上げられた肉体が露わになっている。
目のやり場に困ったフランソワーズはバッと視線を逸らす。
自分の今の格好に気がついたステファンは申し訳なさそうに咳払いをして、シャツのボタンを閉めていく。
「……すまない」
「い、いえ……」
気まずい雰囲気の中、話を続けるためかステファンは咳払いをする。
「妹は幼い頃、突如として不治の病に侵されたんだ」
「……王女殿下が?」
フランソワーズもステファンの妹、オリーヴが病弱であることは知っていた。
表舞台に出てくることはないオリーヴ。
そして先ほどステファンが『オリーヴを救える』と言っていたことを思い出していた。
「オリーヴの病をどうにかできないかと、治療法をずっと探していた。城の地下にある古い書庫にヒントがないかと思っていたのだが……」
「……」
「ある本に触れた途端、僕までこのようになってしまったんだ」
「まさか、その本が?」
「ああ……そうなんだ」
最初はアザか汚れかだと思ったそうだ。
徐々に広がる奇妙なアザを見て『悪魔の呪い』ではないかという結論に至ったそうだ。
そして後々、わかったことだそうだがオリーヴも病にかかる前、書庫に忍び込んで遊んでいた際にその本に触れたことがあるということだった。
「その本は今どこにあるのですか?」
「城の地下室に誰も触れられないようにしている」
「……!」
フランソワーズはそれを聞いて眉を顰めた。
地下にあるということは、本は光に触れていないということだ。
それに闇にあるほど、悪魔の力が強まってしまう。




