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しんく

降ろされたところがどでかいお屋敷だった。どっかのお城? いや、これは旅館だ。ばーちゃんが一度だけ連れていってくれた超高級な旅館。料理も美味しかったよなあ。ワンピよりも絶対に着物が似合う。


「小笠原様ですね。入りましたら右手にお進みください。女の方にはそちらでお待ちいただいております。」


男女分かれるってことか。

手続きしてくれたらしい賢人さんは牛とともに帰って行った。

マジで身代わり、いいんかいな。

履いてきたヒール高めは全く意味がなかった。学生っぽい白いハイソックス。

ストッキングはないのかって賢人さんに聞いたけれど伝わらなかった。この世界にストッキングがないのか賢人さんが知らないのか。


角に立つ案内の人に導かれるまま到着した部屋は当然畳の部屋だった。和室にピッタリの細長のテーブルが等間隔にたくさん並べられている。


「こちらです。」


部屋にはすでにたくさんの人がいて、それぞれに着飾っている。着物の人もいる。


「隣、よろしいですか?」


『小笠原』というのはどうやらいい家柄らしい。引け目を感じる必要もあるまいと堂々と見知らぬ女の子に声をかけた。といっても本能的に話しかけても大丈夫そうな子を選んだのは確かだ。自分と似たようなワンピースに品の良さそうな真紅のリボンの髪飾り。


「織田笑実(エミ)と申します。どうぞよろしく。」

「小笠原清華と申します。似たようなリボンなんです。親近感がわいちゃって。」


織田さんに自分の頭の後ろを見せる。

織田さんのリボンの方が深い紅色だと思う。


「本当ですわね。ワンピースも。まるで色違い。好みが似ているのかしら。嬉しいわ。」


私は濃紺、織田さんのは深緑。

奇抜なデザインではなくこれぞお嬢様ってのを選んだ。


「小笠原さんということはすでに学院の生徒で決まりですわよね。私の家、織田も無試験ですの。同級生ですね。」


へーー。


「学院では寮に入りますの?」


寮?


「あ、どうでしょう。ちょっと…」

「そうですわよね。私は家が尾張ですからどうしても寮になりますけれど、小笠原さんの家はこの近くですもんね。」


尾張って尾張名古屋のこと?

ひょっとして地名は昔のものが使われているということか。

そして『小笠原』という苗字は相当有名ってこと?


「失礼いたします。粗茶でございます。」


お茶と可愛い和菓子が置かれた。多分落雁だ。一度だけ食べたことがあるお菓子。ばーちゃんが高価なものだからゆっくり食べろって言ったっけ。でも落雁は口の中ですぐに溶けてしまったけれど。


「今しばらくお待ちください。」


完全に仲居さんだと分かる服装の、でも多分私よりも年下の女の子はそそくさと下がった。身分制度でもあるのかな。だとしたら小笠原ってラッキー?


「学院ではどんなことを学ぶのでしょうねえ。それだけが少し不安で」と織田さんが落雁を食べだしたので私もそれに倣う。


「うん、おいしいわ。さすが京の都のものだけあるわ。尾張にも持ち帰りたいけれど無理かしら。」

「ほんと。おいしい。」


口の中でふわっと溶けて広がる。

幸せ気分に浸っている時だった。


「ちょっと、ボーッと突っ立ってないでよ。邪魔よ。」


誰かが誰かに怒鳴りつけた。

あれ?

ここが選考会場の待合室だというのなら変なことしない方がいいんじゃん?

ドタッという音がしたから誰かが倒れたらしい。すでに人垣が出来ていて座っている私たちからは全く見えない。


「ちょっと、わざとらしく倒れるんじゃないわよ。まるで私が悪者みたいじゃない。」


なかなか。

見事ないじめだなあ。

ついどこで起こっているのか見たいと思って腰を浮かせようとした時だった。


「多分試験の一つよ。このまま、何もなかったようにしているのがいいわ。」


隣で織田さんが落ち着き払っている。


「将来の皇后になるかもしれない人を選んでいるんですもの。ちょっとやそっとのことで動じるような人は落とされるのよ。」


なるほど。

人垣の中ではまだ争いが続いているみたい。

そんな時だった。


「小笠原様、織田様、こちらへ。」


黒いスーツを着た人が私たちの前に跪いた。


「試験終了よ。」


奥の方でも座ったままだった女の子が黒服の人に誘導されていた。


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