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はん


「出来立てではないので冷たくて申し訳ありません。温め直そうにも台所には誰もいなくて。」


ちょっと長い時間かかったけれど、賢人さんが部屋に戻って来てくれた。

その間、私はこの部屋のことを物色していたんだよね。

縁側があって、外に広がる景色は和風庭園そのもの。奥には山。

遠足は確かに登山だったから山があるのは当然か?

床の間ってのもあって、掛け軸は水墨画、生け花もある。

この家、多分お金持ち。

だって何よりもこの部屋がとても広いもの。

もともとはこの部屋は四部屋分だということ。区切れるように敷居もある。

襖は真っ白。変に何か描かれているよりもいいのかも。


て、なんですか? このご飯。

まずはご飯の出され方。

器がね、どこかで見たことあるよなあって思ったら、お(ひな)さんの御膳(ごぜん)だ。

ばーちゃん家に飾ってあった七段飾りっていうヤツの下の方に置かれてた。

でもそれに比べて出された食べ物は質素。冷えたご飯、というか麦? と漬物と汁だけだった。

いや、出していただけるんだからそれだけで感謝感謝。

早速食べさせていただこう。


「いただきます。」


ジャージのまま正座した。


「おいしい!」


冷たいけれど、そういえばこれが私にとっては今日の初ご飯だ。

朝ご飯はなかったし、昨日の夜台所からくすねて作っておいた小さなおにぎり一個も落とされた拍子にどこかに行ってしまったようだし。


「あ、すみません、私だけいただいてしまって。」


賢人さんがジーーッとこっちを見ていたのでとりあえず謝った。賢人さんもお腹空いてたかな。


「あ、いえいえ。ご飯の時間ではありませんので。それよりも、お箸の使い方、お上手ですねえ。」

「あ、そうですか。恐れ入ります。」ばーちゃんが厳しい人だったからなあ。

「それに言葉遣いも丁寧ですねえ。ひょっとしてどこか高貴なお家のご出身でしょうか。苗字もお持ちのようですし。」


「いえいえ、一般人です。」どちらかと言われれば、というか底辺部類だと思いますが。


「あの、ちなみにですが、今着てらっしゃる服は何ですか?」

「これ? ジャージと言います。今日は遠足だったので。今年は中3で修学旅行ももう行ったのに、なんでかまた京都の嵐山に登山ですって。」

「あ、えっと。ごめんなさい、よく分からないです。もっとちなみに何ですが、あなたは普段、そういった西洋風の服でお過ごしですか?」


え? 西洋風?


「今、私が着ているスラックスやシャツは馴染みのあるものですが?」

「ああ、はい。」


賢人さんはサラリーマンが上着を脱いだような恰好だ。ネクタイはしていないけれど。


「もっともっとちなみにですが、あなたはこの日本の伝統衣装の着物を着ることは出来ますか?」

「あーー、着たことはあります。」

「着たことがある。なるほど。でもまあ試す価値はあるかな。やってみるか。」


それからは問答無用だった。

お風呂に連れていかれ可愛らしいワンピースを渡された。

出てきたら髪を結われアクセサリーを付けられた。

多分これ、晩餐会ってヤツにここの娘さんの代わりに出席させられるってヤツだな。で、場合によっちゃ、皇后って言ってたから天皇様のお后様コースってことか。


うん、これは絶対に異世界転生ってヤツだな。でなきゃ、川に落とされた時に頭打ってまだ夢の中か、なんならもう死んでいて輪廻転生したのかも? 赤ちゃんからじゃないから、輪廻はしてない? となると異世界転生。日本語が通じるから日本だよなあ。時を飛んだ? えっと、何時代?


考えている間に今はすでに牛車(ぎっしゃ)の中。

牛車って分かる?

牛が屋台みたいなのを引いてるの。ギーギーって。


「時間がありませんので少しだけ説明させていただきますね。

今日、ちょっとした集まりがありまして、小笠原家の娘として出席していただきたいのです。

隠しても仕方ないので率直に申しますと、実はこの家の娘さん、今朝ちょうど家出しちゃいまして。

今日の集まり、実は集団見合いみたいなもんでして。それが嫌で。」


なるほど。


「それで今日出会うどの男性と懇意になっていただいても構わないのですが、一つだけ。皇子様方とは接触を避けてください。もしも皇子様方に覚えられてしまうとちょっと色々と厄介になります。」


後宮に行くことになっちゃうってことかな。


「それと今日は最終選考も兼ねておりまして。」

「最終選考?」

「はい。小笠原家にとっては選考など関係なく最初から人数に入っておりますので立ち居振る舞いなどは気にしなくてもいいのですが、その立ち居振る舞いが出来ない人も混ざっております。選考されました後、様々な事を身に付けていくことになりますのでどうか寛容な目で見守ってください。」


私もそういう立ち居振る舞いは出来ないよ。


「そろそろ着きます。」

「あの、」

「はい。」

「お嬢さんはおいくつなんでしょうか。私なんかが代わりに出て大丈夫なんですか? 後で代わるつもりなんですよねえ?」

「そこら辺はお気になさらず。いざとなれば小笠原家の名前を振りかざしてあなたを小笠原家の養女として迎え入れますので。」

「はあ…。」

「まあ、なんとかなりますよ。小笠原清華と名乗ってきてください。」

「せめてそこはお嬢様のお名前で出るべきでは?」

「でもお嬢様と清華さんでは身長から違いますから後から入れ替わるというのは無理な話だと思うんですよ。」


それ、入れ替わらせる気あります?


「それで、今日のが終わりましたら速やかにお宅の方にお送りいたします。ですが先ほどあなたが言われた『ギフケン』というのが分からなくて。どこのハンの村の名称でしょう。探しますので。」


おめでとう。

絶対異世界だ。



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