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ふわふわ

聞きなれない男の人たちの声がすると思った。

校長と教頭?

私、川に落とされたよね。

助けられて今どっかに寝かせられてる? それにしてはフワフワの布団だ。

遠足のバスの駐車場にフワフワな布団があるわけがない。ひょっとして救急車で運ばれて病院?

それにしてもフワフワだ。


薄っすらと目を開けてみると声の主は二人で、一人が私に背を向けた状態でもう一人がその男性に向かい合うように座っているようだ。

私の位置からは両方とも顔が見えない。


「まだ目覚めぬか?」

「はい。こればかりは焦られましても。それにこの人をお嬢様の代わりに晩餐会へ出席させるというのは、私としては賛成しかねます。」

「どうせ今日のは立食だし参加者も多い。皇子とは決して接触せぬようにとよく言い聞かせれば大丈夫だろう。誰かが行けばよいのだ。」

「しかしそうは申されましてももしお嬢様がお戻りになった時、」

「アイツはそういうのが嫌だったから家出したんだろう。仮に戻って来ても宮中には行くまい。この娘が望んで宮中に入ってくれれば正式なウチの娘として、小笠原の娘として、皇后の座に付けることも難しくはないんだがなあ。決して悪い話ではないと思うんだがなあ。何が気に食わんで家出なんぞ。」

「まあ、幸せの価値観は人それぞれです。」

「だからまあ、娘がどこか別のところで幸せに暮らすというのなら特に反対はせんよ。居所さえ分かれば。」


物わかりのいいお父さんなんだなあ。


「いや、それにしたってこの人にだってご家族がいらっしゃいますでしょうし。」


ああ、私の家族ってこと?

たいした家族じゃないから別にいいよ、気にしなくて。


「お前はこの奇妙な恰好をした娘の素性に心当たりがあるのか?」


き、奇妙?


「いえ、それについては全く。ひょっとしてどこか別の国から来たのでは? おとぎ話にある月からとか。」


かぐや姫ってこと?


「それなら最初から綺麗なおべべ着とるやろ。」


おべべって着物って意味だっけ?


「なら桃から。」

「そんなら男。」

「そっか。」


なんだこの二人。年の差や身分の差がありそうな気がしたけれど案外仲良し?


「ひょっとしたらどっか山の奥から逃げてきたんじゃ? 先住民族とか?」


先住民族?

アメリカのインディアンとかオーストラリのアボリジニとかってこと?


「落ち武者って言いたいですか?」

「ああ、それそれ。」


なんか、コント聞いてるみたい。


「まあいい。とりあえず気がついてからか。ちょうどウチのバカ娘が家出でしたのと同じタイミングでやってきたから、天の神様のお恵みかと喜んだけれど、未開の地の先住民ならこの小笠原家の娘として宴に参加させるわけにもいくまい。」


男の一人が立ち上がってトボトボと歩いていく。

襖がきちんと閉まるまではちょっと時間がかかった。

重苦しい雰囲気の中、背を向けて座っていた人がおもむろに私を見た。そして目が合った。


「うぉっ! お目覚めでしたか。」

「あ、まあ。驚かせてすみません。」


身体を起こした。


「あ、起き上がって大丈夫ですか?」

「大丈夫みたいです。あの、それよりもここはどこでしょう。」

「ああ、ここは小笠原様のお屋敷になります。私は小笠原家の使用人の賢人(けんと)と申します。すみませんが、そちらは?」


あ、そうよね。名前ね。


「私は桜井清華(きよか)と申します。あの、助けていただいたのでしょうか?」

「まあ、そうなりますねえ。あなたを見つけた人によりますと川辺で倒れていたそうですよ。そこが小笠原家の敷地内でしたのでこうして運ばせさいただきましたが。」


が?


「どちらからおいでになったのですか? その、見たことのない服をお召しなので。」


ジャージのこと?

確かに緑ジャージでカエルとか呼ばれていたけれど。


「あの、中学からの遠足なんですが。岐阜県からになります。あ、だから駐車場に戻らないと。私、どれくらい寝てました? さすがに行方不明だと捜索願いとか出されているのかしら。それとも私のことを置いてバス、帰っちゃったかしら。」

「……」


賢人さんは絶句してしまったようだ。何か変なこと言ったかなあ?


「あ、えっと、何か食べられるものをご準備いたしますね。それまでどうか寝ていてください。」

「あ、えっと、ん?」


いやいや、でも私、遠足の集合場所に行かないと。

でもなあ。色々違和感しかないんだよなあ。




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