サクラサク
「春が来るね」
「うん」
ほんの少しの沈黙のあと、ぼくらはどちらからともなくお互いの手を握った。
ただひとつ確かなことは、ぼくらが揃ってこの日を待っていたということだ。いつからかなんて覚えていない。すでに両手の指じゃ数え切れないほど、気の遠くなるような長い時間が経っていることだけは確かだけれど。はじめて小さなつぼみが芽吹いたあの日も、まだ寒さの残る朝にやわらかな花びらがゆっくりと開きはじめたその日も、それが何月何日だったのかは思い出せないけれど、だけどぼくらはその過程をすべて見てきたんだ。
「明日も晴れるかな」
「うん」
ふと、すべての音が聞こえなくなった。
瞬間、激しい風がぼくらを巻き込んでいく。身構える間もなく、視界が一面桃色に染まった。ぼくらの繋いだ手が、風に弾かれて離れてしまう。やがて桃色の渦から吹き出された僕に残されたのは、どこまでも続く青い空と、かすかに残ったあの手の温かさだけ。
気がつくと、見たことのない地面に伏せていた。ぼくがたくさんの時を共に過ごしたあの桜の木は、もうどこにも見当たらなかった。
「明日も晴れるかな」
どこかで君の声がする。
「晴れるよ、きっと」
そう小さく呟いてみた。
ぼくはもう、ひとりで歩いていかなくちゃ。