運命
「どうでしょう、本当に本当に事件は起こるのでしょうか?」
少しの静寂の中女将さんが今にもちぎれそうな布を紡ぐように言いました。
「まあ現実的ではないと言わざるを得ない気もする、テレビ番組などのドッキリを疑った方がまだ賢い気もしてしまうな、」木原少年が口を開きました、どうでもいいのだけれど、彼は初対面の人ばかりだというのに見た目年上ばかりだというのに、敬語をつかわないのでしょうか?
私なんて三歳のころから敬語を使って自らを警護していたものです。見た目通りの無愛想さがあって逆に可愛げはありますが。
次に田畑さんがそれに反射するように口を開きました。
「いやどうなのでしょうか、拳銃がここにあると全くもってここが安全です。と言い切るのは逆に現実から目を背けているような気もしますが、」
「まだ本物かどうかも検討がつかないじゃないか、あなたは警察官か何かなんなのか、もしくは、、」
さすがに言いとどまったようです。
それは正解でしょう、もしここで、「あなたが犯人ってことなんじゃ」なんて言おうものなら五人しかいないこの場に一人敵を作ることにもなるし本当に警察官だったら笑えない、自分がこれからの話し合いで真っ先に疑われかねません、やはり見た目通りのずる賢さが彼にはあるようです。
「いえ、もしこの銃が偽物であるとするならば、唯のいたずらってことですよねただのいたずらだの唯のドッキリだのに勝手に人の家の一部を改築したりするのでしょうか?」
私は田畑さんのこの発言に少し違和感を感じました。
が私もおおむね彼女の意見に賛成でしたのでとくにここはつっこまないで賛成しておきましょう。
「私もそう思います。ですが同時に犯人の要望を鵜呑みにして一人話し合いで疑わしき人物を決めてここに放置するというのはあまりに危険な感じもします。
とりあえず、今日という日が終わるまではまだ12時間近くあるので、
後手に回ってばかりというのは承知でいったん出方をうかがうというのはどうでしょう?」
「なるほどということはここはいったん解散ということでよろしいですか?」
最後を締めたのはこの日自己紹介以外で一度も口を開いていない本田さんだった。
私たちは心も肉体もバラバラに部屋へと帰った、私は雪道ということもあり外を動くのがそこまで得意ではなかったので最後に帰った。
ちなみに、この大神の館の造りとしては割ときれいなL字を横にしたような形で五部屋あり玄関に入るとすぐそこに応接間、まっすぐ廊下を行くと食堂とキッチンの順番に奥に続いており、廊下をそのまま進んだ先のL字の突き当りを右に進み左手側すぐに私の部屋があります、そこから道なりに進めばほかにも左手側に一部屋と右手側に三部屋の客間があり最奥に風呂場その手前に、自動販売機と男女共用のトイレがあります。
客間の内装自体はとても簡素でいわゆる和室、中央にちゃぶ台と部屋のドアから見て奥の左端の角にカードを入れなくてもつかえるテレビそれに私の感性では少し安っぽく見える水墨画が左端の手前角にありそれ以外には布団の入った押し入れのみで特筆すべきところは少ないように感じました。
そんな部屋につくと、とりあえず犯人探しにはまだ情報が少なすぎると感じ何か起きるまで座して待とうかななんて考えていました。ですが、先ほどの会話で私以外の部屋にそれぞれだれが住んでいるかを把握できていなかったのは少し失態かもしれないを思い直したので部屋の荷物を確認した後、自動販売機で飲み物を買うふりをして少し探りを入れようという考えに至りました。
部屋のドア付近を確認しながら自動販売機まで行くと、大男本田の後ろ姿がありました。どうやら彼は見た目によらず三ツ矢サイダーを買うようです、学生以外でサイダーを買うのは駄菓子屋のおばちゃんかゴミクズくらいだと思っていたのでまことに驚きましたが、とりあえずつんけんする意味もないので、
「こんにちは!何か変わったこととかありません?」私が聞きました。でも何だろうなぜか雰囲気が違う感じがします。
「いえ、特にないですね!上狼塚さんの方は順調ですか?」
「えなにがでしょうか?」
「私はこれでもちゃんと占い師をやっています大抵のことは見てきたもんです。」
「みてきた?」まさか私の職業に対して言っているのでしょうか?いやそんなはずはない私は普段は安楽椅子探偵をしており、素顔をさらすことはほとんどありません。それに明智という苗字も偽名であり占い師などがつける胡散臭い名前なんかよりも数段根拠を持たずして作った使い捨ての名
そこからあてたというのでしょうかこの男は、いや今の探りだけで感づかれたのでしょうか?
どちらにしても化け物と形容せざるを負えません。だがなぜなのでしょう、この見透かされるような感覚初めてではないどこか懐かしいそんな感じがします。普段こんなことをされたら気味が悪くて気持ちが悪くてたまらないはずなのです。でもなぜか少しほんの少しだけれど彼に言われると温かい気持ちになってしまうのです。
なぜなのでしょう?それに見てきた?
そこで黙って考え込んでいると、ハッとし話題を変えようと本来聞きたかった質問をぶつけました。
「本田さんのお部屋はどこなのでしょう?」
「ああ、あなたの部屋の向かい側にある三部屋のうちの真ん中の部屋ですよ。」
「私の部屋の場所を知っているんですね、」入っているところでも見られたのでしょうか?
「ハイ知っています」彼はそう聞くのが分かっているみたいに新人の声優張りに答えました。
「なるほど、、」
「三ツ矢サイダーおいしいですよね」
嘘をついた。大人になってもこんなあまったるい飲み物を飲むなんて珍しいですねとそうおもっていたはずなのに、普段の私ならば態度を見ればすぐにお世辞だとわかるようなことは言いません、
でも言葉としました。心で今、
「まあね」
彼は仕事の終わったSiriみたいに簡潔にこの場を後にしました。
彼がいなくなり自分の部屋に入るのを見てから、私は三ツ矢サイダーを買った、それを足を上げて手を伸ばして拾い上げた