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01:当店のウリは猫とご飯です


「店長、ちょっと時間いいスか。あと、コシュカも」


「ん? いいけど、何かあった?」


「私も構いませんが」


 カフェの閉店時間を少し過ぎた頃。

 最後の客を見送ってから、どこか深刻そうな顔をして声を掛けてきたのはグレイだった。


 掃除を始めようとしていた手を止めて、俺はコシュカと共に彼のところへ歩み寄っていく。

 その手に持っていたのは、カフェのメニュー表だった。


「新しいメニューの考案をしようと思ったんスけど、どうにも普通の店で出るようなメニューばっかになっちまうなって。せっかく猫カフェやってんだから、ここでしか食えねえようなモンが出せたら良くないスか?」


「ミャウ」


「ほら、副店長も同意してくれてるんで」


「ヨルさんは単純に夕食の催促をしているのだと思いますが」


「グレイの料理は美味いから、普通の料理でもお客さんは喜んでくれると思うけど……確かに、そういうのって考えてみる必要あるかもな」


 二人と一匹のやり取りを耳に、俺は改めてメニュー表に視線を落とす。

 グレイの言う通り、確かにありきたりと言われればどこでも食べられるようなメニューばかりが揃っている。


 今は相棒となった鍵尻尾の黒猫・ヨルと共にこの世界にやってきてから、俺はとにかく猫に対する見方を変えようと必死だった。

 害をなす魔獣として恐れられていた猫たちも、今ではすっかり元の世界と同じように、人間に可愛がられる存在となっている。


 俺が自分のやりたいことに注力できるのは、ほかでもない。従業員として支えてくれるコシュカと、調理関係全般を担ってくれているグレイがいてこそだ。


 だが、所詮はただの元サラリーマン。

 店の経営などしたことがなかったので、そんなところにまで頭が回っていなかった。


「味の保証はされているので、見た目にこだわってみるのはどうでしょうか?」


「見た目かあ。猫の形した野菜とか、肉球とか可愛いよな」


「猫の形って……こういうことっスか?」


 カウンターに置かれていた紙とペンを手に取ると、グレイは猫の顔の輪郭を描いてみせる。


「そうそう。俺のいた世界では、結構いろんなのがあったよ。肉球を模したお菓子とか、猫型のご飯とか」


「猫が好きな方が来てくださるので、そういうのは喜ばれそうですね」


「なるほど、見た目……猫の形っつーなら、模様も多種多様だし、食材で工夫していろんな色もつけられそうっスね」


 何かアイデアが浮かんでいるのか、俺とコシュカの言葉を聞いたグレイは口元に手を当てて、何やら考え込んでいるようだった。


「明日は定休日だし、ちょっと試作してみます。っと、その前に副店長たちのメシ……!」


「ミャオ」


 相談している間に、腹を空かせた猫たちがじりじりと俺たちを取り囲んでいることに気がつく。

 慌てて調理場へと姿を消したグレイが猫たちの夕食を大きなトレーに乗せて戻ってくると、ヨルのひと声を合図に猫たちが飛び掛かっていくのが見えた。


 掌サイズの掌猫(カップキャット)の群れを中心に、身体中に猫たちをぶら下げて歩くグレイの姿はもう見慣れた光景だ。


「それでは、私はそろそろ失礼します。……メニューの試作、楽しみですね」


「ああ、ウチの自慢の料理人が考えてくれるメニューだからな。俺も楽しみだよ」


 赤い髪に隠れて見えないが、コシュカの口元は少しばかり緩んでいるような気がする。

 掃除と片付けを終えた俺たちは普段通りだったが、その晩のグレイは遅くまで調理場に立っていたようだった。


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