表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/142

track.97 謎の美少女の正体

 日本の神の中の神、アマテラスの降臨によって、矢須 汐里こと九尾の狐の企みは打ち砕かれた。

 戦いは終わった……。だが、どうやら毘奈と霧島の何かに火をつけてしまったようで……。 



 僕は来るべき文化祭の日が訪れるのを、指折り数えて……いや、頭を悩ませながら待った。

 だがとりあえず、僕らは今までと同じ普通の日常を過ごせていたわけで……。



 そんなこんなで、運命の文化祭はあと半月後に迫っていた。

 僕と霧島はといえば、軽音部の出し物であるライブイベントの準備に大忙しだ。

 クラスの方はって言うと、相変わらず僕は変な二つ名のせいで腫れ物扱い。最近じゃ、誤解の解けてきた霧島より酷いんじゃないかって懸念もある。

 毘奈は毘奈で、クラスの出し物と陸上部の屋台の掛け持ちで大変そうだった。

 


 そんな一大イベントが差し迫る束の間の休日、お昼過ぎになって突然毘奈の呼び出しがかかった。

 どうやら、今日は霧島も一緒にいるらしい。半月後に迫った決戦前に、二人で女子会だろうか?



 ――とにかく、吾妻に見て欲しいものがあるんだよ! 早く来て!」



 何なんだよ、こちとら久方ぶりに一人の時間を満喫していたというのに。



 僕は最寄り駅の駅ビルに入っている、カフェ付近に呼び出される。

 僕が首を傾げながら約束の場所に行くと、毘奈がニンマリしながら大きく手を振ってきた。

 隣に霧島もいたが、心なしか彼女も嬉しそうに微笑んでいる。



 「よく来たね、喜べ吾妻! 今日は私たちのとびきり可愛いお友達を紹介するよ!」

 「は……え? お友達って、霧島とも……?」

 「ええ、そうよ」



 なんだなんだ? 僕に可愛い友達を紹介って、訳が分からん。

 反応に困っている僕を尻目に、毘奈はカフェの中にいたその可愛い友達とやらを呼ぶ。



 「おーい! アッカリちゃーん! もう出てきていいよー!!!」

 「え……アカリちゃん?」



 すると、カフェの中から緊張した面持ちで、見知らぬ小柄な女の子が出てきたんだ。

 その女の子は、肩まで伸びたサラッとした美しいな髪を(なび)かせ、愁いを帯びた目元、潤んだ唇をしていて、小綺麗な花柄のワンピースを着た可愛い女の子だった。

 いや、霧島と毘奈の隣に並んでいても全く見劣りしない、まさに美少女じゃないか。



 「あ……その、毘奈、霧島……こちらは、どういうお知り合い……?」



 毘奈と霧島は、ニンマリするばかりですぐに答えようとしない。

 女の子は、余程僕と話すのが恥ずかしいのか、目を泳がせながらアワアワしている。

 毘奈も霧島も、良くも悪くも恥じらいとかとは無縁だから、たまにはこういうのもいいもんだ。

 僕はこの花も恥じらう可憐な女の子に、照れ臭さを感じつつも挨拶をする。



 「あ……あの、ぼぼ、僕は那木 吾妻っていうんだけど、よよよ……よろしく」



 ああ、緊張してるの丸出しのお恥ずかしい挨拶だった。

 しかも、その子は酷く顔を赤くして、またもや口ごもってしまうんだから。



 「あああ……えーと、ごご、ごめん。なんか気に障る事でも言ったかな……?」



 僕が滅茶苦茶狼狽えながら弁解すると、ついに我慢の限界を超えたのか、毘奈と霧島が吹き出したんだ。



 「あは……あはははは!! 吾妻マジ受ける! ね、やっぱり吾妻気付かなかったでしょ?」

 「ぷっ! ごめんね、那木君。天城さんが、どうしても試してみたいと言うものだから」



 僕はこの状況を理解できず、お腹を抱えて笑う二人の顔を見回す。

 毘奈は笑いを堪えながら僕の肩を叩き、タネ明かしするように言う。



 「ねえ吾妻、まだ分からない? うちらとしては大成功だけどさ、吾妻も良く知ってる子だよ」

 


 そういえば、このヤバいくらいシャイなのと、重症なくらいコミュ症なのはもしかして……。



 「ひょっとして……赤石……?」



 その子は、滅茶苦茶顔を真っ赤にして、コクコクと数回肯いて見せる。

 しかしながら、これは本当に騙されたぞ。だって、赤石といえば、コミュ症でおさげで元引きこもりの、お世辞にも可愛いなんて言えるような女の子じゃなかったし……。



 「だから言ったでしょ? ヒカリンはダイヤの原石なんだって! ちょっとメイクして、オシャレするだけでこんなに可愛くなっちゃうんだもん!」

 「本当ね、天城さんの見る目には恐れ入ったわ」

 「そそそ……そんな事……私なんて……」



 べた褒めする二人とは裏腹に、赤石は今一自分の変化に実感が伴わない様子だ。

 赤石がそんな感じだから、毘奈が溜息を吐いて僕に同意を求めてくる。



 「仕方ないな、ヒカリンは。それじゃ吾妻、今のヒカリンを見て、正直どう思った?」

 「え……ああ……そりゃ、普通にすげー可愛い子だな……と……って、あれ?」



 僕のあまりに正直な反応に、毘奈と霧島は口を開けて凍りつく。

 当の赤石はというと、沸騰してしまったんじゃないかってくらい赤面し、あろうことかその場から走り去ってしまったんだ。



 「え……赤石!?」

 「ちょっと何やってるの吾妻! ヒカリンは免疫ないんだから、言い方ってもんがあるでしょ!?」

 「な……俺のせいなの?」

 「那木君、とにかく赤石さんを追いかけて!」

 「え……ええー!!??」



 何なんだこの展開? とにもかくにも、僕らは手分けして赤石の行方を捜した。

 とはいったものの、正直僕が一番最初に見つけてしまったら、どうしろっていうんだよ。

 慰めるのか……? 諭すのか……? どうしよう、全く言葉が見つからない。



 「あ、赤石……!?」

 「な、那木さん……!?」



 と思ってる傍から、僕はトイレの近くで赤石に鉢合わせてしまう。

 本当に、僕ってこういうタイミングの悪さだけは、持ち合わせてんのな。

 さっきみたいに、またどっかへ逃げちゃうんじゃないかって思ったよ。

 でも、赤石は……。



 「すみません、急に逃げ出して……」

 「あ……ああ、別にいいよ、そんなの」



 赤石はぺこりと頭を下げて、恥ずかしそうに謝ってみせた。



 「私、本当は嬉しかったんです。可愛いマリちゃんとヒナちゃんの隣に、私なんかがいていいのか、いつも不安だったから」

 「考えすぎだよ。少なくともあいつらは、そんな目で人を見たりはしない」

 「ですが……私は元引きこもりで、コミュ症で……」



 あ、自覚あったんだ……。

 だけど、僕はもう赤石がただの元引きこもりのコミュ症だなんて思っちゃいない。

 赤石は霧島が窮地に陥った時、一番最初に彼女を守ろうとした気高い人間だ。



 「僕も霧島も、お前があいつを必死に守ろうとした事を決して忘れない……」

 「那木さん……」

 「僕からもお願いするよ。どうかこれからも、あの二人のいい友達でいてくれないか?」



 赤石は僕の目を見てハッとしていた。

 いけない、これはまずいと思ったよ。こういう悪い予感はよく当たるんだ。

 彼女の頬をきらりと涙が伝っていた。



 「あ……赤石!?」

 「ず……ずるいです。那木さんは、そうやって女の子を(たぶら)かして……いるんですね!」

 「え……ええぇー!?」



 一体、何で僕は赤石に責められているのか……。そういえば、前から僕にだけ風当たりが強かったよな。

 


 「すいません。やっぱり、那木さんはあの人にそっくりなんです……」

 「あの人……?」

 「私、オンラインゲームをやっているんですが、昔パーティーメンバーだったお兄さんにそっくりなんです」



 赤石 光は心優しい両親のもと、幸福な家庭で何不自由なく育ったごく普通の女の子だ。

 いや、お世辞にもごく普通なんて言うにはかなり無理があった。

 彼女は重症なほどシャイなコミュ症で、控えめに言ってもトロくてどんくさかったのだ。

 そんな彼女が友達を作りたくて始めたのが、オンラインゲームだった。



 「あの人は、普段はひねくれてるクセに……私が落ち込んでる時は、何気なく励ましてくれたり……勇気づけてくれました」

 「なるほど、その人が僕に……?」

 「はい……那木さんにあの人の面影を感じて、つい馴れ馴れしくしてしまったんです……」



 長い間謎だった、赤石の僕に対する異様な態度についての意味がようやく分かったわけだ。

 なんてことはない。しかし、僕のことではないのに、何だか凄くこそばゆい気がするな。



 「那木さん……文化祭の日にマリちゃんとヒナちゃんの、どちらかに告白するそうですね……?」

 「え……!? なんで知ってるの?」



 突然のことに、僕は青ざめた顔で硬直してしまう。

 そんな僕に、赤石は悲痛な顔をして言うんだ。



 「もう、マリちゃんを泣かせるなとは言いません……ですが、お願いです。マリちゃんとヒナちゃん……どちらの気持ちも、真剣に考えてあげて下さい」



 こりゃまた、ハードルを上げられてしまったよ。

 そうだよな、文化祭の日の僕の選択で、あの二人の関係に亀裂が入ってしまうことが、絶対にないなんて言えない。

 そうなってしまったら、赤石も一番悲しむ奴の一人に違いないんだ。



 「ああ、約束するよ。本当に、責任重大だな……」



 僕らがそうやって真剣な顔をして向き合っていると、タイミング悪くあの二人に発見されてしまう。



 「ああ! マリリン、吾妻とヒカリンが真剣な顔して見つめ合ってるよ!!」

 「那木君、いくら赤石さんが可愛くなったからって、少し露骨すぎるのではないかしら?」

 「い……いや、違うって! なあ、赤石?」



 僕に疑いの目を向ける霧島と毘奈。僕は慌てて赤石に助けを求めるのだが……。



 「さあ……どうだったでしょうかね?」

 「あ……赤石!?」



 赤石は手のひらを返して首を傾げた。

 こ、こいつ、さっきはあんな事言っておいて、僕をハメやがったな。とんだいじめられっ子だ。



 「あーずーまー!! 私たちというものがありながら、ヒカリンにまで!」

 「那木君、どういう事かちゃんと説明してもらおうかしら?」

 「あ……ああ……あ……」



 一大イベントが差し迫る束の間の休日、僕はのっぴきならないピンチを迎える。



 赤石はそんな僕らのやり取りを見ながら、柔らかに微笑んでいた。



 ――あの二人が相手じゃ、やっぱり私に勝ち目はなさそうですね……。

お読みいただき、ありがとうございます。


というわけで、第六章となりました。

現在ブックマーク絶賛停滞中でしたが、かろうじて前回一件いただきました!

ありがとうございます!!


毎回毎回図々しいお願いで大変恐縮ですが、

あと少し! 皆様の力を私に貸していただきたいです!!


いつも“いいね”ありがとうございます!


どうか今後とも、本作品への温かなご支援の程、伏して伏して__|\○_ __|\○_よろしくお願い申し上げますm(_ _)m

次回更新は8/7予定となります。

ご期待ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ