track.90 偽りの仮面
色々な不可抗力に阻まれながらも、何とか毘奈を捜し出した僕。
だけど、もう状況はのっぴきならないものになってしまっていた。
「ひゃひゃひゃ! こんな奴が天城 毘奈の彼氏だったとはな! 聞いてた以上のシャバいガキじゃねーか!」
「まさかとは思うが、おめー、俺たちとやろーってのか? ああん?」
「その子をおいて、今消えれば、殴られずに済むのによー」
下卑て勝ち誇った笑いを浮かべる五竜高の三人。前に出たはいいものの、僕の頬を冷や汗が流れていた。
この世界での僕の身体能力は、現実世界のそれに忠実に準じていた。天羽々斬でも出せれば話は別だが、霧島がいない以上不可能だ。
蛮勇かもしれないけど、今はやるしかない! 幸い、こんなときの為の切り札も少なからずあった。
「……このぉ!!!」
「う、うをぉ!!? て、てめー!」
「な……那木君!?」
力も数も劣っている。やるんなら、奇襲で一人でも人数を減らさなきゃならない。
と、合理的に判断をしたのは良かったが、僕が撃退できるのはせいぜい一人くらいだ。
「こいつ、やりやがったな! もうどうなっても知らねーぞ!!」
僕はあっという間に取り押さえられ、そいつらのサンドバッグ状態なってしまう。
ちぃっ! やっぱり、今の僕に三人は荷が重すぎるな。
それにしても、現実以上に痛みを鮮明に感じる気がするぞ。
「や……やめて! 誰か、誰か助けて!!」
毘奈の助けを呼ぶ声に、公園の入り口の方から聞き覚えのある男子の声が響いた。
――大丈夫か、天城!? 何があったんだ!?」
「お……尾瀬先輩!?」
もちろん、それは偶然通りかかった正義のヒーロー……などでは全くなく、おそらく状況をずっと伺っていただろう尾瀬先輩だったんだ。
そんなことを露ほども知らない毘奈は、このペテン師に泣きつくように叫ぶ。
「先輩、那木君が!! お願い、助けて!!」
「よし、任せろ!!!」
白々しく返事をした尾瀬先輩は、躊躇うことなく五竜高のヤンキーたちに殴りかかっていく。
「……おぉ!? なんだ、てめー?!」
「ぐ……ぐぅぐわぁあ!!」
「なんだ、こいつ……つえー」
そんな三流芝居で、ヤンキーたちをあっという間に駆逐する尾瀬先輩。
役目を終えたのか、ヤンキー諸君は捨て台詞を吐き、尻尾を巻いて逃げ出して行った。
そして、ヤンキーたちにボコられ、蹲る僕のもとへ毘奈が慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫、那木君!?」
「あ……うん、何とかね」
膝をついて僕を気遣う毘奈。そんな彼女のもとへ、尾瀬先輩が素知らぬ顔をして歩み寄り、説教染みた事を垂れる。
「気の毒だったな。だが、天城と付き合うってのは、そういうことだ。こんな事も多々あるだろう……」
「先輩……そんな言い方」
「いや、彼の為にも言ってやった方がいい。今回は運が良かったが、次にこんな事があったら、お前は天城を守れるのか?」
「……」
「いや、お前じゃ天城は守れない。天城に相応しくないんだ!」
と、上から目線で言いたいことを言ってくれる。
僕を酷い目に遭わせてしまった罪悪感からか、毘奈も言葉を詰まらせてしまう。
「那木君、ごめんね……もう私たち……」
「さっきから、ずいぶんとカッコいいこと言ってくれますね? その台詞も、昨日寝ずに考えてでもきたんですか?」
「な……何だと?」
僕の意外な反応に、尾瀬先輩の表情が露骨に歪んだ。毘奈は横で、何の事かと呆然としている。
正義のヒーローかペテン師か、いや、これからネタバラししたら、ただのピエロになってしまうかな?
僕は起き上がって、口から流れる血を拭いながら言う。
「よくもまあ、こんな漫画みたいな事考えますよね? 五竜高のヤンキーにまで頭下げて……。その変態的な思いの強さだけなら、大したものです」
「那木君……その話、どういう事なの?」
「昼休みに非常階段で偶然聞いてね。この先輩、天城さんを何とか自分のものにしたくて、一芝居打ったんだよ」
「え……嘘!? 先輩本当なの?」
僕にしたり顔でネタバラしされ、ついに年貢の納め時かと思われた。
だが、この状況にあって尾瀬先輩は余裕の笑みを浮かべ、僕の話を吐いて捨てようとしたんだ。
「おいおい、悔しいからって、そんなデタラメ言うのは良くないぜ? 何の根拠があって、そんな話を――」
“――あんな奴が、天城と付き合っていいわけがない。少し手荒いが、これは天城の為なんだ!」
――で、五竜高のヤンキーにまで頭を下げたのか。だけど、もしバレたら……」
――俺が一番天城を幸せにできるんだ! その為なら、なんだってする!」
――わかった。じゃあ、今日部活終わったら待ち伏せだな」”
「……な!!?」
僕は尾瀬先輩の猿芝居を遮るように、自分の携帯に録音しておいた悪だくみの証拠音声を流す。
面の皮の厚い尾瀬先輩も、さすがに顔を引きつらせたよ。この時の奴の顔ったら、なかったね。
「せ……先輩! これは一体どういう事ですか!? 話によっては、学校に――」
「違う! 悪いのはこいつだ! み、みんな天城の事を思って、仕方なくやったことなんだ!!」
自分の悪事が毘奈にバレ、どう考えたってもう終わりのはずだ。尾瀬先輩はついに取り乱した。
「いい加減見苦しいですよ。大人しく謝って心を改めるのであれば……」
「うるさい! お前は黙ってろ! お前さえいなければ!! ……おい、こいつを何とかしろ!!」
「え……がぁぁっ!!!?」
これでチェックメイトだと思っていた。だけどそんな矢先、僕は後ろから何かで頭を殴打され地面に倒れ込んでいたんだ。
「な……那木君! しっかりして、ちょっと、那木君!!?」
「天城、いいからお前は、俺と来るんだ!」
「ちょ……ちょっと、離して! 那木君が!!」
畜生、ずいぶんと強く殴ってくれたじゃないか。ヤバいな、意識がどんどん薄れていく。
薄れいく意識の中、僕は毘奈の叫び声を聞きながら、自分の浅はかさ、力の無さを悔やんでいた。
――那木君!! 那木君!!」
「ごめん、毘奈……守れなかったよ……」




