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track.72 私たちに自由を!

 翌日の昼休み、僕と霧島は再び放送室へと来ていた。

 もちろん、ピースマークは自由のしるし、今回のイベントをお膳立てしている二十四時間サマーオブラブの矢須 汐里も一緒だ。

 そして、放送部部長のフリースタイルラッパー、荒島先輩が慌ただしく部員たちに指示出しをしている。



 「今日の放送マジ肝心、YEAH……霧島 摩利香メイクス・レボリューション、グズグズしてるお前らまるでヴァケイション! YO、気合い入れて、今ここでエボリューション! 生徒会の奴らをサフォケイション!」



 おそらく、結構厳しめの事を言ってるようだけど、ラップ調の為か愉快に感じてしまうのは僕だけだろうか?

 そんなお間抜けな指示にも、放送部員たちは「イエス・ボス!」と真面目に答えていた。こんなんで、本当に尊敬されてんのな……。



 そんでもって、いよいよ昼休みの放送の準備が終わり、ランチタイムに霧島 摩利香のセンセーショナルな校内放送が流されようとしていた。

 霧島当人はというと、想像していた通り、唇を噛みしめながら落ち着かないよう様子で、いつになく緊張しているのが目に取れた。

 今回の放送の目的は、もちろん学園中の生徒たちに今起こっている不当な部活潰しを訴え、自由を守る為に決起を呼びかけるものに他ならない。

 だけど僕としては、本当の霧島を皆んなに知ってもらい、彼女の誤解を解きうるチャンスになるのではないかと、こんな状況の中で淡い期待を抱いていた。



 ――グッデイ! 今日も楽しいランチタイムのひと時を……定例校内放送、『ボイス・オブ・皇海(スカイ)』の時間です!」



 そんなこんなで、放送部のMCが校内放送の始まりを告げた。

 いつもサラッと聞き流していたが、まさか僕がその現場に立ち会うことになるなんてね。

 


 ――今日もいつも通り、楽しいランチタイムを演出するご機嫌な曲をチェイケラー……と行きたいところですが、今日は臨時で皆さんの良く知るスペシャルなゲストをお呼びしてまーす!」



 おいおい、いきなりハードル上げてくるな……。

 霧島は、まるで猫みたいに体をブルっと震わせていた。狼だけどね……。



 ――なんとあの、謎多き学園最凶の女……霧島 摩利香さんから、皆さんにどうしても聞いてもらいたい、たーいへん重要なお話があります!」

 「うふふ♪ 摩利香、出番よ♪♪」



 同席していた矢須が、ウキウキした感じでアイコンタクトを送る。

 霧島は、まるで戦いにでも赴くような張りつめた表情をして、マイクの前に座った。



 ――それでは皆さん、本日のスペシャルゲスト……霧島 摩利香さんです!!」



 霧島のマイクのスイッチが入れられ、彼女の息遣いがスピーカーから流れた。

 だいぶ緊張している様子だが、スピーチの内容は矢須との打ち合わせで問題ないようだ。

 おそらく、全校生徒が固唾を呑んで見守る中、ついに彼女の声が学園中に響いた。



 ――皆さん、こ……こんにちは、霧島 摩利香でふぅ……!?」



 放送室にいた生徒たちが、一斉にずっこける。

 や……やばい、女の子としては可愛いが、いきなり噛んだぞ。

 こんなんで、皆を決起させるようなスピーチができるものか危ぶまれる中、彼女は数秒間をおいて再び喋り始める。



 ――失礼しました。私が霧島 摩利香です。皆さんが私をどのように思っているのか……よく理解しているつもりです。今までの私の行動を弁明するつもりもありません。

 ですが、今日は皆さんにどうしても聞いて欲しいお話があって、このような場を用意してもらいました。おそらく、全校生徒の皆さんに関わる問題です――」



 何とか持ち直したようだ。僕らが胸を撫で下ろす中、霧島はスピーチを続ける。



 ――今、私が所属する軽音部と、いくつかの部活が最後通告を受けています。いいえ……問答無用の廃部宣告です。その為、私たちはものの数日で、使っている部室を明け渡さなければなりません。これは、先日生徒会が発表した“部活仕分け”の査定によるものだそうです。

 私たちの部活のことを、どう思っているかは皆さん次第です。ですが、私が言いたいのは、これは“部活仕分け”という安易な言葉を遥かに超える深刻な危機だということです――」



 心配していたが、悪くない。

 少なくとも、彼女のまっすぐな言葉に、この部屋にいる生徒たちは真剣に耳を傾けだしている。



 ――私たちは自由な校風であるこの学園に入学し、自分たちの意思により部活を選び、或いは新しい部活を作り、自由な活動を許されてきました。

 この校風は、卒業していった先輩たちが作り上げてきた、この学園の大きな財産だと思います。

 だから、率直に言います。私たちの自由が奪われようとしています!」



 普段口数の少ない彼女だったが、段々慣れてきたのか言葉に妙な重みが出てきたような気がする。

 これは、もしかしたらもしかするかも……。



 ――今回の“部活仕分け”で恩恵を受ける部活もあるでしょう。

 だけど、今回のような生徒会の一方的なやり方を許してしまったら、基準を満たせなくなったあなたの部活が、廃部や縮小に追い込まれる……そんな日がやって来る。

 そして、私たちはいつの間にかそんな狂った世界に慣れてしまい、かつて当然のようにあった自由まで、忘れ去ってしまうことでしょう。

 今この横暴を止めないと、そう遠くない未来には、私たちが入れる部活、作れる部活……学園生活のあり方までも、一方的に決められてしまう日が来るかもしれません。皆さんはそんな学園を望みますか?」



 放送室の中だというのに、学園中が騒めき始めたのが分かった。

 霧島のスピーチが吉と出るか凶と出るかは分からない。

 ただ一つ言えるのは、いずれにせよ彼女の言葉が、多くの生徒の心を揺さぶっているのは間違いないということだ。



 ――私は訳あって、昔学校に通うことができませんでした。

 友達と自由に遊ぶことも許されず、それどころか、友達と呼べる人もいませんでした。そしていつの間にか、それが普通の事だと思い込んでいたんです……。

 だけど、この学園に来て、こんな私でも……少しずつではありますが、私を理解して友達になってくれる人ができ、部活にまで入ることができたんです。

 それには、もう感謝の言葉しかありません。

 だから私は、この学園を……私に手を差し伸べてくれた人たちを……その人たちの自由を守りたい!」



 それは、僕にすら告げたことのない、彼女の内に秘められた本当の思いだった。

 彼女の言葉は、自身を支えてくれた人たちへの深い感謝と、大きな愛に満ちていたんだ。

 自身の赤裸々な気持ちをさらけ出し、彼女は学園中の生徒に決起を呼びかける。



 ――能力や成績……耳馴染のいい言葉で、全てが決められてしまう学園……私はそんな学園を望みません。だから私は……私たちは、自由を勝ち取る為に立ち上がったんです。

 今日の放課後、校庭で私たちの自由を守る為のイベントを行います。あくまでも平和的に声を上げるイベントです。

 是非皆さんの参加を……自由を愛する多くの方が参加してくれることを願っています。

 一度奪われた自由は、そう簡単には戻って来ません。だから、まだ間に合います! まだ戦える今だから……一緒に立ち上がりましょう――」



 そして、予想を遥かに超えて神がかった彼女のスピーチは、彼女がよく口にするその言葉で締めくくられたのだ。



 ――自由は……誰かに与えられるものではなく、戦って勝ち取るものだから!!」

お読みいただき、ありがとうございます。


前回は・・・・・・・ブックマーク獲得・・・・・・と思いきや、減少して変わらず!!

中々うまくいきませんね。


そんな中ですが、久々に評価いただきました!

いいねもありがとうございます!

皆様からご贔屓にしていただけるよう、完結するまで頑張って書き続けたいと思いますので、どうか引き続き温かなご支援をよろしくお願いいたします。


毎回図々しいお願いで大変恐縮ですが、ブックマーク・高評価・ご感想等をいただけますと、感謝感激でございます。


どうか今後とも、本作品への温かなご支援の程、伏して伏して__|\○_ __|\○_よろしくお願い申し上げますm(_ _)m


次回更新は5/11予定となります。

ご期待ください!

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