track.71 自由の女神
幸か不幸か、破天荒なヒッピー少女 矢須 汐里の集めた反生徒会メンバーたちは、むしろ廃部宣告も納得の際物たちであった。
そして間もなく、僕ら生徒会の圧政に対抗する反生徒会部活同盟は、霧島 摩利香を旗頭に活動を開始する。
手始めに、漫画研究部と文芸部が合作で作った活動ビラが学園中に配布された。
例の18禁男の白石先輩と、21世紀の精神異常者……じゃなくて、重症の中二病患者の黒姫先輩が作ったビラだ。
それが一体どんな代物かだなんて、言うまでもないだろう……。
「那木君……もしかして、これに描かれてる女の子って、私なのかしら……?」
放課後の軽音部室で、霧島が酷く動揺しながら僕に聞く。
そこに描かれていたのは、実際よりかなり際どいスカート丈で、可愛いポーズでウインクをする萌え萌えな霧島であった。ついでに、胸の大きさも五割増しくらいにはなっている。
「あはは……可愛く描いてあるじゃないか! ……イテテテ」
僕がお道化ながら軽口を叩くと、霧島は無言のまま僕のお尻を抓った。
そして、そんな萌え萌えな霧島とは裏腹に、そのビラには何ともミスマッチなコピーが書かれていたのだ。
“学園最凶の女神立つ! 集え同胞よ! 我らと共に自由を取り戻さん!!”
ちなみに、これでも黒姫先輩から上がった当初案からは、だいぶマシになったという話だ。
そのサイコパスなビラを握りしめ、霧島はふるふると震えていた。
まあ、彼女には悪いが、インパクトだけはかなりあると評価しておこう。
しかしながら、部室の明け渡し期限は、刻々と迫っている。
こんなサイコなビラを作ったのはいいが、矢須は一体何をしようとしているのか?
そんな僕らの懸念を一気に蹴散らすように、矢須は部室に入って来るなり、僕と霧島の手を取ったのだ。
「摩利香、吾妻、これからちょっと放送部のとこ行っくよー♪♪」
「ほ……放送部?」
またもや矢須は、僕と霧島の腕を掴むと、もの凄い勢いで廊下を疾走して行く。
確かこの前は行かなかったが、放送部と生徒会の間でひと悶着あるってのは聞いていた。
何でも、今まで校内放送権を一任されていた放送部を、近年のポリティカル・コレクトネスに抵触しないかを検閲する為、生徒会の監視下に置くというとんでも命令が出たらしい。
これまで比較的自由な放送を容認されていた放送部側は、この命令にノーを突きつけ、現在生徒会と揉めているとのことだ。
「来夢ー♪ 摩利香連れて来たよー♪♪」
矢須が放送室へ飛び込むなり、親し気に手を振った。
そこに座っていたのは、真っ赤なサンバイザーに金のネックレス、ダボダボのパーカーを着た強面の二年生だった。
「……YO! 俺はDJ荒島、俺が刻むのは、雷鳴とどろく嵐のような来夢――」
こてこてのB系スタイルのその人は、いきなりラップ調の自己紹介を始める。
矢須とのやり取りから、どうやらこの人の名前が荒島 来夢っていう事は、かろうじて分かった。
この人のスタイルだかポリシーだか知らないけど、普通に自己紹介した方が早くて簡単だろうに……。
「――霧島 摩利香、YEAH! その力は学園最凶、ウゼー生徒会を今日から再教育!」
初対面の人が、いきなりフリースタイルラップで話しかけてきたとき……。
そんな場合の対応方法なんて、僕も霧島も知るわけなんかない。
「イェーイ♪ 相変わらず刻んでるわねー、来夢♪♪」
と、普通に反応する我らがヒッピー少女。何だか、最近濃い人たちばかり出てきて、反応に困ってばかりな気がするよ。
「ま……まあいいわ、で……私たちを放送部へ連れて来て、何をさせるつもりなのかしら??」
霧島は、荒島先輩の渾身のラップを苦笑いでかわし、さらっと矢須に問いかける。
「ふふん♪ 明日の昼休み、摩利香がここで全校生徒へ決起を呼びかけるのよ♪♪♪」
「え……はい?」
これぞ寝耳に水……鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする霧島。そして無邪気に微笑む矢須 汐里。
全く、僕も霧島もこのヒッピー少女と一緒にいると、本当に退屈しないってもんだ。もちろん悪い意味で……。
「む……無理よ、私には! 皆んなをその気にさせるようなスピーチなんて!」
霧島が必死にその申し出を拒否するも、矢須は首を横に振って嬉々としながら霧島に詰め寄るのだ。
「言ったじゃない、摩利香はこの学園のヒロイン……民衆を導く自由の女神なの♪♪ あなたが皆んなに呼びかけることに意味があるのよ♪♪」
「でも……そんなのやったことない……」
「大丈夫、摩利香ならできるわ♪ それに、もう摩利香は自由を抑圧された生徒たちの象徴になっているの♪♪ そんな皆んなの気持ちを裏切れる? あなたにしかできないことなのよ♪♪♪」
矢須の説得に、ついに霧島は黙り込んでしまった。
このヒッピー、何も考えてないようで、いいところを突いてくる。霧島の性格からして、こう言われたら弱いよな……。
「……YEAH! DJ霧島の熱いスピーチ、昼休みに学園中にアプローチ、ウゼー生徒会はマジ大ピンチ!」
と、話の腰を折るように荒島先輩のフリースタイルラップが虚しく響き渡る。
彼は上手いことを言ってやったみたいな感じで、両手の人差し指と中指を立ててドヤ顔をしていた。
どうにも、取り扱いに困る人だ。
そんな微妙な空気間の中、矢須に畳み掛けられた霧島は、ついにその覚悟を決めたんだ。
「分かったわ……どこまで皆んなの心を動かせるか自信はないけど……やるしかないのね」
決行は明日の昼休み。僕は彼女の学園生活を、そして学園そのものを根本から変え得る歴史的瞬間を目撃するのだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
最近不調でしたが、前回はギリギリのところで、ブックマークをいただけました!
ありがとうございます!!
伸び悩み、減少と続いていたので、冷や冷やしてました(;´∀`)
皆様からの温かなご支援のおかげもありまして、どうにか書き続けられています。
どうか今後とも、本作品への温かなご支援の程、伏して伏して__|\○_ __|\○_よろしくお願い申し上げますm(_ _)m
そして、毎回毎回図々しいお願いで大変恐縮ですが、ブックマーク・高評価・ご感想等をいただけますと、もう感謝感激でございます。
最早伝説になりそうなくらい入らない、ご感想……お気軽にお願いします!
次回更新は5/8予定となります。
ご期待ください!




