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track.70 僕らのサマーオブラブ

 令和の日本に生まれたサマーオブラブの申し子、矢須 汐里……。彼女の経歴は多くの謎に包まれていた。

 唯一分かっているのは、両親の仕事の都合か、子供時代の大半をサンフランシスコのダウンタウンで過ごしたということのみだ。

 アメリカの正にヒッピー発祥の地で、その洗礼を受け、令和の今に至ってラブアンドピースを一人体現していた。



 「よーし、集まったわね♪♪ 皆んな、手に手を取って自由を取り戻しましょう♪♪♪」



 僕と霧島を無理矢理引っ張って行った矢須は、疾風怒濤の勢いで各部室を回り、あれよあれよという間に愛と平和の志士たちを集めたのだ。

 幸いにも、軽音部と同じように理不尽な最後通告を突きつけられた部活は少なくなかった。



 「それで矢須選手、その……拙者たちは一体何をすればいいのですかな?」



 分厚いメガネをかけたヒョロヒョロの男子が、矢須に向かって妙な口調で問いかける。

 彼は二年生で、漫画研究部の部長の白石という男だった。

 何でも、夏の一大同人誌イベントで、18禁のエチエチな同人誌を出品していたのが学校にばれ、遭えなく廃部宣告を受けてしまったとのことだ。

 その要因となった物を彼らの部室で見た霧島は、珍しくドン引きしていたよ。



 「……あの部はいっそ、廃部で良かったんじゃないかしら?」

 「しぃっ!! 霧島! 聞こえるから!」



 霧島はまるで大腸菌でも見るような蔑んだ目で、白石部長を見ていた。

 まあ、気持ちは分からんでもないが、今は味方が多ければ多いほどいいってもんだ。好き嫌いは言ってられない。



 「あなたたちの武器はペンでしょ? プロパガンダには分かりやすい絵があると目を引くの♪ あたしたちの主張を表現するとびっきりのイラストをお願いするわ♪♪」

 「そ……そのようなことで良ろしければ! よーし、腕がなりますな!!」



 白石部長は大きな役目を与えられたからか、それとも矢須の強調された胸元を間近で見たからか、鼻息を荒くしてやる気に燃えていた。

 願わくば、そのやる気が更なる問題を引き起こさないことを願う次第だ……。



 「くくく……やや、やっと共に戦うことと相なったな、わわわ……我が眷属よ……」



 何やら、気味の悪い笑い声を浮かべた変な女子が、僕と霧島のもとへ歩み寄って来た。

 その人は霧島と同じ黒いパーカーを着て、おまけに目を怪我してるのか眼帯と、バイカーみたいな穴の開いた手袋をしていた。

 喋り方もそうだけど、実は霧島にビビッているのか、酷くどもっていて何を言ってるか分からない。



 「あなたは……?」

 「くくく……わわ、我の名は黒姫 凰香(くろひめ おうか)……!! 会いたかったぞ! 我が眷属よ!!」

 「……?」



 だいぶ余計な物もつけてるけど、羽織ってるパーカーにしろ黒いメッセンジャーバッグにしろ、ショートボブの髪型まで霧島と被っている。

 どうやらこの人、重症の中二病であるのは間違いないにせよ、霧島の隠れファンであったらしい。

 で、この二年生の黒姫さんは文芸部の部長で、奇怪な格好による風紀違反と、悪魔崇拝的なオカルト小説が生徒会のポリコレ規制に引っかかり、今回廃部対象になってしまったのだと。



 「よく分からないけど、あなた……目を怪我しているのね、大丈夫?」

 「ふ……触れてはダメだ! あ……ああぁぁぁ!!」

 「……え?」



 霧島が黒姫先輩のしている眼帯に手を伸ばすと、彼女は大袈裟にうめき声を上げて自分の目を押さえた。

 さすがの霧島も、彼女の異常さに狼狽えて後ずさりする。



 「我が眷属よ! この目には我に封印されし“虚無の魔王”が宿っているのだ! 下手に触れればその心を虚無に支配され――」



 と、黒姫先輩はおそらく中学生くらいから温めていた自身の設定を、それは水を得た魚のように語っていた。

 だが残念なことに、霧島は彼女の渾身の中二設定を、1ミリも理解している様子はない。

 それどころか、必死に自己設定を語る黒姫先輩を尻目に、霧島は僕に耳打ちをする。



 「……那木君、この人の言ってる事、さっぱり分からないのだけど」

 「ああ……相当重症の中二病だね」

 「……中二病?」

 「うーん……そうだな、霧島に分かりやすく言うと“21世紀の精神異常者”ってところかな……?」

 「そ……そうだったのね!」



 僕の適当な助言に、霧島は何か気付くところがあったようで、徐に黒姫先輩に歩み寄って行く。

 得意気に自己設定を吹聴していた黒姫先輩は、霧島の真顔に思いきりビビっていた。



 「ドドどど……どうしたのだ、我が眷属よ!?」

 「あなた……キング・クリムゾン(好き)だったのね……」

 「きき……キング・クリムゾン!!?」



 おそらくこの二人、全く噛み合っていなかったのは間違いない。

 自ら考え抜いた渾身の中二設定が、憧れていた霧島に全然伝わってないって知ったら、さすがの黒姫先輩も凹むはずだ。

 手の平を額に当てて妙なポーズをとっている黒姫先輩を、僕は恐る恐る伺う。



 「ククク……どうやら我に隠された忌み名を見抜いてしまったようだな。さすがは我が眷属よ!」

 「え……ええー!!」

 「だが我は、この俗世界に女として生を受けた……言うなれば、今の我はクイーン・クリムゾンとでも名乗っておこう!!」



 黒姫先輩は人目も(はばか)らず、変な決めポーズをとってカッコつけていた。

 大方、憧れの霧島が口にした昔のバンドの名前が、思いのほかカッコ良かったから、ちゃっかり自分の中二設定に組み込んだのだろう。



 「さあ、我が眷属よ! このクイーン・クリムゾン・黒姫 凰香と共に、暗黒第三世界へと闇落ちした生徒会から我らの世界を――」



 さっきまで気を遣っていた霧島も、もう半分呆れ顔で黒姫先輩を眺めていた。

 さて、どうしようか。いい加減、僕もこの人の相手をするのは疲れてきたぞ。



 「ちなみに矢須さん……この先輩には一体何をやってもらうのかな……?」

 「もう、汐里でいいって♪ 凰香には私たちのプロパガンダを表現する、キャッチーなコピーを考えてもらうわ♪♪♪」



 ああ、もうダメかもしれない……。

お読みいただき、ありがとうございます。


前回は・・・・・・・ブックマーク・・・・まさかの減少!!?

(>_<)!!!!!


でも、いいねありがとうございました。


毎回毎回図々しいお願いで大変恐縮ですが、ブックマーク・高評価・ご感想等をいただけますと、感謝感激でございます。

図々しいお願いついでに、特に初感想……心よりお待ち申し上げております。


どうか今後とも、本作品への温かなご支援の程、伏して伏して__|\○_ __|\○_よろしくお願い申し上げますm(_ _)m


次回更新は5/4予定となります。

ご期待ください!

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