表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/142

track.69 愛と平和の戦争

 天真爛漫に「戦争をしましょう♪」と皆を先導する矢須 汐里。

 彼女のサイコな発言に、軽音部員たちは再び言葉を失う。だってさ、そもそも……。



 「あの、矢須さん……つかぬことを聞くけど……」

 「矢須さんなんて気持ち悪いな♪ あたしのことは汐里って呼んで、吾妻♪♪」

 「あ……ああ、君のポリシーって“ラブアンドピース”だよね?」

 「そうよ♪♪」

 「その君が戦争をしようっていうのは、ちょっと……」



 一瞬、この子も馬鹿なんじゃないかと思ったよ。

 言ってることが、間反対に矛盾していたからね。警察官が皆んなで万引きをしようって言ってるようなもんだ。

 だけど、矢須はそんなこと百も承知だとばかりに、僕に歩み寄って言う。



 「戦争って……何も暴力ばかりではないのよ♪ 私たちは軽音部よ♪ あたしたちの武器は何?」

 「まさか僕たちの演奏で、抗議でもしようってこと?」

 「“自由は与えられるものではなく、勝ち取るもの”……クロポトキンの言葉ね♪ そうでしょ、摩利香?」



 そう言って、矢須は霧島に笑みを投げかける。

 そうだ、霧島がいつも口癖のように言う言葉だった。霧島は(いぶか)しみながら言葉を返した。



 「そうだったとして、一体あなたは何をする気? 残念だけど、ロックでこの状況を覆せるとは思えないわ」


 

 ネガティヴなようだが、霧島の言う通りであった。

 どう考えたって、矢須の言っている事は、サイケデリックで荒唐無稽な理想論だ。

 しかし、彼女には何か現実を見据えているような凄味があるんだ。



 「かつて、若者たちがロックで世界を変えられると、本気で信じていた時代があったわ……♪」

 「一九六〇年代……サマーオブラブの時代ね」

 「そうよ……♪ だけど、結局ロックで世界は変わらなかった♪ 多くの若者たちは、それに気が付くと夢から覚めたみたいに社会へと帰っていったわ……♪♪」

 「それが分かっていながら、ロックで何をしようと言うの?」

 「この学園で、もう一回サマーオブラブを起こすのよ♪ そうね……サード・サマーオブラブなんて素敵だとは思わない?」



 矢須と霧島が絡んでロックの話をしだすと、僕には何を言ってるかさっぱりだ。

 いや、最早高校生の理解できる範疇を超えてしまっていたのかもしれない。僕を含め軽音部員たちは唖然としている。



 「今回の部活仕分け……損害を被るのは、軽音部だけではないはずよ♪ まずは、その虐げられている部員たちを集めるの♪♪」

 「解せないわね、そんなことしたって結局……」

 「摩利香、ベッドで寝ていたって革命なんて起きないのよ♪ まずは行動よ、さあ、はじめましょう♪ あたしたちで“愛と平和の戦争”を♪♪」



 この期に及んでも、このサイケデリックなヒッピー少女が何を言っているのか、僕には全く理解できなかった。

 霧島とてそれは例外ではない。霧島は珍しく肩をすくめて嘲るように言う。



 「まあいいわ、あなたが何をしようとしてるのか分からないけど、ここはお手並み拝見といこうかしら……」



 すると、矢須は大袈裟に顔を横に振り、ついでに大きな胸も揺らしながら霧島のもとに駆け寄って言う。



 「何を言っているの? 摩利香がやるのよ♪ 摩利香がやらないと意味がないんだから♪♪」

 「……は?」

 「あなたはこの学園のヒロインなの♪♪ ヒロインが表に立たなきゃ、美しい物語にならないでしょ?」

 「ちょ……何を言っているの?」



 そう言うと、間髪入れずに矢須は霧島の腕を掴んで、廊下へと飛び出して行こうとする。

 さすがに見るに見かねたのか、部長の苗場先輩が矢須を呼び止めた。



 「あの、矢須さん。部の為だとは思うけど、さすがに今問題を起こすのは……」

 「大丈夫よ、部長♪ あくまでも平和的に抗議をするだけだもん♪♪♪」

 「は……離しなさい! 私は別に一緒に行くとは言って――」



 戦々恐々とする苗場先輩に対し、嬉々として答える矢須 汐里。

 僕を含め、きっとこの場にいる部員全員が、絶対にダイジョばないと思っていた。

 なにしろ、学園最凶の霧島と、学園一の変わり者が一緒に何かを起こそうとしているんだ。

 こんなの、どんなヤバい化学反応を起こすか分かったもんじゃない。



 「あ……忘れてた♪♪」



 と言って、矢須は不意に霧島の手を引きながら僕に駆け寄ってくる。



 「やっぱり、摩利香と吾妻は一緒じゃなくっちゃね♪♪」

 「え……あ……ええー!!?」



 僕と霧島の腕を両手に掴んだ矢須は、新しいおもちゃを手に入れた子供のように、喜び勇んで部室を飛び出して行く。

 それにしても、そのサイコな格好と豊満な胸にばかり気を取られていたが、女子離れした凄い力だった。全く振り解くことなんてできないくらいにね。

 

 

 霧島でさえも恐れる謎のヒッピー少女に手を引かれ、僕らは放課後の閑散とした廊下をどこかへと疾走させられて行く。

 ただ一つ分かっているのは、この後確実に面倒な事になるっていう、決して外れることのない僕の悪い予感だけだった。

 

 

お読みいただき、ありがとうございます。


前回は・・・・・・・ブックマークが増え・・・・・・・ない!!

残念ですが、ここが踏ん張り時です!


毎回毎回図々しいお願いで大変恐縮ですが、ブックマーク・高評価・ご感想等をいただけますと、感謝感激でございます。

特に初感想……一言とかでも嬉しいです。どうぞお気軽にお願いします!


どうか今後とも、本作品への温かなご支援の程、伏して伏して__|\○_ __|\○_よろしくお願い申し上げますm(_ _)m


次回更新は4/30予定としましたが、諸事情で5/1と致します。

ご期待ください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ