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track.12 いじめられっ子

 ――ねえねえ、あの子なんかトロくない? 天然なの?



 ――私たちがせっかく誘ってあげたのに、うんともすんとも言わないしね。



 ――違うでしょ、あれわざとやってんだよ。



 ――何それ? ドジっ子アピール? マジウケるんだけど。



 ――うわぁ、あざと! あんな地味なクセして男子の気引こうとしてんだ。



 ――とりあえずさ、なんかムカつくよね……。



 霧島事件の発端となった最初のいじめの矛先、それはミステリアスな孤高の美少女ではなく、気が弱く、地味でコミュ症なただの幼気な少女だった。

 最初は小さな疑念から生まれた赤石 光への誤解は、日を追うごとにクラス全体へと渦巻き、大きな不協和音を生んでいく。



 ――あいつ、またお昼どっか行くよ。



 ――どうせトイレでしょ? 最近お昼にトイレが弁当臭いって有名だよ。



 ――嘘? 便所飯なんてほんとにあるんだ! 絶対無理なんだけど!



 ――面白そうだからさ、見に行ってみようよ! リアル便所飯!



 ――うっわー! ごめーん、冷たかった? トイレがあまりにも臭くて汚いからさ、私たち掃除しようと思ったんだ。まさか、入ってるなんて思わなくてさ。



 ――もう、何も泣くことないじゃーん! わざとじゃないんだからさ。……でも、トイレでお弁当なんか食べておいしいの?



 ――ねえ、赤石さんに対してのあれ、さすがに酷くない……?



 ――よしなよ、下手に同情なんかしたら、今度は私たちがやられるんだよ!

 


 クラスを取り仕切る女子多数が赤石 光へのいじめに関与し、そうでない者たちは、或る者は自らが次のターゲットになるのを恐れ、或る者は面倒がってこの理不尽を黙殺した。

 そしてその余波は、クラスの生徒とは一線を引いていた事件前の霧島 摩利香へも飛び火して行く。



 ――あいつ、あんまり学校来なくなったね。



 ――あ、今日は来てるみたいだよ。



 ――ウッザー、死ねばいいのに……。



 ――もちろん、霧島さんもそう思うよね?



 ――だって仕方ないじゃん、元はと言えばあいつが悪いんだからさ。ブスのクセに私らの誘い断るから……。



 ――だからさ、霧島さんも一緒にやっちゃおうよ! スカッとするよ!

 


 霧島の生徒手帳を拾った時、その中の一ページにこう書いてあった。



 “学校よりも、三分間のレコードから多くのことを学んだ”

 ――ブルース・スプリングスティーン



 あそこに書いてあった言葉の一つ一つは、ただの怪し気なポエムなどではなく、彼女が一人でずっと聴いてきた憧れのロックスターが残した言葉、言わば人生の教科書だった。

 少なくともそこには、弱者を集団で痛めつけ、傷つけるような教えは書いてはいなかった。いや、むしろ最も忌むべきものだ。



 悪魔からの囁き……差出されたその薄汚れた手を、霧島は周囲の目など全く気にも留めずに平然と打ち払った。

 霧島は目の前に渦巻く吐き気を催すような卑劣、悪意に満ちた同調圧力、巻き込まれたくないが故の黙殺……全ての忌むべきものに唾を吐きかけ、ノーを突きつけたのだ。



 そんなこと、男だってそう簡単にできることじゃない。霧島、お前かっこいいよ……。


 

 赤石 光は僕らに教えてくれたんだ(だいぶ聞き取り辛かったが)。誰よりも強く、美しくて気高い、そして優しい本当の霧島 摩利香って少女のことを。



 「でも……ごめんなさい、私……霧島さんが……あそこまで……してくれたのに、結局……怖くて……学校行けなく……なって」

 「いいの……学校に行くも行かないも、あなたの自由だもの。本当に嫌なら、辞めればいいのよ」

 「ごめんなさい……でも……私」



 あーあ、何も霧島もそんな言い方……。

 悪意がないのは分かっているが、どうもコミュニケーション能力に大きな問題のある二人の会話は、上手く噛み合わない。

 こういうとき、二人の間に何か良い潤滑剤でも欲しいところだ。例えばこう……。



 「もう見てらんない! 二人ともヘタクソ! そうじゃないよ!」

 「げっ! 毘奈?」



 しばらく黙りこくっていた毘奈が、急に息を吹き返したように二人の間に割って入って行く。頼むから、これ以上面倒だけは起こさないでくれ。



 「赤石さん! 違うんだよ!!」

 「……はい……え?」

 「こういう時はね、ごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言うんだよ!」

 「……あ……はい……き、霧島さん! わ、私を……助けて……くれて、あああ、ありがとう!!」

 「うん、そうそう、よくできたね!」



 毘奈に促されるがまま、赤石は大声で霧島にお礼を告げる。

 一方突然の毘奈乱入に、霧島は呆気にとられたままポカンと立ち尽くしていた。

 


 「霧島さんもそう、ダメだよ、せっかく勇気を出して会いに来てくれたのに、そんな突き放すようなこと言っちゃ!」

 「え……私は別に、どうしようとこの子の自由だと言っただけで……」

 「もう! 本当に何も分かってないんだから! 赤石さん……光ちゃんはね、霧島さんと友達になりたいんだよ!!」



 あのクールな霧島が、目を真ん丸に見開いて驚いていた。

 予断を許さない冷や冷やものの展開ではあったし、論理の飛躍とも受け取れたが、そこは一応コミュ力モンスターだ。



 「む……無理よ、私といたら、これまで以上にこの子に危険が及ぶわ……それに」

 「そんなこと、光ちゃんは分かってるよ!! それでも霧島さんと友達になりたいんだよ!!」

 「う……まあ、そこまで覚悟が……できているのであれば……ううう」



 仮にも学園最凶と謳われた霧島が、僕のフ〇ッキン幼馴染にはたじたじであった。

 毘奈って、もしかしたら僕が思っているよりも、ずっと凄い奴なのかもしれないね。



 「よし、これでもう今日から二人は友達だよ! 良かったね、光ちゃ……え?」



 毘奈が振り返ると、赤石 光は前を向いたままボロボロと涙を流していた。



 「なって……くれるんですか?」



 ああ、毘奈って言う特殊効果があったにせよ、まさか霧島に普通の女友達ができるなんてね。

 涙が溢れて止まらない赤石の前に、霧島はゆっくりと歩み寄って言う。



 「自由は与えられるものではなくて、戦って勝ち取るものなの……世界は優しくないわ、それでもまだあなたに戦う覚悟があると言うのであれば……手を結びましょう」

 「私……グスッ……戦います! 私の為……霧島さんの……グスッ……為にも……強くなりたい……グスッ……力になりたい!」

 

 

 学園最凶の少女といじめられっ子の少女……鮮やかな夕暮れ色に染まった彼女たちは、こうして手を取り合ったのだ。

 お互いが本当の自由を勝ち取る為に……。



 全く、このお節介な幼馴染もたまには役に立つこともあるもんだ。

 手を握り合う二人の少女を横から抱きしめ、毘奈はまるで我が事のように満面の笑みを浮かべた。



 「うんうん……光ちゃんも霧島さんも、本当に良かったね! 私たち三人はずっと友達だよ!!」

 「はい……ありがとう……ございます! あの……ところで……あなたは……一体どなたなのでしょうか?」

お読みいただき、ありがとうございます。


前回もブックマークと、評価ありがとうございます!!

本当にまだまだの作品ですが、応援感謝いたします。


次回も明日更新予定となります。

ご期待ください!

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