表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

2. 少年との会話

 場所はボロ屋。

 建て付けの悪い窓から、冷たい隙間風が入り込む。

 シャルルは両手両足を縛られている少年を見た。


「殺してやるッ!」


 少年はシャルルを見て威嚇する。

 この少年がシャルルの頭を殴って気絶させた犯人だ。


 ――どうやら僕は、殺されそうになるほど恨まれているらしい。身に覚えがありすぎて辛い。


 と、シャルルは内心で嘆息する。


「殺されるのは困るな。それに今の君は何もできないでしょ」

「くっ……」


 少年は図星をつかれて言葉をつまらせる。


「ここを抜け出して、必ずあんたを殺す!」


 少年が叫んだ。

 その少年、凶暴につき。

 シャルルが複数人の護衛を引き連れて歩いている途中。

 シャルルの護衛を蹴散らして、彼の意識を奪ったのがこの少年だ。


 ――鎖を外したら、真っ先に殺されそうだ。あー、嫌だ。異世界、怖いよ。死亡フラグが立ちまくりでしょ。


 シャルルはおっかなびっくりであった。


「おい、小僧! 舐めた口聞いてんじゃねーぞ。てめぇの舌引き抜いてもいいんだぜ? マルティネス家に楯突くとどうなるか、体に教えてこんでやろうか」


 シルバーがドスの利いた声で言う。

 これが冗談や脅しじゃないのが怖い。

 指を詰める。

 舌を抜く。

 目玉をくり抜く。

 硬い鞭で打つ、などなど。

 必要とあれば、残酷な拷問をしかねない連中だ。


 ――もう、嫌だ。僕にはボスの息子なんて荷が重いよ。吐きそうだ。とりあえず胃薬が欲しい。


「シルバーさん、あんまり子供を怖がらせないでください」

「しかし、シャルル様。こいつは……あんたを殴ったやつですよ? 落とし前つけないと、面目が立ちません」


 ――落とし前ってなに? 指をつめろってこと? そういうのは止めてよね。僕の前で流血沙汰は勘弁して欲しい。


「痛みによる拷問は自己満足です。そんなことよりも、他にやることがありますよ」

「他にやること? 俺は頭悪いから、こいつを懲らしめること以外は思いつきませんが……」


 ――僕も思いつかないよ。この状況、どうすれば良いの? 僕は何をすれば良いの?


 シャルルは必死に頭を回転させた。


 ――ただ拷問は見たくない。多分、見たら嘔吐する自信がある。この子が僕を襲われないのなら、逃してやってもいいんだけど……。でも、そうすると筋が通らない。


 裏社会では筋を通すことが重要視される。

 日本のヤクザ映画で知った内容だ。

 それが本当かはわからないが、このまま少年を解放して良いとも思えない。


 それに、


 ――少年を逃したら、また襲われる可能性だってある。それなら、襲ってきた理由を問いただすべきだ。


「どうして、僕を襲ってきたの?」

「ふんっ、お前なんかに言うもんか! とっととくたばりやがれ! くそ野郎!」


 と、少年が言ったときだ。

 シルバーが動いた。


「ご……はっ」


 シルバーが少年を蹴り飛ばしたのだ。

 鈍い音がして、少年の後頭部が壁にぶつかる。


 ――ちょっと、止めてよ。血を吐く瞬間とか見たくないから、ほんと、こういうの勘弁して欲しい。


「シルバーさん。やりすぎです」


 シャルルが静かに言う。


「しかし――」


 シルバーが言い返そうとする。

 だが、シャルルはその言葉を封じた。


「――やりすぎです」


 沈黙が訪れた。

 シャルルの胃が痛くなるような静寂だ。

 シルバーがジーッとシャルルを見据える。


 ――マフィアの眼光、怖いよ。そんな怖い目で見ないで。ストレスで胃に穴が開きそうだ。


 と、シャルルは恐怖していた。

 しばらくしてから、ようやくシルバーが口を開く。


「すみません」


 シルバーがシャルルに頭を下げた。


 ――ふぅー、良かった。この調子だと、僕は一年以内にストレスで死んじゃいそうだよ。


 シャルルは少年のほうに向きなおった。


「僕を殴った理由を教えて下さい」

「嫌だ」


 と、少年がいったときだ。


 ――手荒なことはしたくないけど、仕方ないよね。


 シャルルはすぅーっと目を細めた。

 ただそれだけの行為。

 しかし、その瞬間、


「――――ッ」


 少年の肩がビクッと震える。


 少年は額からだらだらと冷や汗を流し始めたのだ。

 ゾクリと背筋に冷たいモノが走る。

 急激に喉の渇きを覚えた。


 シャルルが穏やかな話し方をするから、油断していた。

 しかし、もちろん油断できる相手ではなく。

 荒くれ者共を従え、悪童と言われるシャルルが、善良な人物なわけがない。

 シャルルの鋭い視線を受け、震え上がっていた。


「黙っていて、問題が解決するとでも? 無言を貫くのは勝手だけど、それで物事が良い方向に動いたりはしないよ」


 と、シャルルは冷たく言い放った。

 マルティネス家の悪童と言われる少年がそこにはいた。

 しかし、シャルルは内心で、


 ――ほんとは、こんなこと言いたくないんだよ。少年を虐めているみたいで嫌だし。胃がキリキリするし。


 と、弱音を吐きたい気分だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ