1話―― 雑用係。追放される。
待望の新作!! 追放マイルド『ざまぁ』ダンジョン物語。堂々の開幕です!!
本編は4話から追放されます。1話2000字の理不尽展開をいっしょにお楽しみください。
『人生山あり谷あり』という格言が存在するなら、さしずめ冒険者には『ダンジョン山あり奈落あり』という言葉がふさわしいだろう。
麗らかな春の昼下がり。
いつも通り、ギルドの素材管理室で薬草や魔物の魔石を管理していれば、
ギルドマスターからもたらされた衝撃の言葉に俺は王国に納品するはずの『世界樹の雫』に必要な薬草の小瓶を取り落としてしまっていた。
働きすぎて頭がどうにかなってしまっていたのだろうか。
ギルドの職員でもあまり立ち寄らない素材保管庫に珍しくギルドマスターがやってきたので何事かと思っていたが――
「えっと、もう一度言ってくれギルドマスター。俺がなんだって?」
「だーかーら。ワタルぅ、テメェは今日限りでクビだつってんだよ」
長年一緒に働いていたギルドマスターからもたらされた衝撃の解雇通告。
どうやら連続30連勤による過労の聞き違いではなかったらしい。
C級ギルドの地位に甘んじて十年。
ようやく念願のS級ギルドに昇格し、王国から任された国家事業並みの重要プロジェクトに参加させてもらってようやく量産目途がたったと思った矢先のことだ。
驚くなという方が無理がある。
(ようやくギルドの雑用係としてじゃなく、冒険者としてみんなに貢献できると思ってたのにギルドランク昇格早々これかよ……)
朝から何かいいことがあるんじゃないかと思っていたが、こんな形で人生最低の『絶頂期』を迎えるのは完全に予想外だった。
でも――
「えっと、さすがに冗談、だよな? いくらなんでもギルドマスターのお前が同期で、しかも重要プロジェクトに関わっている俺を切るなんてそんな馬鹿げたことするわけ――」
「んな甘いことあるわけねぇだろ。クビだよクビ。わかったらさっさと荷物まとめて出てけっつってんだよ愚図が」
二度目の衝撃に今度こそ開いた口が塞がらない。
いつものイビリかと思ったがギルドマスターの態度を見るとどうやらマジみたいだ。
いくら春先と言え、錯乱魔法を振りまくピクシーの到来はまだ先のはずだし、幻酔花を仕入れた覚えもない。
そもそもギルド内に存在する全ての『素材管理』が俺の仕事なので、新しい素材が入ればすぐに俺の耳に入ってくるのでコイツが正気なのは間違いないはずなのだが、
「え? ちょ――お前本気で言ってるのか? 出てけってどういうことだよ! まだプロジェクトは途中だろ? どうしてギルドの初期メンバーだった俺がいきなりクビなんてならなきゃいけないんだ!?」
理由を、納得のいく理由を説明してくれ。
「うっせぇな。そんなもんテメェが一番よく理解してんじゃねぇのか? アイリスの助手つったって雑用係には変わらねぇんだぞ。雑用の能無しのくせにギルドマスターである俺の決定に逆らう気か? ああん!?」
「――っ!? だ、だからっていきなり解雇なんて言われても納得できるはずがないだろ!!」
耳をほじりながら眼光を鋭くするギルドマスターの言葉に、思わず吠え立てる。
昨日の『S級ギルド昇格』の報告で気分が良くなり、朝から景気よく酒でもかっ食らっているのだろうかと思ったがどうやら違うらしい。
つねづね『なぁお前、いつになったらここから消えてくれんだよ』と言っていたが
この覇気の籠った冷淡な声は間違いなく冗談でなく、本気で言っていることがわかった。
「それじゃあ解雇理由はまさか……」
「もちろんテメェみたいな無能な『固有スキル』持ちがS級ギルドにいること自体が恥だからにきまってんだろ」
なん、だよそれ――
「本気、なんだな。本気でそんな理由で俺を切り捨てるつもりなんだな……」
「ああ、その通りだ。もうこのギルドにテメェは必要ねェ。そもそも『自己管理』しかできねぇテメェを今までギルドに置いてやったんだ。感謝されることはあっても恨まれる筋合いはねぇと思うんだがな」
「だからって……いきなり辞めろなんて言われても納得できるはずがないだろ!!」
これが酒に酔ってるんだったらこの妄言にもまだ納得いくがそれにしたって――
「この扱いは酷すぎるだろうがよ!!」
人事異動だの素材の管理ミスだのだったらまだ納得できる。
素材管理のミスは俺の責任だし、『ダンジョンに潜れるほどのスキル』を持っていない俺が唯一できる仕事が素材の管理だ。
これをミスったら俺はこのギルドにいる価値はない。
だが誓ってもいいがそんな初歩的なミスをした覚えもなければ、報告を誤魔化した覚えもない。
俺は俺でダンジョンに潜れないかわりに、みんなのためにとギルドの裏方に徹し、腐らず雑用係として人生を捧げてきたのに――
「納得のいく説明をしろよ! 俺をクビにするってどういうことだ!?」
「ったく。キャンキャン子犬みてぇに吠えんじゃねぇよ。外にまで聞こえちまうだろうが」
「いいから答えろよラルグ!!」
怒り任せに机を叩きラルグを睨みつければ、チッと鬱陶しそうな舌打ちが正面から鳴った。
いまでこそ王国最強のギルドにのし上がってきたギルド『蛟竜の顎』は元々、俺とラルグ。そしてもう一人の親友のミリアと一緒に立ち上げたギルドだ。
ラルグとミリアがダンジョンに潜り、俺は彼らの帰りを待ちつつ事務仕事に精を出す。
言ってみれば俺はそのギルド創設当初から下積みを続けてきたのだ。
当然、ギルドの特徴や強みはギルドマスター以上に把握している自信がある。
それなのにどうしていまさらクビなんて――
そこまで考えて、俺の頭にとある可能性がよぎった。
「お前、まさか俺の固有スキルが無能だからって理由だけで俺をこのギルドから追放する気なのか……ッ」
「ふっ――ああ、そうだよ。はっきり言っちまえばその通りだ。お前みたいな雑用をウチで抱えんのがみっともなくなったんだよ」
「はぁ――? みっともないだと?」
ラルグのありえない発言に俺の口から素っ頓狂な声が零れた。
みっともない? 雑用がいることがか?
下働きがいなくちゃ、碌にもギルド運営もままならないってのに?
そもそも――
「雑用にみっともないもクソもないだろうが!!」
その2に続きます。ボコボコタイムです