幼なじみの必殺技は、俺にしか効かない
いつものように、二人で宿題を終わらせた後のこと。
「なんだ、今日はやけに嬉しそうだな」
「エヘヘー♡ あたしね、すっごい必殺技を会得しちゃったんだ。もう、たぁ君にやられっ放しじゃないんだからね!」
何でも昨日、ネットの動画を見て催眠術を会得したのだという――安い必殺技だ。
「ほら、たぁ君は眠くなーる、眠くなーる……」
真剣な顔で五円玉を振ってみせるから、仕方なくかかったフリをしてやった。
「ウソ!? ホントにかかっちゃった?」
俺がゆっくりうなずくと、のぞみはまぁるい目をこれ以上ないくらいに丸くして息を呑んだ。
いや、どうしてそこでお前が驚く。
「ホントにかかっちゃったんだぁ……ど、どうしよ……」
のぞみは、しばらくうなっていたが、不意にひどく真面目な顔になると、俺の顔をのぞき込んだ。
「たぁ君はあたしのことが好きになーる……。あたしのことが大大好きになって、他の女の子には目もくれなくなーる……」
くそっ、いつ俺が他の女に目移りしたってんだ。そもそも、俺たちは幼なじみなだけで、恋人でも何でもないだろうが!
癪に触ったが、のぞみがあまりに真剣なもんだから、仕方なく乗ってやった。
「俺はのぞみのことが大大好き……。他の女なんか、どーでもいい……」
のぞみは小躍りするように小さくガッツポーズして、よしっ、よしっ、て何度もうなずいてる。
くそっ、こんな告白で嬉しそうにすんな! 怒るに怒れねぇじゃねぇか。
だが、のぞみは頬を染めて上目遣いになると、小さな小さな声でささやいた。
「……じゃ、じゃあ、誓いのチュー……して?」
俺はゆっくりと立ち上がり、顔を近づける。のぞみのまぶたがそっと閉じられて、つやつやの唇が軽くすぼめられて、突き出される。
バチンッ!――その額に、思いっ切りデコピン!してやった。
「痛ぁっ!」
後ろにひっくり返ったのぞみに、俺、大爆笑。
「ハハハハハッ! バカめ、催眠術なんかあるわけないだろうが!」
魔法なら、あるけどな。
「もう、ひどぉい、たぁ君!」
そっぽを向いたほっぺたに、すかさずキス。
「ヒャッ!????」
何が起こったのか分からない、と俺を見上げる目を斜めに見て、言ってやった。
「あれ? やっぱりかかってたみたいだな、催眠術」
だけど今度は驚くよりふくれっ面になった。
「なら、もっとちゃんとかかってよ……」
そしてまた、俺に魔法がかかった。
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