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33階層から撤退する

「ダメだ、撤退する!」


俺は、かみつこうとするオルトロスの顔をシールドでなんとか押し返しながら、3人の位置を確認する。


「マリアはブリザードで目くらまし、マイクはスリングストーンでけん制してくれ! ふたりが魔法をかけたら、ヘレン、マリア、マイクの順で出口に走れ! 俺が殿(しんがり)を努める!」


「「「わかった!」」」


ふたりの魔法が発動すると、俺達は出口に向かって駆け出した。ブリザードで視界を遮られたオルトロスは、いらだったように遠吠えを上げる。その叫びを聞きながら、俺達は走る。とにかく走る。


全員が出口にたどり着くと、モンスタールームが青白い光に包まれ、次の瞬間、静寂が戻っていた。逃げ出せた証拠だ。俺達はダンジョンの通路に座り込んだ。


「はぁはぁ……ケントの情報どおりだったな」


「ああ、今の俺達ではオルトロスを倒せないのは確かだ」


肩で息をしながら、互いにうなずきあう。俺達が戦ったのは、33階層のフロアボスであるオルトロスだ。このフロアに来る前に、俺はAランクパーティのメンバーに金を払い、オルトロスの倒し方について情報を得ていた。


「ケントが得た情報が正しいことが確認できただけでも、よしとするか」


「ああ、本来は魔物の討伐情報なんて他のパーティに教えるもんじゃない。ウソの情報じゃなかっただけ、マシさ」


そう、討伐方法なんて本当は他のパーティに教えるものではないのだ。ただし、今は状況が違う。SランクやAランクのポーターが大勢死亡したおかげで、現在、ダンジョンに入れない上位パーティは多い。ダンジョンに入れないということは、収入もないということだ。そこで、俺は金に困っていそうなAランクパーティのメンバーに近づいて、金を払ってオルトロスの情報を聞き出そうとした。


そしたら、あっけなく教えてくれた。同じようなことを考えたBランクやCランクのパーティが多かったらしく、収入が途絶えた上位ランクのパーティの間で『適切な対価を得られるのなら、39階層までの情報は公開してもよい』ことになったそうだ。情報提供の料金表まで見せてくれた。


オルトロスはケルベロスのような犬型の魔物だ。違うのは、ケルベロスの頭が3個あるのに対して、オルトロスの頭はふたつしかない。そして、オルトロスは氷魔法に弱い。情報によれば『ふたつの頭に同時にふたりの氷魔法で攻撃』すれば倒せるとのことだった。しかし、『赤き谷』で氷魔法を使えるのはマリアだけだ。今日は、時間差攻撃などをいろいろ試してみたが、どれもダメだった。


「倒すための方法はふたつある。ひとつは、メンバーの誰かが転職して、氷魔法を覚えること」


「今、誰が転職できるんだっけ?」


ヘレンが首をかしげながら聞くと、マイクが答えた。


「ケントは転職するにはステータスが足りない。当分、剣士のままだ。俺は魔法剣士だが、火魔法と土魔法を覚えてしまったから、氷魔法を覚えるのは無理だ」


魔法剣士は二属性までしか魔法を使えないからな。残りはヘレンだけだが、


「私、ステータス的には賢者に転職できるけど、今Cランクだから、回復魔法が使えなくなっちゃうよ」


賢者に転職すると、全属性の攻撃魔法を使えるようになる。だが、転職するまでにAクラスに達していないと、転職前に使えていた魔法が使えなくなってしまうのだ。


「ヘレンが回復魔法を失ってまで転職するのは、どう考えても悪手だわ」


マリアの指摘に、みんなが賛成する。これで誰も転職しないことになった。


「残りの方法は、『氷魔法が付与されたアイテムで攻撃する』ことか。魔法が付与されたアイテムを売るようなパーティはまずいないから、目的のドロップアイテムが出るまで魔物を倒し続けるってことになるな」


俺の言葉に異論はないようだ。


「で、この近くで氷魔法のアイテムがドロップされそうな所というと……31階層の大氷原か?」


他に適当な場所はない。あまり浅い階層だと、ドロップアイテムの質が下がってしまう。


俺達は食料やポーションの残りを確認すると、31階層に向かって歩き出した。

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