手紙
親愛なる『赤き谷』のメンバーのみんな、お元気ですか。ポールです。
僕はみんなと別れて3日後に村に着きました。ふたりとも毒が下半身に回って歩けなくなっていましたが、ポーションのおかげで進行は止まったようです。
ケントに言われたとおり、毎朝、ふたりに強化魔法をかけています。ふたりとも身体が軽くなると喜んでくれました。このまま半年ぐらい治療を続ければ治るだろうというのが、神官様の見立てです。
ところで、みんなに言いたいことがあります。それはパーティのことです。今は何階層まで潜っているのでしょうか。
僕がいない状態では、浅い階層を数日間潜ることを繰り返すことになると思います。
僕としてはみんなにはもっと深くまで潜ってもらいたい。同時に、両親が治るまでそばにいたいという思いもあります。
でも、その両方をかなえることは不可能です。僕の身体はひとつしかなく、ダンジョンに潜りながら両親の面倒を見ることはできません。
昨晩、両親と話し合いました。両親は僕が再びダンジョンに潜ってもいいと言ってくれましたが、母は泣きそうでした。
そのあと、いろいろ考えましたが、やっぱりみんなにダンジョンをもっと探索してほしいし、両親のそばにもいたいという気持ちは変わりません。
だから、『赤き谷』が新しいポーターを見つけられるように、僕はパーティを抜ける決心をしました。
この半年間の冒険は、本当に楽しかった。
小さな村にすぎない『赤き谷』に生まれ育った僕が、冒険者になれるとは思ってもみなかった。
時々突拍子もない意見を言うけど、それがなぜかうまくいってしまうケント。
剣も使えて、魔法も使えるマイク。正直言うと、あこがれでした。
マリアさんは魔法もすごかったけど、ダンジョン内でできる料理を教えてくれたのは助かりました。でも、変な食材をインベントリに入れるのは、もうやめてくださいね。
いつも微笑みながら回復魔法をかけてくれたヘレン。最初の頃の戦いで、支援職同志、とにかくふたりで逃げ回っていたのは、いい思い出です。
みんな、本当にありがとう。
そういうわけで、僕、『赤き谷』のポールはパーティを辞めたいと思います。
と言っても、何もせずにあわてて村に帰って来てしまったわけで、必要な手続きがあったらお知らせください。
赤と緑の月が満ちる夜の日に。
ポール