突然の別れ
3日目の朝、俺達は予定どおりダンジョンから帰還した。みんなの足取りは軽い。
アイテムバッグは当然ながら、売らずにパーティで使うことにした。回復師のヘレンが持つことになった。
経験値の増加はその後も起こった。20階層でも、25~27階層で戦うのと同じぐらい経験値が得られた。
ドロップアイテムも良かった。さすがにアイテムバッグのようなレアアイテムはそれから出なかったが、出てきた魔石は良質で、25階層を討伐するのと同じぐらいの成果があった。
今回の探査はポールの収納魔法が使えないため、持ち込む食料品を最小限にせざるを得なかった。干し肉などの保存食と、魔法で出したお湯にハーブを入れたスープだけで3日間を過ごしたが、次回からはアイテムバッグがあるので、そんな我慢をする必要はない。そう思うと、休息時の雰囲気は悪くなかった。また、ドロップアイテムの大半は持ち帰ることができないと覚悟していたが、アイテムバッグのおかげで全部持ち帰ることができた。
ダンジョンの出口に近づくと、見覚えのある影が見えた。
「「「「ポール?」」」」
出迎えに来てくれたのかと思ったのだが、様子が違う。これから旅に出るような装備をしていたからだ。それに、ポールは泣きそうだ。
「昨日、妹から手紙が届いたんだ。父さんと母さんがポイズンフロッグにやられたって」
「「「「チェスターさんとエバさんが?」」」」
俺達5人は、同じ『赤き谷』の出身だ。全員がポールの両親を知っている。
ポイズンフロッグにやられたということは、毒による筋肉萎縮症か。何もしなければ、20日ぐらいで毒が心臓に届き、ゆっくりと死んでいく。
「みんな、ごめん。僕は村に帰りたい。ポーションを届けたいんだ」
ポールはリュックのベルトを両手で握りしめながら言った。リュックを背負っているのは、ポーションの中に毒を打ち消すマイクロスライムが入っているため、生き物扱いになり、インベントリに入れることができないからだ。ポーションを毎日飲ませていれば、寝たきりになることはあっても死ぬことはない。その後、半年ぐらいかけて毒がゆっくり抜けていく。俺は、みんなの意見を確かめずに、思わず言った。
「かまわない。俺達のことは気にしないで、すぐに帰ってくれ。今からなら、今日の馬車に間に合うはずだ」
「本当にごめん」
頭を下げるポールに
「謝る暇があったら、さっさと馬車乗り場に向かってくれ。それから、ご両親に毎日強化魔法をかけ続けろ。レベルアップした今の強化魔法なら、効果はあるはずだ」
「わかった、ありがとう」
ポールは涙で顔をくしゃくしゃにしながら、俺達に別れを告げる。
「赤き谷の名のもとに!」
「「「「「赤き谷の名のもとに!」」」」」
それは、いつもはダンジョンに入る前に交わす言葉だった。
それから10日ほどして、『赤き谷』宛てにポールからの手紙が届いた。