20階層で戦う
2日後、俺達は20階層の墓地で戦っていた。
「これでスケルトンは全滅だな。俺が見張っているから、ステータスを確認してくれ。ドロップアイテムの確認はその後だ」
俺は疲労感を我慢しながら、周辺を見回す。わかっていたとはいえ、ポールの強化魔法に頼らずに戦うのはつらいものだ。
「本当、強化魔法さまさまだよな。20階層だというのに、29階層で戦った時よりしんどかったぜ……ステータスオープン」
「「ステータスオープン」」
魔法剣士のマイク、魔術師のマリア、回復術師のヘレンの声だ。
「おい、俺達が倒したのはスケルトンだよな?」
「ありえない……スケルトンでこの経験値?」
「HPやMPの消耗は多いけど、経験値はそれ以上……」
3人は何度もステータスを確認する。俺もステータスを開いて、経験値がいつもより多く増えていることを確認した。
「ケントはどうだ?」
「ああ、俺の経験値もいつもより増えている」
「どういうことかしら? 強化魔法を使わないと得られる経験値が増えるとか?」
「経験値が戦いの疲労度と比例するなら、マリアの推理は正しいかもしれん」
俺が同意すると、マイクが
「まだ強化魔法を使わずに戦ったのは1回だけだ。今回だけかもしれんぞ」
と疑問を呈し、ヘレンがさらに
「ポールが強化魔法を覚える前はどうだったかな? 覚えてない……」
と発言すると、そうだよなぁ、まだ結論を出すのは早いよなぁ、という流れになった。
そして、見張りをしている俺以外の3人はドロップアイテムの確認を始める。
「おい、俺達が倒したのはスケルトンだよな?」
「ありえない……スケルトンでこの魔石?」
「スケルトンナイトの魔石に近い……高く売れそう……」
3人の声はさらに続く。
「おい、俺達が倒したのはスケルトンだよな?」
「ありえない……スケルトンがこれを持ってたの?」
「こ、これ、アイテムバッグ!?」
アイテムバッグは収納魔法の代わりになるレアアイテムだ。20階層で出ることは珍しい。ギルドに報告しても、たぶん信じてもらえない。
「と、とにかく、どのぐらい入るか確かめよう!」
マイクはそう叫ぶと、左手にアイテムバッグを持ち、右手で近くの墓石に触れると、ひゅんっと墓石が消えた。
「入った!」
マイクは、別の墓石にさわる。ひゅんっ!
「すげぇな、これも入った!」
さらに近くの墓石をひゅんっ! ひゅんっ! ひゅんっ! ひゅんっ!
結局、50基あまりで墓石は消えなくなり、それ以上収納できなくなった。これが限界らしい。マイクはアイテムバッグの中身を一度に全部取り出すと、積み上がった墓石の山を見上げながら
「ポールのインベントリの倍以上入るな!」
「入るわね!」
「うん、入る!」
「マイク、もう一度、墓石を収納して元の所に戻した方がいいぞ。このままじゃ、死者に失礼だ」
俺が突っ込むと、3人にジト目で見られた。こんな時に正論を言うもんじゃないな。話題を変えよう。
「容量がわかったから、次は、内部で時間が止まるか確かめよう。マリア、砂時計を持っている?」
俺が尋ねると、マリアはうなずいて小さな砂時計を取り出した。彼女は攻撃魔法のスピードを上げるために、砂時計を使いながら訓練することがあるのだ。
「じゃひっくり返して……えいっ!」
今度はマリアがアイテムバッグを左手に持って、右手で砂時計をアイテムバッグに入れようとした。入る直前に砂時計もひゅんっと消えた。しばらく時間がたってから砂時計を取り出すと
「大丈夫、時間は進んでいないわ」
「食べ物を入れても腐らないということか!」
「腐らないということです!」