つむぎ
「なっ!? それを先に言いなさいなっ! こうしちゃいられないわっ! お父さんどいてくださいっ!! お父さんより先に私がおばあちゃんって呼ばれるんですからねっ!!」
そうお父さんに言われたお母さんは『ハッ』とした表情をすると急いで孫である私の娘の前まで来ると、先ほどのお父さん以上に娘にアピールをし始める。
その光景を見て、娘は幸せ者だなと、思う。
「なんか、美奈子の性格ってお母さんに似てるんだな」
「なっ!? そんなバカなっ!? 何をどう思えばそういう思考になるのかっ! 全くもって似ても似つかないでしょうにっ!!」
「はははっ。 そういうところだよ」
「ぐぬっ……」
そしてそんなお母さんを見て何をどう持ったのか水樹が私の事をお母さんに似ているというではないか。
はっきり言って自分はお母さんには似ていないとすら思っているのでその事を水樹に抗議するのだが笑いながら「そういうところだよ」と指摘されるではないか。
そして、言われてみれば確かに! とその瞬間思ってしまった自分がいる事に気づいた私は思わず言葉に詰まってしまう。
「この娘はどっちに似るんだろうね。 お母さんである美奈子似かな? それともお父さんである俺かな? またはどっちも似ているところがあるのかな? 顔もどっち似だろうね。 お母さんに似て美人だと良いけど俺に似てても美人かもって思ったり。 今は、お猿さんみたいだけど、ここから元気にすくすくと育ってほしいと無条件に思えてしまう程愛おしいな……可愛いなぁー」
「……可愛いね。 きっと性格も顔もどっちに似ても可愛いよっ」
「そうだね」
きっと、私のお母さんとお父さんも、そして水樹の両親も、私たちが産まれた時はきっとこんな気持ちだったのだろう。
だったら、私の性格がお母さんに似ていても、それはそれで良いものだと思えてくるから不思議である。
そしてどちらからとも無く、私達は手を繋ぐ。
今現在私は車椅子に乗っているのだが、その車椅子に乗っている私に合わせて、手を繋ぐ時若干しゃがんでくれる水樹の、そういう素で出てしまう優しさもこの娘には似ていて欲しいな、なんて事を思う。
「名前、何にしようか? 決まった?」
「うん。 今まさに決まった」
「すごいタイミングだな。 それで、この娘はなんて名前なんだ?」
「つむぎ。 紬に衣と書いてつむぎ。 彼女の人生は衣が糸で折り重なるように幸せが折り重なるような、そんな人生になってほしいのと、私たちや私たちの親の思いも一緒に彼女の人生に折り重なっていてほしいなって……」
「……つむぎ……良い名前だね」
そう、娘の名前を口にする水樹の顔は今まで見た事ないくらい幸せそうな表情をしていたのであった。