サプライズ
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「ねぇ見てっ!! めっちゃイケメンなんだけどっ!! 彼女とかいるのかな?」
「絶対いるでしょ。 あれでいない方がおかしいと思う。 てか万が一いなかった場合は現在進行形で水面下では女同士の醜い争奪戦が勃発してるわよ」
「やっぱりかぁーっ。 でも私彼女いても良いっ! 二番目でも全然許せる。 そう思える程のイケメンだわ」
耳を澄ませば聞こえてくる女性達の囁き声。
あぁ、その囁き声は実に甘味なり。
そして声を大にして言いたい。
あの男性の彼女は私で、彼は今私にぞっこんラブであると。
今現在、私は猛勉強の末水樹と同じ大学に合格、そして今日は初登校日である。
因みに今現絶賛同棲中である。
まさに幸せとは私たちの事で、私達とは幸せという事である。
しかしながら一緒に登校しようといくら言っても今日だけは別々に登校しようと水樹が譲らなかった為に今、私はこうして、学舎へ続く通りにあるベンチに座って、小説を読みながら一人で水樹を待っているのである。
実際に読んでいるのはライトノベルなのだが背表紙で隠している為、側から見れば私はまさに文学少女としか見えないであろう。
その文学少女の中身がゲームオタクで、アニメオタクであると誰が気付こうか。
女性は常に仮面を被り、仮初の自分を演じて生きていくものよ。
そ、それにしても水樹、やけに女性から注目されていないかしら。
流石の私も妬けてしまいそうだわ。
あのイケメンは私の彼氏ですよっ! と、声を大にして叫びたい。
「お待たせ」
「本当、待ちくたびれたわよ。そもそも何で同棲しているのに別々で登校しないといけないのよ。 私、初めての通学は二人でしたかったのに」
ようやっと私の所まできた私の彼氏である水樹は、拗ねる私の頭をやさしく撫でながら、私にだけ見せる優しい表情をする。
いつもの手である。
正直、これをされたいが為にたまにわざと不機嫌なふりをしながらおねだりする程の大好物な行為なのだが、今日の私は、それだけで許すほど……許すほど……あぁ、幸せだ。 好き。 水樹好き。
「って、それでいつも私が満足して許すと思ったら大間違いだからねつ!」
「正直今許しかけただろ?」
「う、うるさいっ! で、でも頭を撫でるのは止めないように」
「はいはい」
そして聞こえ出す女性達の悲鳴と悔しがる声。
ふふふ、そう、水樹は私にぞっこんラブであると言ったであろう。
「とりあえず、これを予約してて、朝イチに取りに行ってたんだよ。 家に置いてたら即バレしそうな気がしたし、こればっかりはサプライズで渡したかったんだ」