一人一本は行きわたるんじゃなかろうか
そして自ら喧嘩を特売で売ってくる眞子であるのだが悲しいかな、今からヒエラルキーの頂点であるリア充軍団と戦わなければならない運命を背負っている私からすれば目の前のヒエラルキー最底辺の眞子を目の前にした所で全くと言って良いほど腹が立たない。
まるで象を見た後にアリから喧嘩を売られても何らプレッシャーを感じない様な、そんな感じである。
「ったく、だからさっきから頭の中がダダ漏れだって言っているでしょうがっ!って、リア充軍団にアンタ一体全体何をしでかしたのよっ!?早く土下座しに行きなさいよねっ!私まで火の粉が大量に飛んできそうで怖いんですけどっ!?」
「しでかしたって何よ、しでかしたってっ!?そもそも親友であるのならばここは『仕方ないわね、私も一緒に戦ってあげるわ』が正解なんじゃないんですかねっ!?」
「どう考えても犬死じゃないのよっ!」
「い、犬死だなんてやってみないと分からない………事も無いけれどもっ!!確かに限りなく犬死かもしれないけど、産まれた時は違えど死ぬ時が同じなのが親友とかいて姉妹なんじゃないかしらっ!?」
「私たちは親友だと思っているけれども、だからと言って桃園の誓いめいた事をした覚えはないわよっ!ほら、最後くらい一緒にスマホアプリゲームを協力プレイしてあげるから」
「ぐぬぬぬぬ、じゃ、じゃあこのカースシリーズ武器育成アイテム回収周回でも良い?」
「まったく、今日だけだぜ我が友よ」
「………うっさいわね」
なんだかんだで眞子とのこの日常めいた雰囲気によりかなり落ち着けてきたので、少しばかりは感謝をしようと心の中で思う。
「おはよー」
そんなこんなである意味で有意義な、そしてある意味では死刑執行を待つ死刑囚の様な気持ちで眞子と一緒にスマホアプリを協力プレイしていると聞きたくない声が聞こえてくる。
辺りを見渡すといつの間にか、自分が思っていた以上に時間が経っておりクラスメイト達が八割ほど教室にいるではないか。
その中にも当然比較的早く登校するリア充グループ(予鈴と共に登校するグループと、そうでないグループがいる)が見受けられる為、何故私に絡んで来なかったのか少し疑問に思うもののそのままスルーして頂きたいと切に願う。
その為なら今あるお小遣い全額捧げても……………来月発売のあつまれどぐうの森を買いたいから全額は無理でも百円くらいなら捧げても良いと思っている。
この百円でうんめぇ棒を買えば一人一本は行きわたるんじゃなかろうか?
「み、水樹君っ!!」
「ん?どうした?サユ?」
そして高城が登校してきたと同時に石田小百合が神妙な面持ちで高城に近づくと声をかけて来る。
その光景を見て私は何故だか胸が痛み、いい気はしなかった。
「マクドであった時の、水樹君と一緒にいた女性って…………」
「あぁ、俺の『妻』の事ね。それがどうしたの?」
やはりというか何と言うか昨日の件について確認しに来たようである。
そしてその石田の問いかけに高城は何の躊躇いも無く満面の笑みで『妻』であると声高々に宣言するではないか。
その瞬間クラスの空気、主に女性陣の空気が氷点下まで下がり、男性陣の空気は一気に真夏日もかくやという温度にまで一気に変化したのが肌で感じられて背中から冷汗が止まらなくなる。
確かに高城は嘘など一つもついていない。
私は高城の妻である。
しかし正確には一緒にやっているVRMMOの高城が操作しているキャラクターと私が操作しているキャラクター同士が夫婦というだけでありあくまでもゲーム内のシステム上の話であり、現実世界の私たちの関係はと聞かれれば『ただのクラスメイト』でしかないのだ。
あぁ、胃がキリキリしだして来た。
「………っ!?そ、そんな…………」
そして高城の口から『妻』という言葉を聞きこの世の終わりかの様な表情をする石田さん。
いや、辺りを見渡せばほとんどの女性が同じような表情をしていた。
「か、彼女との関係はいつからなの?」
そして石田さんは意を決したかのように言葉を喋る。
その表情は『そんな話聞いてないし、聞きたくない。けど知りたい』といった彼女の複雑な感情及び緊張が手に取るように伝わって来る。
そして高城の返答を聞き逃さまいと静まり返る教室が否応なしにクラスメイト達の緊張感を物語っている。
「あぁ、そうだな。彼女との関係は四年前からかな。『俺の妻』になってからは今年の十月で二年目だな」
その瞬間、高城というライバルが減った男性陣の歓喜の声と、密かに恋心を抱いていた女性陣の悲鳴が教室に響き渡る。
何故、何故高城は『妻』という単語しか使わないのか。
抗議した上で諸説丁寧に何故妻なのかという事を説明したいのはやまやまなのだが、そんな勇気などうあろうはずもない。
ただただ悪化していく現状に胃を痛めるだけである。
「どうしたのミーコ。うんこ我慢してる様な苦悶な表情を浮かべて。冷汗も尋常じゃないじゃない。まさか本当に限界なの?」
「そうね、今あんたに対しての怒りも限界に来そうだわ」
あぁ、私には安全圏でうら若き乙女に向かってクソったれた暴言を吐いてくる親友に、今私が感じている苦しみとストレスを倍にして体験させてやりたいと心の底から思うのであった。
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