白狐ちゃんは婚約破棄に興味津々です
「少しよろしいかしら?」
彼女は急に現れた。
艶やかでありサラサラとなびく白い髪
白魚のようとはこの事だろうと思う白い肌
赤い瞳はアクセントとなって美しさに花を添えている
身体も同年代とは思えない艶かしいスタイルをしている。
皆と同じ制服を着用しているのに
まるで女神が舞い降りたようだった。
だが彼女にはこの国のものにはない、
頭の上に好奇心でピクピクと動く真っ白な耳。
腰のところから伸びるふわふわと揺れ動く9本の尻尾があった。
さっきまでの騒がしかった中庭は騒然と鎮まりかえった。
「運命と聞こえたの。私に運命とはなんなのか教えてくださらない?」
誰も知らないこの美しい乱入者に誰もすぐには対応できずにいた。
―――――――――――――
秋のある日。
紅葉が咲き誇る学園の中庭。
メープルという名前がつくこの国の中にある一番有名な学校
それがここ国立メープル学園。
国の名前がつくだけあり、優秀なものしか入れない学園である。家柄、魔法、勉学、剣術。
多岐にわたる優秀な生徒が入る学園。
そう。優秀な生徒のはずなのだ。
「俺は君とは婚約破棄をさせてもらう。」
「僕も君とは婚約破棄をするよ。」
「私も君とは付き合いきれない婚約破棄をさせてもらう。」
「お前がそんなやつだと思わなかった婚約破棄をする。」
中庭で4人の見目麗しい男たちが1人の女生徒を庇い立ち大きな声で宣言をしていく。
対峙するのは4人の普段は美しいであろう女性だ。
今は皆顔がこわばっていたり、睨んでいたりしている。
1人の女性が気丈にもこわばった顔のまま前に出てきた。
「理由をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
「理由などわかり切ったものではないか。俺はここにいるフランを愛している。フランは俺の運命である。そのフランを虐めたお前らを許すわけがない。」
「私達虐めてなんていませんわ!婚約している殿方とむやみに近づいてはいけませんと。当たり前の注意をしたまでです。」
「俺たちの愛を独り占めしたフランに嫉妬して嫌がらせしたことはわかっているのだ。証拠もある。なのでもう一度言う。俺たちは婚約を破棄す「少しよろしいかしら?」
そこに急に女神は現れた。
誰も声を上げることはできずただ呆然と圧倒的な美に
戸惑い固まるしかなかった。
「運命と聞こえたの。私に運命とはなんなのか教えてくださらない?」
誰も返事をすることができなかった。
圧倒的な美に少し、ほんの少しだけ慣れた一部の生徒達は
彼女が自分たちと同じ制服を着ていることに疑問を持った。
「あら嫌だ。私ったら先走りすぎましたわ。
名前を名乗るのを忘れてしまったの。
今日から留学してきた、カナデと申します。
皆さまよろしくしてください。」
留学生ということに彼女の耳と尻尾を見て皆が納得した。
彼女は海を挟んだ先にあるルナ国出身なのだと理解した。
ルナ国は獣人の国として有名だ。
だがしかしその国は鎖国的でなかなか外に出ないということでも有名で、生徒達は皆初めて見る獣人の彼女から目が離せなくなっていた。
でもなぜ彼女が急に留学をし、尚且つ今この場に急に乱入したのかわからないことだらけで、一部のものは思考を放棄した。
「皆さま?私のお声が届いておりまして?
もしかしてちゃんと喋れてないかしら?先程運命と言ってらした方。私喋れてまして?」
急にふられた、先程婚約破棄を宣言した男は、
彼女に見つめられ、真っ赤な顔をしながら何度も縦に首を振った。
彼女は赤くなってる彼に近づいていく。
「おにいさん?先程運命と言ったらしたけど、どうやって気づいたの?番いの香りがしたの?でも私番が運命とはあまり信じれないの。番でなくても愛を貫くものもあるでしょ?
やはり運命となると感情がわかるとか?それともどちらかが死にそうになると共鳴するのかしら?まさか瀕死状態の時にキスで蘇ったの?ねぇおにいさん?私に教えてくださいませ?」
美しい女性に近寄られ、たくさんの質問を一方的に投げかけられ、彼の顔色は忙しなく動き、周りのものは少しだけ哀れに思った。
「フランは俺のことを癒してくれるんだ。」
「まぁ回復魔法持ちなの?それはすごいのね。
でも回復師なら沢山いましてよ?」
「そうじゃないんだ。フランは仕事や学業でいっぱいいっぱいになってる俺を慰め、褒め、そして時に休ませて癒してくれるのだ。」
「そうなの?んーでもそれならあなたの婚約者様のあなたの仕事を影から手伝い、周りのものにあなたの素晴らしさを話し、時にあなたを激励するのは違いますの?」
「そんなことをしてくれてたのかっ?
嫌でも、フランは俺のために焼き菓子を作ってくれたり。」
「婚約者様は貴方のために執務室にいつもこっそり簡単に食べれる軽食やお菓子などを差し入れしたそうですわ?」
「あれは君がしてくれてたのかっ。
だがフランは癒しだけではない!隣でいつも笑顔で俺の話を聞いてくれる。俺をただの1人として接してくれる。それだけで俺は幸せなのだ。」
「んー?婚約者様は貴方の話をしっかり聞き、帰ってからはしっかりメモをし、そして次その話をされた時にはきちんと同じ立場で話せるよう努力していたと、貴方の隣にいる未来のためならこのような努力すら幸せと話していたのですが?」
彼はなにも言えず驚いた目で婚約者を見ていた。
「運命のことが知りたくて貴方の婚約者様に先にお話を聞いていて、なんて素敵な愛なんでしょう。これが運命なのかしらと思っていたんですが。運命とは難しいのですね?」
「あら?貴方何故そんな目で婚約者様を見ていらっしゃるの?先ほどまでは憎悪の瞳で見てらしたのに?
運命様が不安がっておりますわよ?ん?不安にさせる時点で運命ではないのでは?」
周りの見ていた生徒は気づいていた。
彼の心が婚約者にむきかけていることに。
だがそれを許さないものがいた。
「待ってください!私が運命だって!私だけだって言いましたよね?忘れてしまったんですか?」
「あら!運命様!やはり不安になってしまいますよね?
可哀想に。ですが運命様?貴方にはあと3つ運命が残っていましてよ?ですので大丈夫です。3つの運命って初めて聞きましたね。ありなのかしら。」
また場は静かになった。
やっと優秀な彼達は気づいたのだ。
彼らの運命が皆んなで共有なことに。
何故こんなに入れ込んでいるのかに。
そして庇い立っていた彼女から一斉に離れた。
「どうしたのですか?運命から急に離れて?やはり魅了の魔法で作られた運命はいけませんでしたか?作られた運命は運命ではない?ですが運命とは神に作られたものとも言いますからアリなのかと思っておりました。」
運命と言われ続けた彼女は顔が青くなっていき小声でぶつぶつと囁いている。
「なんで?あとちょっとだった。うまく攻略できてたのに
!こんな展開知らない。どうしよう」
彼女がぶつぶつと言っている間に誰かが呼んだのか、
先生と衛兵が彼女を捕らえて連れて行く。
彼達は魅了が解けたのか、婚約者の方をむいた。
「すまない。君がこんなに俺を愛してるだなんて気づかなかったんだ。俺の運命は君だったんだ。」
手を差し出したが
「ごめんなさい。冷めてしまいましたわ。
冷めてしまったからこれは運命ではなかったのでしょう。
婚約破棄了承しました。」
美しい婚約者達は揃って中庭から出て行ってしまった。
そして今日も白狐ちゃんは運命がわからないまま終わる。