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祈る者のブルー

「アンブロース嬢、申し訳ないが、目立たぬよう同じ馬車に。そのまま、私の屋敷に来ていただきます。」


 明らかに顔をしかめたレオノルに、言い訳がましい言葉を並べる。


「構いませんわ。むしろ、御迷惑をおかけしてしまうのは、私の方。」

「いいえ、そのようなことはありません。荷物はそれだけで?」


 あからさまにほっとして見せるアウグストは、昔の印象と少し違って見えた。感情を上手に操っているように見えたのに、アウグストは、ダフネの前で感情をこぼしているように見えた。

 婚約者時代ですら、ほとんど会話らしい会話をしてこなかったが、不思議とあのころ感じていた劣等感のようなものはなかった。

 これも、2年間、祈り続けたおかげかしら。


「ええ、私は修道女ですもの。多くを持つことに、意味はありませんわ。」

「今までは、確かに、そうですね。屋敷に戻ったら、服や身を飾るものを仕立てましょう。」


 必要ない、そう喉元まで出かけた言葉を、ダフネは飲み込んだ。ここで、微笑んで嬉しいとまで言えたら、合格なのだろうけど。

 ダフネは、窓の外を見つめた。


「アンブロース嬢、お父君のご葬儀ですが、あなたが到着次第、すぐに執り行います。隣国の侵攻が迫り、立派なものにはできませんが。」

「質素倹約を旨としておりましたもの。十分ですわ。」

「伯爵領については、またご相談させていただきます。」

「そう…ですわね。」


 男女に関係なく長子相続であるため、アンブロース伯爵位を継ぐのはダフネだ。だが、実際の経営は、男子が行うことが常とされている。

 したがって、伯爵位をもつダフネの夫、もしくは血縁者が領地経営を行うことになるだろう。


「葬儀には、この姿は適さないわね。」


 ぽつりと、ダフネは言葉を落とした。生成り色のワンピースは簡素で質素だったが、喪服とは呼び難いものだ。

 このワンピースをダフネが好んだのは、この質素な姿でいることが、言い訳になるからだった。

 自分は貴族令嬢である前に、祈る者だと言い訳できるからだった。





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