アドニスのブルー
「宰相閣下は、無実の罪で投獄され、病を得てお亡くなりに。我が家の力で、何とか、無実を証明いたしましたが、間に合わず、申し訳ありませんでした。」
「……罪とは?」
「横領です。国庫の収支が閣下が就任されてから合っていないと。」
「父は、国庫の管理は任されていましたが、直接金庫に触れることはできませんでしょう。」
「そもそもの収益が誤魔化されていた上、閣下が就任する年からだったので、お気づきになりにくかったのだと思います。」
父が見落としていたと聞いて、ダフネも父親が人間であったのだと、気づいた。
「閣下の名誉は回復されましたが、閣下を貶めたものを、上げられたわけではありません。黒幕にたどり着く前に、しっぽを切られてしまいました。そのうえ、隣国からの侵略宣言を受けました。」
「侵略……」
「宰相閣下、亡き後、国の統率が乱れると判断されてのことかと思います。この国にとって、閣下は真の実力者でしたから。」
父が、死んだ……。ダフネは静かに瞬きを繰り返した。真実なのだろう。父が死んだことは。
「父は誠に死んだのですね。」
「……はい。冗談であれば、よかったのですが。」
まるで、ダフネが取り乱すと思っているかのような、心配顔で見つめられた。ダフネは、まったく取り乱すつもりはなかった。
「……まことに、どう言葉をかけてよいか。」
「必要ありません。事実だと認識しただけで、感傷的になっているわけではありませんので。」
「そう、ですか。」
「感情的になることを、父は最も嫌いました。母のように感情を表してくれるなと、幼き頃から言い聞かされてきました。泣きわめくなど、父が最も嫌う行いですから。」
「それは……つらいな。」
小さくつぶやかれた同情に、ダフネは一瞬、反証しようかと思った。それに、何の意味もないことに気づき、やめた。
感情をあらわにすることが罪だったのは、幼いころだけだ。社交を学べと言われた時から、感情を利用しろと言われるようになった。
ダフネには、その方法が分からなかったが、この男で試してみるのもよいかもしれない。そう思った。