てのひらのブルー
「なんの、御冗談ですの。」
「冗談ではありません。このような訪問になってしまったこと、申し訳ないのですが、ともに来てください。事情は馬車で説明いたします。あなたへの宰相閣下のお手紙も預かっております。」
「……お嬢様、」
「ここも安全ではなくなる。早く、」
「この方は、信用に値しません。宰相閣下にお手紙を書き、お返事を待つべきです。」
本来であれば、レオノルの言葉を実行に移すべきだったが、時は急を要するという彼の様子がまるっきり嘘にも思えなかった。
「私が信用に値しないことは、重々わかっています。お叱りはあとでいくらでも。ですが、今は、アンブロース嬢の命が最優先だ。」
「宰相閣下が、もしお亡くなりになったとして、手紙をこの方に託すはずがありませんわ。」
「アンブロース嬢!」
「……手紙をお見せくださいますか。父の筆跡であったのなら、いったんは、あなたを信用して、ついていきましょう。あなたが、私を屠る理由も、あまりないように思えますし。」
「お手紙をお見せします。それと、一つだけ。」
そういうと、彼は地に片足をつき、突然、ダフネの手を取った。
「私は、命に代えても、ダフネ・アンブロース嬢をお守りします。」
唇が掌に触れる。その意味を、ダフネは知らない。
レオノルがダフネの手から、アウグストの手を払いのけた。
「その言葉ほど軽い誓いの言葉を、私、聞いたことはございません。」
レオノルの言葉に反証することもなく、アウグストは手紙を取り出した。確かに、父の筆跡だった。
流麗で繊細な筆跡だったが、たいがいその手は、ダフネに無情だった。




