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ノブレス・オブリージュ、だからこそのブルー

 


「あなたには選択肢があるわ。シーロ・タルラゴ。」

「選択肢?面白いことをいう。時間を稼ぐためなら、やめた方がいい。時間を稼いだところで結末は同じだ。」

「時間は稼いだって無駄。誰も助けに来ないもの。もし、あなたの雇い主が本当に、クイーンならね。私は、時間を稼ぎたいんじゃないわ。あなたと私の未来の話をしたいだけよ。」


 どういう意味だ。

 その視線は、鋭かった。商人という身分にもかかわらず、シーロ・タルラゴの纏う色は、ダフネの良く知る人のものと似ていた。無害な顔をした危険な香りをまとう人。市井に落ちた貴族の婚外子が、どんな姿をしているのか、ダフネは初めて見た。


「あなたは搾取されているわ。」


 きっと、生まれてからずっと。そして、これからもずっと。


「私が?違う。私は、搾取される立場にない。搾取する立場だよ。馬鹿な貴族から、そして、この国から。」

「そして、それをクイーンに搾取されている。」

「……これ以上は、話しても無駄だ。お前を売る前にすることがあるんだ。」


 人を呼ぶために手を叩こうと、男が両手を上げる。


「でも、あなたは取り返せるわ。クイーンから。いえ、レーヌから。」


 ぴたりと止まった、その手の行方をダフネはじっと見つめていた。今更、操をささげる気などなかったが、少しだけプルシャンブルーを想像した。


「あなたを捨てたあの人から。」

「お前に何が分かる。」

「ずいぶん、陳腐なセリフね。分かるわけがないじゃない。あなたが、私のどうしようもない悔しさや、屈辱を理解できないように。」


 どうしてだろうか。父はシーロ・タルラゴを危険だと言っていた。でも、ダフネには、母親に振り向いてもらえないさみしさを埋めるために、必死に縋り付いている子供のようにしか見えなかった。陳腐で、つまらない、面白みのない男にしか見えない。


「たとえお前を助けても、あの人が傷を負うことはない。私が切り捨てられるだけだ。」

「分かっているなら話は早いわ。あなたは、クイーンを守る捨て駒のポーンよ。切り捨てられて終わりで良いの?あなたは自由になれるわよ。私よりも簡単に、あの人からも、メトロポリテーヌからも。だって、あなたはシーロ・タルラゴ、商人なのだから。」

「自由になってどうする。」

「それは、そこから考えればいい。」


 行ける場所まで、行けばいい。とどまる場所がないのならば、走って行ってしまえばいい。

 今となっては、ダフネには行けないその場所に、商人である彼ならば行ける。

 たぶん、ダフネは、プルシャンブルーに染まったあの日にだけ、その場所に行けただろう。

 ダフネは、今、どこに向かって歩いているのかも分からない。自分が誰の陣地で誰とゲームをしているかも分からない。ただ一つ分かっているのは、ダフネが行きたい場所だけだ。そこに行きつくことは叶わなくとも、夢見ることはできる。夢を叶えることはできずとも、心の大切な場所にしまうことはできる。


「交渉が下手だな。」


 それは、まだ、初心者だから。そう言い訳する時間もなく、もう一度、人を呼ぶために上げられたシーロ・タルラゴの手を、ダフネは見つめた。







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― 新着の感想 ―
[気になる点] レブノス、ではなくノブレスではないでしょうか。 たぶん。 [一言] 2作品とも読ませていただき、物語に漂う空気感がとても素敵だなと思いました。 作品を読んでいるとき流れている時間が違う…
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