喪失のブルー
「婚約者と名乗って面会にいらっしゃる方が、あなただとは思いませんでしたわ。」
面会室にレオノルを伴って向かったダフネは、不思議なくらい冷静だった。2年間、神に祈り続けた甲斐があった。
ダフネは、何度か瞬きをしてから着座した。
相手が立ち上がり、挨拶を交わすのが常だが、今、ダフネは修道女なのだ。その必要性はない。
「このような訪問になってしまったこと、お許しください。ただ名乗っただけでは追い返されると思いましたので。」
「当たり前ではありませんか!あなたが、お嬢様にした仕打ち、お忘れになったのですか!」
「レオノル…おやめなさい。どんな言葉を言っても、過去は変わりません。」
「いや、レオノル殿がおっしゃることはその通りです。忘れてはいませんし、許していただけるとも思っておりません。」
「……そうですわね。どんな言葉を言っても、過去が変わらないように、どんな言葉をもらっても、過去が変わることはありませんもの。」
昔と変わらず、まぶしい人だ。ダフネは期せずして目を細めた。外見だけではなく、賢く、文武に長け、社交も得意としていた人だったが、あのころよりも大人になった気がした。
時が止まっているのは、自分だけなのだろう。
ダフネはそう思った。
「そんなことのために、いらっしゃったわけではありませんでしょう。ここは、今を生きる人間にとっては、退屈な場所です。」
「……お迎えに上がったのです。」
「迎え?誰が、誰を。」
「ショックを受けずに聞いていただきたいのですが。……お父君がなくなられました。」