貯水池のブルー
「娘を託します。」
「良いのですか。」
「良くなければ、託しません。娘を不器用だ、不器用だ、そう思っていたが、あなたも大概だった。そんなに欲しければ、くれてやりますよ。」
「そんな、物みたいに。」
「ええ、その通り。だから、ものにできるかは、あなた次第です。」
宰相は、もともと病で長くはなかった。それを牢獄に入ることで、縮めてしまったのだが、それは、宰相の策だった。
ずっと、反対していたが、宰相の決意は固い。このことを、家族のだれにも告げないと決めていた。
「この国は、盤石ではない。フェリペ様の時代は、決して安泰ではない。膿を出すには、私が消えるのが一番ですよ。それも、効果的にね。」
「でも、膿は出し切れませんでした。」
「これより先は、あなたが、出さなければ。」
宰相の手から、手紙を受け取る。ダフネ・アンブロースに当てられた手紙だった。その文字を見るだけで、アウグストは落ち着かなくなる。
「メトロポリテーヌは、わが領地の鉄を必ず狙いに来ます。ダフネが女伯爵になれば、絶対に。メーナは、その足掛かりにすぎない。」
「必ず、お守りします。」
「シーロ・タルラゴに注意してください。メーナを取り潰しても、あきらめないでしょう。」
ダフネを迎えに行ったのは、宰相の遺言だったからだ。それに何の偽りもないが、下心がないわけではなかった。
蒼に染まったダフネを、自分のものにしたかった。




