カーネーションのブルー
「これが、あなたの答えかい?」
寵姫になると選択したのは、ダフネ自身だ。
テオドラ・ウレタに言われたからでも、自暴自棄になったからでもない。
でも、誰の目からも、そう見えたことだろう。
陛下は、ダフネの答えに満足気でありながら、どこかつまらなそうだったから。
ダフネが、その答えを伝えてすぐに、王宮にあがる準備を始めた。母は、とても楽しそうだった。
娘が歩む道がいばらの道であることを知っているくせに、母は愉快そうに笑うのだ。
嬉々として、ドレスを用意し、宝飾品も買いあさる。
数か月前まで、修道女として生きてきたダフネにとっては、まばゆすぎて、まぶしすぎる現実だった。
「あなた、意外と黄色も似合うわね。」
メイドに、黄色のカーネーションを髪に飾らせているのを後ろで眺めながら、母はつぶやいた。
この花を選んだのも、このドレスを選んだのも母だ。
寵姫ではあるが、娘の最初で最後の結婚式になるかもしれないと、白に寄せた淡い黄色のイブニングドレスを選んだ。楚々としていて、ダフネにも違和感のないデザインだった。
今日これから、王宮に上がる。
ただ、後宮に召し上げられるわけではなく、ダフネは先に謁見室に通される。
その意味が分からないほど、愚かではない。
伯爵位を正式に継がせないと宣言されるのだろう。
ダフネは、このゲームにも負けたのだ。
「綺麗ね。さすが、私の娘。こんな形でしか、皆に見せられないのが残念だわ。」
「お母さま……」
「でも、ダフネ。花の時間は短いのよ。」
あなたは、どんな実を結ぶのかしらね。
母の問いかけに、ダフネは答えられなかった。
母はどんな実を結んだのだろうか。尋ねたかったが、それができる関係ではない。
冷え切った父との関係を、母はどう思っていたのだろうか。娘との希薄すぎた関係も母の中でどんな風に消化されているのだろうか。
聞きたいことは山ほどあるのに、ダフネはどれも聞くことはできなかった。
次に会った時に尋ねればいい。
ダフネが次に王宮を出るとき。それは、死んだときであることを、分かっていながら、そう嘯いた。
これから歩む道がどんないばらの道であっても、ダフネは自分の足で歩むと決めた。
アウグストに口づけた、あの日に、ダフネは決めたのだ。
自分の足で立ち、自分の足で歩んでいくことを。




