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フェアリーテールのブルー

 喪が明けるまで社交界に戻ることはない。

 もともと、ダフネは社交が得意ではないし、正式に社交界デビューも果たせていない。

 れっきとした令嬢であるにもかかわらず、成人したとは表向き認められていない存在である。

 前回の陛下からの招待状が異例だっただけで、喪が明けていないうちに社交を行う必要性などダフネにはなかった。

 だから、ダフネに不名誉な噂が届くまで時間がかかってしまったのだ。


「ダフネ様と、アウグスト・ノエ・フォンセカ侯との不適切な関係……」

「私がここに身を寄せているから、かしら。」

「いいえ、フォンセカ侯がお嬢様を保護していらっしゃるのは、皆の知るところです。それが、宰相閣下のご遺言であることは。さすがに、それに対してお嬢様の名節を疑う噂を流すのは、死者への冒涜ですわ。それに、相当具体的な内容を含んでいましたから、この屋敷の中の人間が漏らさない限りは。」


 そのうわさ話を拾ってきたのは、レオノルだった。レオノルは日ごろからアウグストの行いに目くじらを立てていたので、相当、今回のことは怒り狂っていた。


「具体的な?」

「迎えの際のアウグスト様のなさりようや、薔薇園での逢瀬ですわ。」

「それで、批判されているのは侯爵ではなく、私なのでしょう?」


 レオノルは苦々しい顔を隠さなかった。こういった時に、非難を受けるのは、男ではなく女であるというのは通例だった。

 神は自分に似せて男子を作り、そこから欠けた女子を作った。だから、平等を欠く世界になったのだろう。男は女から生まれるにも関わらず。


「この屋敷も、盤石とはいかないわけね。」

「誰が、噂を流したのかは、すでに分かっています。」


 ノックと共に入ってきたナシオは、そう告げた。無礼だと怒るレオノルに、失礼とだけ返したナシオに、反省の色はない。


「そう。」

「誰が犯人か、聞かないのですか?」

「聞いたところで、私の家ではないもの。私が処罰するわけではないし、知ったところで、今更ね。」


 自分の身近からすでに一人、侍女がいなくなっていることに、レオノルもダフネも気づいていた。


「アウグスト様のお怒りは深く。紹介状もお書きにはなられませんでした。」

「彼女は、嘘をついていないけど?」

「主家の内実を、他者に話したのですから、当たり前です。それに、アウグスト様は、ダフネ様第一のお方。あれは、いささか、優しい主人に懸想し過ぎた。」


 まあ、かわいそうね。


 ダフネは、真実そう思って口にする。


「私、第一ね……」

「そうでなければ、あのような振る舞いはなさいません。」

「私の名節が疑われるような?」

「それは……私も我慢が足りないと、申し上げてはいました。ですが、あなた様も煽っていらした。」


 私が、悪いの?


 扇子を取り出し、口元を隠すと、レオノルがそんなはずありませんと、憤る。


「悪いのは全面的にアウグスト様です。手に入らないと思っていたものが、傍にあることに抑えがきかなかったのは確かです。あなたの名節が疑われるようなことになってしまったことには、フォンセカに全面的な非がある。」


 先を促すように、扇子を閉じる。わずかに、ぱちりと音が鳴った。


「アウグスト様は、あなたを娶る形で話を収めようとしました。ですが、今回のことは、それで収まるような問題ではなくなりました。」


 閉じた扇子を、手の中でくるりと回す。

 収まる問題ではなくなった。それを聞いて、ほんの少しだけ、ダフネはがっかりした。

 それは、思ったように、ゲームが進まなかったからだ。


「陛下とのこと、秘密にされていましたね。」


 ダフネはわずかに、目線を上げた。その先にいたナシオは、どことなく悔しそうな顔をしていた。







投稿ミスしていました。投稿お休みして申し訳ありません。最終話まで連続投稿します。

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