表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/37

ポーンのためのブルー

 きらびやかなホールは、燭台の明かりでちらちらと揺れる。炎が揺れるたびに、貴婦人たちを飾る装飾品がきらびやかに輝く。

 アウグストの亡くなった母の妹にあたるドミニカは、既婚ではあるが美しい淑女の一人だった。

 この舞踏会を彩る宝石の一つのようだ。喪服を連想させる暗い紺のドレスを身に着けているダフネの方が、まるで、付添人のようだ。


「ダフネ、まずは陛下にご挨拶を。それから、ダンスは、名前を書きに来た男性の中で、ふさわしい方を、私が選びます。」

「はい、お願いいたします。」

「あなたは、正式なデビューを果たせていないわ。でも、今や、あなたは伯爵を継ぐものです。皆が、あなたに注目しているわ。」

「はい。」

「あなたは、完璧な淑女です。そのことを忘れないように。」


 舞踏会では、暗い色の服は目立つ。だが、喪に服していることを示すこと、舞踏会に参加せざるを得ない状況であることを加味した中では、最もふさわしい色を、アウグストは選んでいた。

 髪飾りも、耳飾りも、どれも、地味なものだが、どれも蒼で統一されている。それは、アウグストの瞳の色だ。


「ここでの出会いは、あなたを助けもするし、危険にもするわ。でも、一つだけ。もし素敵な殿方がいたら、声をかけなさい。はしたないと思われても構わない。あなたが、幸せになれるなら外聞なんて構わないのだから。」

「ドミニカ様」

「本当はアウグストに言われたの。あなたに近づく男性を蹴散らしてほしいって。そんな色の装飾品ばかりつけさせて、あの子は愚かよ。そんなことをするのなら、過去に帰って自分を殴り飛ばすべきだわ。」


 扇子を広げて、ため息を隠す。


「あの子は不器用なの。でも、それは言い訳にはならない。一人の女性の人生を変えたのだから。」


 そういわれて思い出したのは、テオドラ・ウレタのことだった。彼女の人生はどうなったのだろうか。

 身分以外完璧な淑女と呼ばれた彼女は、どうなったのだろうか。

 考えたくもないことだったのに、ふと思ってしまう。アウグストとテオドラ・ウレタの恋はどんな散り方をしたのだろうか。


「違うわ。あなたの人生よ。あの女は、自業自得。アウグストが変えたのは、あなたの人生よ。」


 だから、あなたはあなたの人生を歩きなさい。素敵な殿方を見つけるの。

 ドミニカの言葉は、難しく思えた。感情を制御しろと言われていたダフネは、人形のようにそれを行った。

 感情を操れと言われて、ダフネは、アウグストを相手にそれを始めた。

 ゲームはアウグストとダフネ、どちらが勝つかはまだ分からない。盤上は霧でよく見えないのに、ダフネにはアウグストが優勢のように思えた。

 この盤上にあらたなプレイヤーが入ってくれば、ダフネはアウグストに勝てるのだろうか。

 陛下に当り障りのない挨拶をしてから、ドミニカに勧められるままに、何人かの男性と踊る。誰に対しても、ダフネは微笑み、淑女らしく振舞った。

 人形と言われたダフネは、人形としての新しい側面を手に入れた。微笑みという表情だ。

 それをするたびに、アウグストならどんな反応をするだろうかと、想像する。

 そんな想像をしているから、ゲームに負けるのだ。

 ダフネは、一人の殿方に、狙いを定めることにした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ