正体
ローザが持ってきた紅茶を一口飲む。……うん。やっぱり美味しい!
「あ、この通り毒は入っていませんので殿下もどうぞ!」
毒味を口実に先に飲んでしまったことを誤魔化す。しかし、誤魔化せていなかったのか殿下は笑いだした。
「じゃあいただくよ」
紅茶を飲んでいる間、部屋に静寂が流れた。
「……うん、美味しい」
何だか自分が誉められているようで嬉しい。後でローザに教えてあげよう!いや、その前に殿下に聞かなければ。
「殿下、先程ローザに不審者がいると伝えなかったのにはどういう理由が?」
私が殿下にそう問いかけると、彼はドアを見てこう言った。
「今も見ているんですよね?不審者……いや、精霊さん?」
ゆっくりとドアが開き、ハシビロコウに良く似た喋る物体が部屋に入ってくる。え?どういうこと?
「いつから僕が精霊だって分かったの?」
「公爵がこの部屋を退出した後に、ドアの隙間から、一瞬精霊特有の煙の様なものが入ってきたので」
そんなの気付かなかったけど。確か、精霊は魔法を使ったときに煙が出る。つまり、結構前から部屋の前にいたことになる。
「やっぱり、出ちゃってたか。その事については後で説明するから先にこっちから。不審者だと思われたのは、お嬢さんに謝ろうと機会をうかがっていたんだけど……何となく入りづらくて。もじもじ悩んでいたら、お嬢さんが部屋を出てくるもんだから、この姿よりもまだましかなと思って護衛の姿に認識させました。紛らわしいことしてすみません」
「後もうひとつ、謝ろうとしてたことなんだけど。……ごめんなさい。探している使用人のメノさん?は僕が後ろから話しかけられたことにびっくりして、転移させてしまいました。久しぶりに下界に降りてきたから、力の制御が出来なくて。煙が出てたのもこのときだと思う。ほんとにごめんなさい!」
なんだ、精霊かぁー。ってあまり納得は出来ないけど。と言うか、転移ってどこにだよ!
「えぇと、精霊さん?メノはいまどこにいるの?」
「多分だけど、サンフィル公爵家の何処か」
何処かって何処?それに何故サンフィル公爵家?
「魔法でここにまた戻らせることは出来ないの?」
多分無理だから謝っているのだろうけど、念のため聞いておく。
「ごめん、転移魔法は送ることは出来ても戻ってこさせることが出来ないんだ」
うん、やっぱり無理だよね。
とりあえず、ローザを呼んで状況を説明することにした。
今日はもう一話投稿予定です。