6話 海と缶コーヒー、女の子ー2
その日から、俺は休日のたび海に通うようになった。
「おにーちゃんおはよー!」
「おはようあやめちゃん。でも俺は君のお兄ちゃんじゃないよ」
「じゃあ……おねーちゃん?」
「うーんそれは違うかな」
「……ネエさん?」
「……おにーちゃんで。」
そんななんでもないような、でもかけがえのないようなやり取りを繰り返した。
あやめちゃんは楽しかったこと、嬉しかったことをニコニコしながら話してくれる。そんな姿を見ていると、俺の頬も自然と緩んでしまった。
「このまえはね、たろうくんにお花をもらったの!」
「……おい、たろうって誰だ! お兄ちゃんそんなの認めないぞ!」
「おにーちゃん、こわい……」
……そんなやり取りもあった。
雫ちゃんと3人で遊ぶこともあった。
「あやめちゃんあやめちゃん! 今日はいい波よ! 泳ぎましょう!」
「しずくちゃん。ふゆはあぶないから、ゆーえーきんしなんだよ」
「ご、ごめんなさい......」
あやめちゃんの方が雫ちゃんよりお姉さんだった。そんなやり取りを俺は笑いながら見ていた。
「あやめちゃん競走よ! 先に向こうに着いた方が弥生のお嫁さん!」
「しずくちゃんはまだこどもだからけっこんできないんだよ! あやめがおよめさんになるの!」
……何をやってるんだあの二人は。やれやれと言う俺の頬は緩みまくって今にも落ちそうだった。
「よーいドン!」
「こらー!しずくちゃんふらいんぐー!」
白い息を吐きながら楽しそうに走り回るあやめちゃんはどこから見ても元気な普通の女の子で、あの夜見た何かを焦がれるような少女の顔とは似ても似つかなかった。あやめちゃん、君はいったい、何者なんだ。




