表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜宮少女  作者: 藍色きつね
竜宮少女
16/18

第16話 そして、筆は走り出す

「……」

 夢を見ていたようだったが、手に持っていた箱が夢でないことを物語っていた。

「あやめ!」

 後ろから声が聞こえた。

「よかった……。見つかってよかった……」

 どうやら岬は彼女を探し回っていたようで、息が上がっていた。

「夢を見たんだ……。あやめが海に飲み込まれてしまう夢を。お前までいなくなってしまったら、私はもう耐えられない……!」

 膝をつく岬をあやめちゃんが優しく抱きしめる。

「おとーさん、わたしはそばにいるよ。おとーさんがつらいなら、わたしはおとーさんの補助輪になる」

 その言葉に岬はハッとする。

水弥子みやこに……」

 震える声で、とても愛おしそうにその名を呼んだ。

「お母さんに、会えたんだね」

「うん! わたしも、おとーさんも、おにーちゃんもしあわせになるの。おかーさんが見てるから」

 あやめちゃんと岬が俺を見る。岬は涙でぐしゃぐしゃになった顔で言う。

「やはり……君が弥生くんだったんだね。ありがとう。妻に会ってくれてありがとう。そうかもしれないとは思っていたが、怖くて聞けなかったんだ。君は、私たちのことを憎んでいるだろうと思っていたから」

「もう少し早く知っていたらそうだったかもしれない。でも、母さんにあんたのことを聞いたよ。礼を言うのは俺だ。母さんを……救ってくれてありがとう」

 俺の頬を一筋の涙が濡らした。波の音が、子守歌のように聞こえた。

 

 その日、帰った俺は母さんのくれた箱の中身に正座して向き合っていた。

「やっぱり……母さんだな」

 怖いけど、いまこそ、「そのこと」に向かう勇気を持つべき時だった。

 話をしに居間に行くなり、ばあちゃんとじいちゃんはいきなり頭を下げた。やめてくれよと言う俺に彼らは言った。

「私たちは許されないことをした。今更謝って許してもらえるなんて思っていない。ただ、謝らせてほしい」

「あぁ……ただで許そうとは思ってないよ」

「私たちに償えるならなんだってするよ、弥生」

 謝るばあちゃんたちに俺は、ずっと諦めていた、けど諦めたくなかった、一年前言えなかったワガママをここで使った。

「俺、絵の学校に行きたい」

 右手に握りしめた筆、母さんがくれた筆が熱を持っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ