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序 むかしむかしあったとさ

 完全に思い付きで書いていますがよかったらお付き合いください。書くのが遅いので頻度が遅いのはご容赦ください……

 妙な浮遊感を覚えつつ目を覚ました。気分がすぐれない。もともと寝起きが悪い方だが、今日は磨きをかけて気怠い。それになにか違和感を感じる。二回ほど瞬きしたのち、自分がいるのは自室のベッドの上でないことを理解した。


 さて、どうしたものか。寝ぼけていて思考が覚束ない。辺りを見回す。驚いたことに三百六十度薄く黄色っぽい白い壁に囲まれており、ドアも窓もない。どうやら自分は球状の何かに閉じ込められたようだ。しかもなんか揺れている気がする。目覚めたときに感じた浮遊感が続いている。おまけに甘くていい香りがする。フルーティーな感じの香りだ。


 感覚が刺激されたからか、やっとまともに脳が動き出したが、状況が理解できない。ここは何だ? なんで自分はここにいる? というかどうやって入ったんだろう。壁には出入り口の類はおろか継ぎ目一つない。形状は多少歪だが密封されている。待てよ、密封…… ? 脳裏を酸欠の二文字がよぎる。こんな意味不明な死に方ってあるか?


 そこまで思い至ったときはっとした。思い出した。目を覚ます前のこと。きっと、あの時。自分は死んだに違いない……


 あれは会社からの帰り道だった。自分は不本意ながら営業職をしていたのだが、なんだか最近全体的に成績が芳しくないようで、上司にもっと努力しろと言われて帰ったのだ。思い出しただけで腹が立つ。全体的に売れ行きが悪いというのに、個人の努力不足が原因とはちょっと無理があるんじゃなかろうか。別に努力していない訳じゃないし、サボってもいない。むしろ部署の中でも真面目にやっている方じゃないだろうか? ああ腹が立つ。

 

 本当は営業なんて嫌だった。子供のころからの夢は作家になることだった。小学校中学年ぐらいから友達と遊ぶより本を読んでいる方が楽しくなってきて、読めそうな本を手当たり次第に読んだ。中でも好きだったのは大人向けの、シリアスな小説。子供向けの本はつまらなかった。主人公の人生がとことん転落していく話や、戦争ものなんかをよく読んでいた気がする。だから課題図書を読んで読書感想文を書くなんていうのは苦行にしか思えなかったのをよく覚えている。


 別に鬱々とした翳のある少年だったわけではない。ただ頭お花畑なハッピーエンドが気に食わない。それだけだった。そんなわけで文系を選びそこそこ有名な大学に進学し、小説家になる夢は叶わなかったが広告代理店に就職した。コピーライターとして採用されたわけではないが、著作物を作って売る仕事に携われたことで満足していた。残念ながら喜びに浮かれたのは一瞬で、ここから皮肉にも自分の人生が転落し始めた。過労、パワハラに加えて、同僚たちと違って認められず、失敗ばかりして責められる自分への焦り。確かに、彼らは明らかに自分より優秀だったし、自分は明らかに無能だった。疲労と焦りと承認欲求に耐えられず、一年ほどで心を病んだ。それからもしばらく頑張ったが駄目だった。比較的仲の良かった同期が重要な仕事を任されたのを見て何もする気がなくなった。そのまま退職。その後一年ほど療養と称して所謂ニート状態。前の会社は給料だけは良かったので貯蓄は一応あったことのだが、それが甘えを生んだ。この一年の空白は痛く、二回目の就活で苦労する羽目になった。自分なりに妥協に妥協を重ねて入ったのが今の会社。どこで間違ったのだろうと、ときどき思う。

 

 思わず鬱々としたものを吐露してしまった。他人に愚痴るには重すぎるので、心にしまっておくようにしているのだが、つい悶々と自問自答してしまう。


 話を戻そう。そう、そんなわけでストレスが溜まりに溜まっているので、たまに酒でも飲もうと思ったのだが、居酒屋は落ち着かない。独りになりたかった。だけど雰囲気のいいお店に行くほどの収入はない。結局家で飲むことにして、帰り道、スーパーに寄って酒を買ったのだ。そこから先はシンプルだ。店を出るとやけに高速でこっちに向かってくる車が目の前にいて、焦ったがもう間に合わないとなぜか冷静になって、運転手がブレーキを踏んでくれること、そしてそれが間に合うことを祈りつつ瞑目して……

 

 今に至る。


 夜だったし見えなかったにしろスーパーの駐車場にあんな高速で入ってくるなんて正気の沙汰じゃない気もするが、田舎でほぼ他に車もいないのでついつい踏んでしまうのだろうか。まあこれは考えても仕方ないか。なにせ今は謎の空間にいて酸欠で死ぬかもしれないのだ。あれ?一回死んだはずじゃ……?


 しばらく考えて自分が出した可能性は二つ。一つは、あの事故の後自分は死んでおらず、意識を失った。

今はそのショックで変な夢を見ている。もう一つは、自分は事故死してここは死後の世界。天国か地獄かは知らん。前者は割と現実的な気がしたが、それにしてはなんか生々しいし、思考もはっきりしている。後者はちょっと信じにくい。いや、死んだっぽいしあり得るといえばあり得るのだが、受け入れにくい。死後の世界とか想像の産物だと思っていた。とりあえず夢説を推す。ここはひとつ、古典的だが頬をつねってみるか。

 

 そこでやっと気づいた。手がやけに小さい。というか手だけじゃなかった。全身が小さい。しかも全裸。

肌も白くてすべすべしてるし、これは……完全に赤ん坊だ。ちなみに性別は変わっていないようだった。輪廻転生なんて信じていなかったが、本当だったのか。どうも夢でも天国でも地獄でもないようだ。直感が告げている。自分は死んだのだと。そして自分は転生した。それもご丁寧に赤ん坊に。


 唖然としたが、再び思考を巡らせる。折角転生したわけだが、早々にして生命の危機なのだ。謎の空間から出られなければ死ぬ確率が高そうだ。酸欠で死ぬかもしれないし、それ以前に食べ物も飲み物もない。なにせ自分は赤ん坊なのだ、大人より弱いに違いない。ここが胎内である可能性も考えたが、それにしては自分は成長しすぎているし、臍の緒もない。この空間だって羊水で満たされてもいない。


 ……じゃあここはなんなんだ?これじゃ埒が明かない。思考を放棄した。学歴は割とよかったんだけどな。とりあえずもう死ぬのは御免だ。折角、新たな生を受けたかもしれないのだ。前世(?)では自殺を考えたときもあったが、今はただひたすらに生きたかった。というかこんな意味分からないまま死ねるか。


 手始めに、壁を叩いてみる。といっても赤ちゃんなので壁を破壊するどころか傷をつけることはできない。……手にべたつく汁がついた。壁は案外柔らかそうだった。フルーティーな香りの正体はこの汁か。


 どうせ全裸でこの汁の上に横たわっていたのだ。危険なものだったらとっくに死んでいるだろう。ということで、手についた汁を舐めてみる。甘い。かなりいける。よく思い出せないが、どこかで食べたような味だ。一心不乱に壁をひっかく。舐める。壁自体を舐めたほうが効率的だと気付いてからは壁を舐めたりかじったりしている。直接かじりつくしかないのであんまりうまく食べられないが、甘いものを摂取できたのは僥倖だった。しかも壁を結構掘れたみたいだ。出ることは難しくても、穴が開けば酸欠の心配はなくなる。


 とりあえず餓死は当分考えなくていいだろう。なにせ三百六十度謎の甘い、汁気のある食い物。しかし新たな問題があった。排泄だ。さすがにこの空間の中で排泄は抵抗がある。食べ物の上で全裸で過ごしているだけで行儀が悪いなあと思うぐらいだ。しかもここは密室。臭うだろうし衛生的にもよくない。そこで栄養補給はいったん中止し、壁に穴をあける作業に没頭していた。


 もう結構な時間壁と格闘している気がするが、不思議なことに疲れがこない。赤ん坊はすぐ疲れて寝てしまうイメージがあるが、大丈夫なのだろうか?この謎の食べ物のおかげだろうか。なんにせよ、疲れないのはありがたい。しばらく壁を削っていくと、壁の材質が変化した。もしかして固い外殻があるのではないかと危惧していたが、杞憂だったようだ。現れた皮のようなものを指で突き破ると、空気が流れてくるのを感じた。安堵。


 しばし休憩して、穴から外を覗いてみる。木々が見える。耳を澄ますと、水が流れる音。川があるのだろうか。よく見えないので、穴を広げてみる。そして気づいた。この球体、動いてる。最初から感じている浮遊感は動いていたからだったのか。さらに驚いたことに、自分は川の上にいるらしい。球体は川の流れに乗って流れている。なんだこの球体……


 酸欠も免れたが、穴を開けたことで新たな問題。浸水したら助からない。穴を上の方に開けてよかった。足元とかに開けていたら……戦慄した。この環境、ちょっと赤ん坊にはハードすぎませんかね。なんか自分の知ってる輪廻転生とだいぶ違うけど、大丈夫だろうか。まあ現状浸水はない。変に移動して球が回転しなければ大丈夫そうだ。排泄問題も、覗いている穴とは別にもう一か所穴を開けることで解消した。下が川なのだから大丈夫だろう。文字通り水洗トイレ。体は疲れないが、とりあえずなんとか生きていけるようになって安堵したせいか、眠くなってきた。驚きの連続すぎたのだろう、脳が悲鳴を上げているに違いない。覗き穴を拡張するように壁を食べて、球を転覆させないようにゆっくりと、慎重に横になった。目を閉じると、すっと落ちるように眠りについた。


 どれほど経ったのだろう。謎の球体の中で二度目の起床。状況を思い出すのに数秒かかった。慣れないなあ。寝ている間にも球体は移動し続けていたようだ。速さは大した事ないが、長い川なのだろうか。よく考えたら、川はやがて海へとつながる。目覚めたら大海原とか勘弁してほしい。それまでには脱出せねば。


 だが、今すぐにこの球を破壊しにかかるのはナンセンスだろうとも思っていた。まず、どう考えても外、すなわちこの川沿いの森で赤ん坊が一人でサバイバルは無理だ。獣の餌がオチだ。こっちへ来てから人どころか人工物すら見ていないが、赤ん坊に転生するぐらいだし多分人がいるのだろう。町か村なんかがあれば保護してもらえる可能性もある。孤児院があれば完璧だ。人がいる可能性に賭けて、人のいそうな場所を見て回るのが得策だろう。人は水がある場所に生活拠点を置くことが多い。生活にも農業にも水は必須だからだ。船があれば運送にも使える。正直、人がいるなら川岸のどこかに集落があり、海へ接続するところに港町的なものがあるのは間違いないと踏んでいた。無ければ人がいないんだろう。そうなったらもうしょうがないな。

 

 そして幸いにも自分がいる球体はゆっくり川を下っている。外も覗けるし、流れている上に球体に守られているので安全だし、一応生活できる。そこで自分が考えたプランは、まず左右を見渡せるよう現在進行方向左側にしかない覗き穴を反対側にも作り、村の類がないか見張る。同時に穴を拡張し、すぐに脱出できるようにする。人がいそうなら速やかに脱出。移動するなり大声で泣くなりして保護してもらう。我ながら名案だと思う。まあそもそも赤ん坊にできることなんてそんなにないのだが… …


 数時間ほど経っただろうか。自分はまだ球体の中にいる。だが川を流れているわけではない。結論から言うと、自分の丁寧で精緻な考察と綿密かつ現実的なプランは無駄だった。自分は今球体ごと老婆とおぼしき人物に引き摺られている。残念ながらまだ穴の拡張は終わっていないので、外に出ることはできない。

どうしようもないので、されるがままになりつつ、現状を考察する。主に、先ほどの老婆っぽい人物の発言についてだ。

 

 十数分前、その老婆らしき人物はこちらを見るなり言った。


 「なんて大きな桃だこと!」

 まだ導入だけですが、よければなんでもいいのでアクションを頂けるとモチベーションが上がります。無論批評も歓迎です。我ながら拙い文章だと思いますが、どうかよろしくお願いします。

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