百合迷宮♡乙女花園
数多の世界を征服することにより、最大版図を誇る独裁侵略世界:『ウルティマリア』。
この世界の脅威が目前となった地上において、人知れず浮上している暗黒領域があった。
それこそが、メガネコブトリが口にしていた『パラダイスロスト』と、『アトラクエデン』。
ウルティマリア軍の8000万と言う圧倒的な兵力に、更にこれら二つの勢力が合流すれば、この地上は瞬く間に灰燼と化す――。
だが、現実としてそのような状況になることはなかった。
それどころか、『パラダイスロスト』と『アトラクエデン』の両陣営に属する者達が、現地の人間をそっちのけで、互いに激しい武力衝突を繰り広げていたのである――!!
第五領域:黄金繁栄都市・『パラダイスロスト』
領域支配者:大富豪・"ユキノ=カレンデュラ"
廃滅属性:虚栄
どこもかしこも眩き輝きを放つ、この世の財宝が全て揃ったとしか思えない豪華な景色が全てを埋め尽くす黄金都市。
この領域の支配者は、絶世の美貌を誇る大富豪・"ユキノ=カレンデュラ"。
絶世の美女だが、どことなく勝ち気な印象であり、現に周囲の者にはキツく当たる傾向がある。
しかしそんな外見・言動とは裏腹に実際は臆病な性格であり、長年の幼馴染みである女性が好きな気持ちを認めるのも打ち明ける事も出来ずに、そんな自身の感情を誤魔化すように、行きずりの男達と一夜限りの関係を重ねるようになっていた。
その結果、ユキノは実は天性の男を魅了する才能を持っており、数多の男達に貢がせまくった事により大富豪となり、遂には資金力を持って一つの世界の頂点に昇りつめるまでに至ったのである。
……しかし、彼女自身は有り余る財宝も、自身に熱心に向けられる称賛も、世界の支配者としての地位にすら興味がない。
彼女の想いは常に、本当の想いを告げられなかったかつての幼馴染にのみ向けられている。
それでも、この世界が誇る圧倒的な財力とユキノの美貌に魅せられたかのように、次から次へと別の世界から獲物が舞い込んでくる。
今日も一人、また一人と、哀れな犠牲者たちが魅了され、堕落し、破滅させられていく……。
『何が黄金繁栄都市よ。私みたいな嘘つきを担ぎ上げている時点で、すべて紛い物じゃない。……こんなメッキだらけの世界なんて、すぐに剥がれて砕け散れば良いのに……』
第六領域:狂信共鳴聖都・『アトラクエデン』
領域支配者:大聖女・"ナクア=ヤショダラ"
廃滅属性:網羅
神々しい光が常に満ち、洗練された造りの建物が並ぶ、まさに聖都と呼ぶにふさわしい世界。
この領域の支配者は、淑女然とした雰囲気の大聖女・"ナクア=ヤショダラ"
黄金繁栄都市・『パラダイスロスト』を支配するユキノの幼馴染にして、彼女の想い人というのがこのナクアである。
……のだが、彼女の実態は老若男女問わず淫欲に耽るというまさに”大淫婦”とでもいうべき性の持ち主。
実はナクアは最初からユキノが自身に持つ恋愛感情に気づいており、素直に自身の気持ちを打ち明けない彼女の反応を弄びながら楽しんでいた。
とはいえ、彼女の気持ちに応えるつもりは一応あるらしく、誰彼構わず情交を行ったのも『ユキノと結ばれたときに彼女を最高に満足させる』ためである。
ナクアの特筆すべき点は、ユキノと違って自分に親愛の情を向ける者達を『すげーどーでもいい』存在だと認識していながらも、自身に有益に動くように積極的かつ巧みに利用していった事である。
彼女はどんなに複雑かつ膨大であろうと、自身を取り巻く人間関係を網羅し尽くし、遂には自身を”大聖女”として崇めさせる宗教組織を作らせ、この世界の頂点に君臨するまでに至ったのである。
上記のように聖母然とした雰囲気の持ち主ながらも、歪んだ精神性を抱えているため、ユキノが抱える様々な葛藤すらも自身の悦楽に利用している節があり、例え、ユキノがナクアに告白して結ばれたとしても、その結末は破滅しかないモノと思われる。
『フフフッ……貴方は、いつになったら素直になるのかしらね?……夜毎繰り返す私への甘い睦言も、乱れた吐息も何もかもが、すべて私に把握されているというのに……ね♡』
二つの世界の住人達は、自身の世界の領域支配者こそが至高である!という思想のもとに、戦端を開き、苛烈にその命を戦場へと散華していく――。
だが、彼らに崇められている二人の美女は、自分達を中心に引き起こされている惨状にも関わらず、両者ともすげーどうでもよさそうにその戦場を俯瞰しながら――互いに相手に対する想いだけを脳裏に思い描いていた。
『パラダイスロスト』の支配者である絶世の富豪美女:ユキノ=カレンデュラは、敵対する世界の支配者にして幼馴染み――そして、想い人である大淫婦にして大聖女と称されるナクア=ヤショダラに対して、普段の強気な印象の彼女からは考えられないような羞恥心と怯えが入り混じった思索にふける。
(……やっぱり、ナクアにとって私は単なる幼馴染みに過ぎなくて、外にいる”どーでもいい”人達と同じように、たくさんいるその他大勢の中の一人に過ぎないの……?そんなの、絶対に嫌ッ……!!)
ユキノは子供のころからナクアに対して、同性でありながら彼女に恋焦がれていた。
だが、拒絶されるのが怖くてその気持ちを隠すかのように……あるいは、ナクアから逃げるように、他のゆきずりの男達を相手に肉体関係を重ねていたのだが、そんなユキノに呼応するかのように、ナクアも変貌――いや、自身の才能を存分に開花させていたのだ。
男達から貢がれることによって『パラダイスロスト』と呼ばれる世界の支配者となった自分と同じように、多くの者達と情交を繰り返した者達を篭絡することによって、『アトラクエデン』という世界で聖女として崇められるようになったナクア。
純粋だったあの頃からは、もうどうやっても戻れないほど二人は変わってしまったが、それでも、気持ちが打ち明けられなかったとしても、かつての仲が良かった幼馴染みとして彼女の成功を労おうと、その日、彼女は自身の世界領域を抜け出し、彼女が座する『アトラクエデン』という世界へ勇気を振り絞って向かう事にした。
……だが、それが全ての間違いであった。
久しぶりに見た彼女の姿は、どこまでも神々しく――それでいて、どこまでも禍々しかった。
多くの形だけの関係を交わしてきた者として、大聖女として崇められているナクアの本性は、すぐに看破する事が出来た。
――表面上でどのように愛想よく振る舞おうとも、内心では他者の存在など”どーでもいい”と認識しており、自分に親愛を向ける者達を破滅へと絡めとる大淫婦。
そして、その事が恐ろしいと思いつつも、長年焦がれてきた彼女にならば、全てを絡めとられて破滅しても構わない、とユキノは思った。
ただ、彼女は許せなかった。――自分自身が愛するナクアから、彼女が”どーでもいい”と思っているその他大勢の者達と同じように扱われる事だけが。
破滅を迎えるのなら、最後は彼女にとってただ一人の”特別な存在”だという実感が欲しい。
”どーでもいい”モノとして、使い潰され数多の者達と同様に埋もれながら、ナクアの中から簡単に忘却されてしまうような存在にだけはなりたくなかった。
気が付くと、ユキノは言葉を交わすどころか、会うことすらせずにもとの世界へと駆けだしていた。
大勢の信徒に囲まれ、握手に応え笑顔を振りまきながらも、ユキノの背中を見つめていたナクアの視線に気づくこともなく――。
この日を境に、ユキノの中で"勇気"と呼べるモノは完全にしぼんでしまっていた。
彼女は『パラダイスロスト』に逃げ帰ると、その日から自身の領域により一層閉じこもるようになっていく。
大きなきっかけは間違いなくこのときの出来事であったが、彼女にはもう一つの大きな懸念があった。
それは、自身の内部に根付く魔王:古城ろっくの悪の因子である。
彼女は賢い女性であり、自身とナクアが彼の魔王から分かたれた存在である……という事を理解していた。
ゆえに、もし自分の想いがナクアに受け入れられたとしても、それは古城ろっくの因子があるべき一つの形に収束しようとしているだけの単なる回帰本能ではないか、という疑心が彼女の中には強く根付いていた。
『人生を弄ばれても構わないから、ナクアの特別になりたい』、『この想いが古城ろっくから分かたれただけのモノではないと証明したい』――そんな願いを叶えるには、彼女はあまりにも諦め、臆病過ぎていた。
だから、事後の後に軽く甘菓子をつまむような感覚で――けれど、そんな甘さに幻想的な光景を夢見る純粋な少女のような気持ちで、彼女はそっ……と願う。
「ナクア……もしも、貴女を囲んでいるたくさんの”いらないモノ”が全部なくなったら――私だけを受け入れてくれる?」
その過程で自分の周りにいる者達がどれだけいなくなっても構わない。
だって、いくらでも溢れてくるから。
そんな投げやりともいえるこの黄金世界の暗君の真実を、誰一人として見ようともせぬまま、彼らは"ユキノ=カレンデュラ"の名声を称えながら死地へとその身を投じていく――。
狂信共鳴聖都・『アトラクエデン』。
この地において大聖女として崇められる、"ナクア=ヤショダラ"。
彼女は現在、誰も寄せ付けないように言い含めながら、”大聖域”と呼ばれる部屋で一人、外で繰り広げられている光景を眺めていた。
自身に狂的ともいえる忠誠心捧げた信者達が、『パラダイスロスト』の傭兵部隊や”ユキノちゃん♡親衛隊”と呼ばれるおっかけグループといった存在に猛然と挑み、信仰に殉じていく……。
その姿を見ながら、彼女は法悦に浸った表情で自身の卑猥な高ぶりを慰めていた。
熱に浮かされながらも、自身の一番深いところは常に冷え切っている。
何故なら、メインディッシュはこんなどーでもいいモノ達ではなく、とっておきのご馳走があとに控えているからだ。
ナクアは大聖女と呼ばれている者とは思えないはしたない表情で舌なめずりしながら、意中の相手へと想いを向ける。
「――フフフッ。そこで怯えながらじっと待ってなさい、ユキノ。……貴女を守っているそのウエハースみたいな脆弱な囲いの数々を、一枚一枚引きはがしてあげるから……!!」
――そうすれば、逃げ惑い隠れ続けてきた彼女も、今度こそたった一人で自分と向き合わざる負えない。
ナクアは、ユキノというたった一人の女性を自身のもとに絡めとるためだけに、地上に現界したことを利用して、二つの世界を巻き込んだ大規模な抗争を引き起こしたのだ。
ユキノさえ最後に引きずりだせれば、後はどーでもいい。
むしろ下手に生き残られると、彼女と自由に会うことが出来なくなるかもしれないので、この戦いが終わった後には”楽園への旅立ち”などと適当に謳いあげながら、全員に自決するように命じよう。
逆に戦力が不足しそうになるなら、この世界の住人達や『パラダイスロスト』側の適当な人間達を相手に股を開き、彼らをこちら側に篭絡してしまえばいい……。
ナクアの指から、体液で出来た糸が逆アーチ状を描いて落ちていく。
偽りの聖女のもとに、二つの世界で生きる者達の命運が絡めとられようとしていた――。
『パラダイスロスト』と『アトラクエデン』。
間違っても権力の座に就かせてはいけない者達によって支配された哀れな世界。
だが、為政者が特定の個人だけではなく”社会”という存在を認識出来ていても、最悪の統治体制に陥ることがある。
それを自身の存在すべてで証明したかの如き、暗君たる女王:レティシア=ウルティマリアが忌々しそうな表情で呟く。
「フン……馬鹿らしい。相手が欲しいのなら、当事者同士でさっさと話しをつければ良いだけじゃない。身体を売ることでくらいしか誰にも相手にされなかった淫売共が、私と同じ”領域支配者”だなんて、反吐が出るわね……!!」
これまで侵略してきた世界に向けてきたような侮蔑とは違う、明確な殺意を滲ませながらレティシアは嘲りの言葉を続ける。
「多少容姿が見れたモノだとはいえ、その程度でそのような卑賤の者達を自分達の”王”と仰ぐとは……どうやらあの世界に人間はおらず、盛りのついた猿しかいないようね!……全く、卑しきモノならそれらしく『セプテムミノス』の化物みたいに自分の領域に閉じこもっていれば良いものを……!!」
彼女の侮蔑と敵意、そして嘲笑といったモノは、次第に他の領域支配者達にまで及んでいく――。
「そう考えたら、あの蛇髪頭の化物はまだ可愛いモノよね。アレの目さえ繰り抜けたら、サーカスの見世物としてなら生かしておいてあげても良いかも。第一領域のケダモノ共は論外。国民に『姉虎とは山賊が獣と交わって生み出した、呪われた悪しき存在である!』とか適当に喧伝して処理させちゃいましょ。多少は殿方の慰安用にも使えるかもしれないし。あとは……」
ブツブツと独り言をつぶやいていたレティシアだったが、ある程度口にしてから、「そうだわ!」と何かをひらめいたような表情を浮かべる。
そうして彼女は、すぐに側近を呼び出したかと思うと、このような命令を全軍に通達する――!!
「我が『ウルティマリア』は、最大最強最高の正義存在領域である事を示すために、これより
『地球』
『おいでよ!姉虎ランド♡』
『アングラケイオス』
『イビルオオツ』
『セプテムミノス』
『パラダイスロスト』
『アトラクエデン』
の山賊的七大醜悪世界に対して、同時侵攻作戦を開始する――!!」
本作は「すげどう杯企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』
※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。
慎んで、深く御礼申し上げます。