『ウルティマリア』
――メガネコブトリ達なろうユーザー達が集う拠点。
現在この場所は、重苦しい空気が充満していた。
この場所のリーダーであるメガネコブトリが、隠し切れない憔悴感を顔に滲ませながら、スコッパー読み専オペレーターに現状を尋ねる。
「……そうか、もう朝になったんだな。それで?対象に何か変化はあったかい?」
「……はい、今はこの世界に来てから安定しており、現在瞳を閉じたまま沈黙を保っています……」
彼女が報告したのは、現在この世界に浮上している暗黒領域の一つ:『セプテムミノス』の支配者であるメドゥーサ:テラスについてだった。
オペレーターの報告通り、現在テラスは当初のこの世界に来たことによる混乱を落ち着かせ、悲鳴を上げることもなくこの世界に関わらぬ意思を示すかのように、瞳を閉じた状態で空を仰いだ姿をしていた。
……とはいえ、その被害はまさに甚大であり、彼女が狂乱の最中に”魔眼”をこちらの世界に向けた事で、都市の三分の一は完全に石となってしまっていたのだ。
メガネコブトリ達がいた場所は何とか無事だったものの、”魔眼”が映す範囲には軍勢を迎撃しにいった"辺境スローライフ・モノづくり作家"と、"推理系男装少女作家"の二人もおり、彼らは石化の影響に巻き込まれる形で帰らぬ人となった。
現在『セプテムミノス』のテラスを警戒しているのか、他の『おいでよ!姉虎ランド♡』、『アングラケイオス』、『イビルオオツ』の者達もこの世界への侵攻を控える形で自身の暗黒領域に待機しており、この世界に束の間の――いつ崩れてもおかしくないような均衡が保たれていた。
これらの情報を分析しながら、この世界に侵攻している暗黒領域の者達についてメガネコブトリが意見を述べる。
「……まぁ、今回の件で古城ろっくの因子から分かたれた彼らも、全てが全て完全に統一された意思で動いている訳ではない事が戦果として分かった。それが出来るのなら、メドゥーサと連携して効率よくこの世界を侵略していてもおかしくないからね。……まぁ、もっとも現状のままで済むとは思えないが……」
「オイ、そんな言い方はないだろ!!……こっちは同じなろうユーザーが二人もやられてるんだぞ?」
アクション作家の男性が、メガネコブトリの態度に我慢できないと言わんばかりに彼の胸倉をつかむ。
その様子を見た詩を紡ぐ女性が「やめてください!」と声を荒げる。
彼女の制止の声を聞いたアクション作家が、憤懣やるかたない表情のまま舌打ちをしてメガネコブトリから腕を放す。
メガネコブトリは服と眼鏡を正しながら、彼に対して謝罪の言葉を口にしていた。
「すまない。僕は人の感情の機微に対して配慮が欠けている部分があってね。職場でも後輩――まぁ、彼が年下なだけで立場上は同じなんだが、彼に対しても今のような事をしてしまったりしたんだ。……現状分析が必要だと思っていたが、リーダーにも関わらずみんなの気持ちを考えられていなくて、本当にすまなかった」
「……」
メガネコブトリが謝罪をするが、この場を険悪な空気が支配する。
そんな空気を打ち破ったのは吉報ではなく、この世界の現状を示すかの如きどこまでも続く凶報であった。
「――未確認の数値を検出!……新たなる暗黒領域の出現、確認しました!!こちらの世界へ侵攻するための、準備を行っているようです!!」
そんな知らせに対して、メガネコブトリが指揮官としての凛々しい顔つきに戻りながら、詳細を尋ねる。
「次はどこの領域だ!?『パラダイスロスト』か?『アトラクエデン』か?――あるいは、その両方か!?」
これまで起きたパターンから、最悪の事態を想定しながら緊張した面持ちで確認するメガネコブトリ。
だが、彼にもたらされたのは否定の言葉であった。
「そのどちらでもありません!……顕現したのは、『ウルティマリア』!!――十大暗黒領域の中でも、もっとも最大規模を誇る”第七領域”です!!」
このまま事態が進んでいけば、それは、当然いずれ遭遇することになる存在に違いなかった。
だが、それでもその名を聞いた瞬間、この場にいた全ての者達の胸中をこれまで以上にない絶望が覆い尽くす――!!
第七領域:封絶独裁王国・『ウルティマリア』
領域支配者:絶対終身女王・"レティシア=ウルティマリア"
廃滅属性:隠蔽
武器工場が乱立しているためか淀んだ空気が蔓延し、他の世界から連れてこられた奴隷や貴族に虐げられた平民が死んだ目をしながら、明日をも知れぬ日々を過ごす世界。
この領域の支配者は、独裁体制を築き上げた高慢な女王・"レティシア=ウルティマリア"。
”山賊”という存在を絶対的な悪と見做す”反・山賊教育”を国民に施すことによって、国内の不満を外に向けさせ、山賊を倒すという名目のもと、国民に多大な重税や兵役を科すという圧制を敷いている。
とはいえ、レティシアは人生において本物の”山賊”と関わったことなど一度もない。
彼女はただ単に、幼少期に平民や他の貴族の子供達が夢中になっていた”山賊小説”を『王家たる者に相応しくないから』という理由によって、自身の父母や周囲のお付きの者達に読む事を許してもらえず、話の輪に入れなかった悔しさから、『自分が不愉快な想いをするのは、全て山賊のせい』と考えるようになり、その頃の忌まわしい思い出から、半ば思いつきで”反・山賊教育”を国内に導入するようになっただけである。
当然、山賊が全ての悪しき元凶などとは本気で信じておらず、現在は自身の政策の失敗の隠蔽や取り巻きの貴族・閣僚と私腹を肥やすために、この政策を積極的に利用している。
古城ろっくから受け継いだ因子を強大化した者は他にいるが、もっとも醜悪な形で歪ませながら開花した存在が、このレティシア=ウルティマリアという存在と言える。
現にその事を証明するかのように、他の世界に果敢に侵略活動を繰り返しているため、十大暗黒領域の中でも最大の支配版図を誇っている。
『この世のすべては”山賊”が悪いのです!彼らを殲滅するためにも、王家によりいっそうの忠節を尽くし、税を納めなさいな♪』
最大領域世界ともいえる『ウルティマリア』。
数多の世界の可能性を喰らい尽くし、そこの住人を強制的に奴隷として併合して更なる悲劇を産み出していく……そんな、最悪の具現そのものであった。
その『ウルティマリア』に君臨しているのは、高慢な雰囲気を漂わせた美しき女王:"レティシア=ウルティマリア"。
彼女は現在、集った臣民達を相手に、この世界侵攻に向けての最終演説を行っていた。
「この世界にある全ての悪意、卑しさ、貧しさ、汚濁、下劣さ……それらはまさに、万物の敵である"山賊"によってもたらされたもの!!……ゆえに、起つのです!臣民!!王家の旗のもとにあらゆる世界の山賊を一切の区別なく叩き潰す正義の光を結束させ、輝かしい未来をつかむために、貴方達の命、財産、果ては家畜の餌に至るまで!その全てを捧げるのですッ!!」
『捧げるのですッ!!』
自身の右わきを左手でおさえながら、右手をピン、と高く垂直に掲げて唇をすぼめる、というウルティマリア式の敬礼をしながら、一斉にそのように複唱する『ウルティマリア』兵達。
国が推し進める”反・山賊教育”によって、山賊を憎むようになったもともとのこの世界の住人達は、レティシアの演説を受けて、『自分達は悪しき山賊を倒すための”聖戦”に参加しているのだ』と奮い立つ。
そして『ウルティマリア』に併合されたことによって、奴隷兵に貶められた者達も今より良い身分を得るため――あるいは、例えどれほど理不尽だろうと、自分達が受けている苦しみを他の世界の者たちに味わわせるために、この戦争に身を投じようとしていた。
そんな彼らを前に、更にレティシアが戦意高揚のための檄を飛ばす――!!
「この”地球”と呼ばれる世界にいるのは、”山賊”達を庇いながら彼らを支援し、その見返りとして醜悪に利益をむさぼる卑劣な山賊信者・テロリスト予備軍ばかりです!!……四季折々によりどりみどり、豪華絢爛に老若男女に至るまで!"山賊もどき"たるこの世界の住人達に我等の正義の鉄槌をくだしてやりなさい!!負けたりなんかしたら、徴税率50%アップだから、”覚悟”しておきなさい♪」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
レティシアの演説を聴き、大義と恐怖から盛大に沸き立つウルティマリアの兵達。
そんな彼らを満足そうに眺めながら、レティシアは優雅に演説場をあとにする――。
絶対終身女王"レティシア=ウルティマリア"。
古城ろっくから分かたれた悪の因子を受け継いだ存在でありながら、彼の意思や言動を全て歪曲させ、ただ自身の欲望を満たすためだけに利用する醜悪の化身。
破滅と罪業を振りまく、災禍の女王に率いられた8000万ものウルティマリア軍による猛威が今、この世界に迫ろうとしていた――。
『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』
※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。
慎んで、深く御礼申し上げます。
 




