去り行く背中
強烈な地響きを轟かせながら、動く石像達が進軍していく。
前に立ち塞がる者達をなぎ倒していく石像軍団の前に、朴然とした表情のまま、それでも明確な阻害の意思を持って立ち塞がる一つの影があった。
言わずもがな、それは無謀ともいえるこの迎撃作戦に名乗り出た大柄の男性なろうユーザーだった。
石像達は一瞬、何事かと動きを止めたのだが、それが取るに足らない一人の人間であると判断すると、勢いよく彼の方へと殴りかかっていく――!!
「――……ッ!!」
無言ながらも、極大の圧力がこもった拳で殴りかかってくる石像達。
いくら男性なろうユーザーが大柄とはいえ、これだけ強固な物体の塊が直撃すれば、ひとたまりもない。
このまま迫りくる無言の暴威によって、為す術もなく無残な躯になるしかないかと思われた――そのときである!!
「……僕は、野蛮なのは嫌いなんだなー」
――刹那、石像達の腕が一斉にひび割れ、砕け散っていく!!
表情がないにも関わらず、彼らはうろたえたかのようにオロオロと、動き回っていた。
そんな石像達を眺めながら、大柄ななろうユーザーはいつの間にか目元をゴーグル、口元にマスクをかぶせており、どこからか取り出したハンマーやタガネ、ヤスリを腕に握りしめていた。
そしてそのまま、見かけに反した俊敏な動きで次々と石像達を加工していく――!!
彼は、『現代社会で生きることに疲れた主人公が、異世界の辺境でモノ作りに励みながらスローライフに自信ニキ!』な作品の作者であった。
彼は巧みな技巧を駆使しながら、並みいる石像達を次々と暴力的からは程遠いファンシーなオブジェに作り替えていく――!!
まさに、石像達がもとは人間であったという事を知らないかのような所業だが、これにより進撃を行っていた石像達を完全に無力化する事に成功していた。
「権力闘争や戦争なんかに関わりたくないのに、なぜだかみんなから引っ張りだこ♡」
自作品におけるキメ台詞を口にしながら、自身の仕事ぶりに満足する大柄男性なろうユーザー。
石像を操作して攻撃する事が出来なくなったテラスの蛇達は、慌てた様子で石製のオブジェから這い出ると、そのまま自分達の故郷である『セプテムミノス』へと逃げ帰っていく――。
『イビルオオツ』から独断専行ともいえる形で、地球へと乗り込んできた警察・探偵連合軍。
そんな彼らの前に姿を現したのは、推理ジャンルを得意とする男装少女であった。
彼女のもとに、束縛因 飛鳥の尖兵と化した警察兵や探偵兵たちが、明確な敵意を瞳に宿しながら猛然と迫る――!!
「不審なモノを所持していないか、大人の持ち物検査をさせろォォォォォォォォォッ!!」
「今宵、この地で法律は死んだ……!!だから、ともに今度は新たな命を産み出すのだ!!」
……明確な敵意を瞳に宿しながら、猛然と男装少女に迫る――!!
そんな彼らを前にしながらも、怯えた表情を浮かべることなく強い眼差しを彼らへと向ける。
「やれやれ、馬鹿を言っちゃいけないな。……まぁ、君達くらいの小悪党にはボクが推理するまでもないかな?」
自分達を舐めている、としか思えない男装推理少女の発言を前に、『イビルオオツ』の者達が、嘲りの表情とともに彼女を嘲笑する。
「クククッ、何が”推理”だ!?貴様のような小娘とは、年季が違うのだよ!!……貴様如きに、解ける謎などありはしない!」
「然り!!数多の難事件に挑んできた我々の実力を舐めるなよ!」
そう言うや否や、警察兵や探偵兵達が瞬時に、推理系男装少女の眼前で迷宮入り難事件を構築していく――!!
不可能ともいえる世界規模の完全犯罪を達成してきた飛鳥の手腕を間近で見てきた彼らは、飛鳥のもとで学んだ知識や技術、そして、かつてのまっとうな刑事や探偵として活躍してきた自分達の知識や経験を最大限に駆使することによって、並大抵の捜査や推理では暴く事が出来ない大いなる"闇"を作り上げていた。
一人の少女相手に対して行うには、あまりにも行き過ぎているとしか言いようがない暴虐に違いない。
しかしそれは、かつて正義や真実を求めて様々な凶悪事件に挑みながらも、『束縛因 飛鳥』という最強最悪の元凶の前に屈する事になった彼らに残された最後の意地――。
そんな自分達を前に平気で"事件解決"を口にする少女に向けられた、彼らによる渾身の問いかけだったのかもしれない。
だが、それでも彼女はミステリー作家であるにも関わらず、そんなモノを相手にする価値など微塵もないのだと一蹴する。
「馬鹿馬鹿しい。こんなチャチな事件とやらに時間を割く必要性を、ボクは微塵も感じないな……!!」
そんな男装少女の発言を、闇の中からくぐもった笑い声と共に嘲る『イビルオオツ』の者達。
「ふん、結局は臆したか。まぁ、これだけの難事件を前にすれば無理もないだろうな!……諦めがついたのなら、ここで大人しく我等の餌食となるが良い……!!」
彼らの毒牙がジリジリ……と、迫ろうとしていた、まさにそのときである!!
「だって君達……こんな事件を構築する前から、悪い奴の手下としてこの世界に侵略しに来ていたじゃないか?」
刹那、この場にいる全ての者達に衝撃が走る――!!
そんな彼らに追い討ちをかけるように、男装少女の鋭い視線が迷宮入り難事件の裏に潜んでいた『イビルオオツ』の尖兵達をまっすぐに射抜いていく――!!
「てゆうか、最初にボクと出会ったときに変な事を叫びながらこっちに襲いかかってきていたけど……あれってどうなの?普通に犯罪でしょ……」
『ッ!!グ、グアァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?』
冷静な口調ながらも、ドン引きした感情を隠そうとしない少女の物言いを前に、数多の容疑者達の魂が打ち砕かれていく――!!
彼らが内心で『束縛因 飛鳥』という巨悪を憎んでいた気持ちは、紛れもなく本物だったのだろう。
だが、どれだけ飛鳥に反発してようとも、彼女の傍にいすぎた事により、彼らはいつの頃からか自分達の"善悪の判断"というモノを完全に見失い……破綻していた。
ゆえに、善悪の見極めが甘くなった彼らは加減も分からずに暴走し、それにより優れた迷宮入り難事件を構築する手腕があったにも関わらず、既に言い逃れの出来ない犯罪者として糾弾される事態を招く事になったのである――。
かつての志を忘れ巨悪に屈した者達と、どれだけ困難に見えても試練に立ち向かう者。
最初から敗北を認めているような者達が、勝利を掴めるはずなどなく、そのような両者の違いが必然の結果として、勝敗を分けていた。
善悪は分からずとも、これ以上の醜態は晒せないという最後の分別か、はたまた単なる自棄なのか――。
うちひしがれた『イビルオオツ』の面々は、自分達が構築した迷宮入り事件を次々と放棄し、推理系男装少女が110番で呼んでいたこの世界の警察によって、現行犯逮捕されていく――。
この世界の警察によって、次々と連行されていく『イビルオオツ』の者達。
その内の一人が、ふと足を止めて、男装少女に呟くように話しかける。
「”推理”、か……実際の事件は、そんなモノが入り込む余地なんかなく、俺達が挑んでも手が届かないほど救いようのないモノなんだ。……嬢ちゃん、君にそれが分かるか……?」
恨みでも嘲りでもなく、それは全ての事に疲れた者の独白のようであった。
その問いに答えることなく、依然変わらずに不審そうな視線で彼らを見つめる男装少女。
早く行くように促されながら先を進む彼らの背中は、哀愁に満ちていた――。
――そのきっかけは、何という事もないふとした気づきだった。
最初は自分が望んでもいないのに、無理矢理何かの強い力で訳の分からないところに連れていかれそうになった事が、たまらなく怖くて。
どんなに寂しくても、住み慣れたこの場所で自分だけの宝物が見つかるのを夢みるだけで充分だったのに。
助けて、たすけて、タスケテ――。
そうして怖さのあまり泣いているうちに、いつの間にか、いつも自分の周りにいてくれた大事なお友達が、たくさん姿を消している事に気づいた。
またも不安で苦しく、泣きたくなるけれど。
それでも、彼らが向かったらしい場所の意識を向ける。
――そこからは、二つの煌めくような光を感じた。
……どんな宝石なんかでもかなわない、確かな躍動感に満ちた輝き。
だけど、アレは決して自分が欲しがって良いようなモノじゃない。
――何故なら。
(私は……これ以上、誰も"お人形さん"なんかにしたくない……!!)
そう思っていたはずなのに。
気がつくと自分の瞳は、彼女達の姿を映し込んでいた――。
『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』
※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。
慎んで、深く御礼申し上げます。