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襲撃と反撃 〜〜あるいは、交錯(こうさく)と狂乱(バーサク)〜〜

「い、嫌~~~ッ!!……だ、誰か!助けてくださいッ!!」


「ウググッ、そろそろ無理ッス……!!」


 暗黒領域が出現した街中は、現在進行形で阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。


 第ニ領域:『アングラケイオス』から出現したパルメザンファミリーのマフィア達によって、道行く女子高生はスケベなビデオに強制出演させられ、男子高校生達は殴られ屋として無理矢理働かされたあげく、彼らが得たはずの資金はパルメザンファミリーがこの世界に侵攻するための活動資金として無残にも徴収されていく。


 また、悲鳴は別の場所でも盛大に上がっていた。


「ウワ~~~ッ!?メチャクチャ、気持ち良い~~~♡」


「お母さーん!!」


 別の場所では、欲求不満な中年男性やマザコン坊や、冴えない社畜男性といった面々が、第一領域:『おいでよ!姉虎あねとらランド♡』から姿を現した邪神の奉仕種族である”姉虎”というムチ♡プリお姉さん達に性的搾取をされていた。


 このまま人類は、為す術もなく暗黒領域の住人達によって蹂躙されるほかないかと思われたが……この危機に立ち向かう者達がいた。









「『アングラケイオス』のマフィア達が攻め込んできたぞ!!詩を紡ぐ者達を後方に、アクションを得意とする者達が対処に当たってくれ!」


「オゥ、任せろ!!」


「よ、よろしくお願いします……!!」


 眼鏡をかけた小太りな男性の指揮のもと、彼らは突如街中に出現した暗黒領域からの侵略者達を相手に、果敢に迎撃していた。


 実は彼らは、先程発生したスマホからの瘴気噴出という異変から、何とか生き延びたなろうユーザーであった。


 瘴気から逃れられたのも束の間、今度は立て続けに暗黒領域がこの地に顕現し、異界からの襲撃という脅威に晒される事態になっていたのだが、他の区域とは違いこのようななろうユーザー達が集結している場所だけが、侵略者達の猛攻を凌ぎ切ることに成功していた。


 果たして、その原因は何なのだろうか?


 彼らが突然の異常事態を前にしても対処出来ている理由は、当然”小説家になろう”というサイトにある――!!





 古城ろっくが、自身の”悪”の因子をなろうに埋め込んでからしばらく経ってからのこと。


 なろうのサイト内では、ある都市伝説が浮上するようになっていた。


 その都市伝説とは、――人呼んで、『作者のいない彷徨える作品達』。


 何でもその作品達は決して普通の検索機能で見つける事は出来ず、遭遇出来るのはまさにほんの運任せであり、作者欄はただ空白になったりしている訳ではなく、作者の名前自体が完全に存在しない扱いとなっているというのだ。


 それらは全部で十作あり、人気のない他の作品達を取り込みながら、ゆっくりとなろう界を侵食していっている……という嘘か本当か分からない話であった。


 しかし、それらの作品に遭遇する事が出来た有志のなろうユーザーによって、画像らしきモノが撮影されたり、設定や主要人物などが詳細に書き出されたことによって、大手のまとめサイトなどにも取り上げられ実在性を帯びてきたのだ。


 ゆえに昨今のなろうでは、今回企画された『すげどう杯』と『彷徨える暗黒小説群』の二つの話題で持ち切りとなっていた。


 そういった経緯もあり、大抵のなろうユーザーは古城ろっくが行った企みは知らずとも、書き手・読み手を問わずにこれら十大暗黒領域とそれらに関する大まかな設定などは既に知っており、それらの知識をもとに各領域の勢力相手に的確に対処する事が出来ていたのだ。


 更に反撃のために用意された切り札は、それだけではない。


 現在この場所では、異様な光景が繰り広げられていた。


 しかもそれらを引き起こしているのは、異界の侵略者側……ではなく、なんとなろうユーザー側であった。


「セイ……ヤァッ!!」


「グ、グアァッ!?……コ、コイツは強すぎる!!」


 卓越した武術を用いて、自分達に迫るパルメザンファミリーのマフィア達を次々と再起不能にしていくアクションを執筆しているなろう作家。


 それだけなら、彼個人が優れた戦闘能力を持っているというだけで済む話なのだが……。


「ク、クソ……兄弟分の仇!さっさと、くたばりやがれ!!」


 マフィアの残党が、アクション作家に銃弾を撃ち放とうとした、次の瞬間――!!






「しっかり召しあがれ!――”ラブスパイス♡メテオ”!!」





 力強い意思が込められた詠唱が紡がれたかと思うと、燃え盛る炎球が銃を構えたマフィアへと直撃する――!!


「ッ!?グ、グアァァァァァァァァァァァァァァッ!!」


 悲鳴を上げながら、マフィアが盛大に後方へと吹き飛ばされていく。


 炎球が飛んできた先の方向にいたのは、アクション作家に守られる形で後方に控えていた詩ジャンルを投稿している女性なろう作家だった。


 一通り戦闘が終わった事を確認した彼女は、そのまま瞳を閉じると、アクション作家に向けて静かに両手をかざす。


「”(ふじ)っ子、良い子、元気な子。万象(ばんしょう)(ことわり)のもとに、わんぱく感溢れるこの者を癒したまえ”――!!」


 荘厳(そうごん)な響きの聖句とともに、みるみるアクション作家の傷が治癒されていく――!!


 腕を回したりしながら自身の身体の調子が良くなったことを確認したアクション作家は、詩ジャンルの女性作家に礼を述べる。


「流石にあの状態から銃で撃たれていたら、俺でも危なかったかもしれない。……さっきの補助も含めてありがとうな!」


「うぅん、私は自分に出来る事をやっただけだから、気にしないで!……あっ、向こうもどうやら無事に終わったみたい!」


 彼女が見つめた先は、現在自分達が迎撃していたマフィアとは違い、獰猛に男性の精を貪り尽くそうとする姉虎によって襲撃を受けていた場所だった。


 普通に戦っていては、人知を超えた存在である彼女達に到底敵うはずがないのだが……。


「……ラ~イチ♡」


 そこには、頭から獣の耳らしきモノと臀部から長い尻尾らしきモノを生やした褐色肌に黒髪ロングヘアのムチ♡プリとした身体つきのお姉さんの容姿をした存在――”姉虎あねとら”が、虚ろな表情ながらも淫気を催した表情を浮かべた状態でへたり込んでいた。


 瞳に光がない彼女が見つめる先には、ジーンズのジッパーをジィ……ッ、と音を立てて閉じている、垢ぬけない感じの二十代半ばの男性の姿があった。


 ハート型の淫紋が表示された画面のスマホを手にしている彼は、無事に自身が担当するエリアを死守した事を味方へと伝える。


「こっちは僕も含めて他のノクターンユーザーさんの協力もあって、あらかた制圧出来ました。……この地に襲来した姉虎に関しては、ひとまず大丈夫だと言えそうです。……そ、それにしても、生身の女の人ってスゴイ……!!」


 彼は普段、なろうの18歳以上の者のみが使用出来る”ノクターンノベルズ”というサイトにおいて、『学校一の美少女と言われているクラスメイトに、手に入れたエロアプリの力で卑猥な事を命令したりするけど、実は両思いだったので特に問題ありませんでした。むしろ合意の上』といった感じの官能小説を執筆している、描写がへヴィで思考がライトなアダルトユーザーであった。


 彼は、自身の作品の主人公が所持しているような『女性にどんな卑猥な命令でも聞かせられちゃうエロアプリ』の能力を使用し、自身に襲い掛かってきた姉虎を性的に返り討ちにしていたのだ。


 このようにこの場に集っているなろうユーザー達は、自身の能力を使って迫りくる脅威を撃退していたのだが、彼らはもともと、それだけの強さや特殊な能力を以前から所持している訳ではなかった。


 彼らがこのような異能に覚醒めざめたのは、ある意味魔王:古城ろっくによる恩恵と言えない事もなかった。


 と言っても、実は彼らが古城ろっくによる悪の因子を受け継いだ存在である、といった話ではない。


 十大暗黒領域といった異界が現実に浮上する際に、それらとこの現実社会を繋ぐ通行路として利用されたのが、この”小説家になろう”というサイトであった。


 そのため、この異変の中心である”小説家になろう”を起点に、世界を構成するための力場が崩れる事となったのだ。


 それによる影響の余波として、暗黒領域を出現させる原因となったなろうに関わる者達のみが、現在既存の物理法則から逸脱した存在となり、彼ら彼女らは自身が執筆していた自作品や主人公の能力などを行使できるようになっていたのだ。


 古城ろっくの因子が生み出した中で最弱とされる世界:『アングラケイオス』ならともかく、既存の兵器などでは太刀打ちできない異界からの脅威に対抗できるのは、この世界において自作品に覚醒めたなろうユーザーのみ……と、言っても過言ではなかった。


 ひとまずの防衛戦を凌ぎきったなろうユーザー達のもとに、偵察を終えた小柄な男装少女と、特に目立った特徴のないスーツ姿の二十代後半と思われるサラリーマン男性の二人組が駆け寄ってくる。


 男装少女は、この場所の指揮官ともいえる小太りの眼鏡男性へと、偵察した結果を告げる。


「彼から得た情報からボクが推察するに、どうやらあれらの暗黒領域を作り出した元凶は、かつて”魔王”と呼ばれた古城ろっくという人物で間違いないね……!!」


 以前からなろうにおいてミステリー作品を執筆していたこの男装少女は、驚くべきことに”鑑定眼”のスキル持ちである異世界転移作家のサラリーマンから得た情報をもとに、これらの異変の発生源がかつての魔王:古城ろっくがなろうに埋め込んだ因子によるモノである、という結論を導き出していた。


 ”魔王軍”とは異なる視点からによるアプローチであったが、その推理はほぼ真実と言っても良いモノであり、彼女の卓越した推理力とそこから導き出された驚愕の事実を前に、一同は絶句していた。


 だが、そんな周囲の反応など気にすることなく、男装少女はブツブツと独り言をつぶやく。


「……気になるのは、現在なろうを騒がせているこれらの『彷徨える暗黒小説群』が、この地上で一体何を仕出かすつもりなのかって事なんだけど……駄目だ。まだ情報が少なすぎる……!!」


 そんな彼女やサラリーマンという偵察組を労いながら、この場にいる者達のリーダーである通称:メガネコブトリは、今後の方針を仲間達に伝える。


「とりあえず、戦力や準備が整い次第、この異変の原因となった暗黒領域の攻略を進めていくとしよう……みんな、何か意見はあるか?」


 そんなメガネコブトリに対して、早速アクションなろう作家の青年が自身の考えを述べる。


「だったら、あのスゲー木とかがいっぱい生えている『おいでよ!姉虎あねとらランド♡』から、攻め落としに行けば良いんじゃないか?植物に囲まれた場所なんざ、炎で燃やせば一発だろ」


「そ、そうです!……それにまだまだ色んな種類の”姉虎”のお姉さんに出会えるかもしれませんし……」


 アクション作家に追従するかのように、大人の階段を昇ったばかりのノクターン作家の青年が、下心丸出しで賛同の意を述べる。


 だがメガネコブトリはそれらの意見に対して、”否”と口にする。


「いや、どれだけ原始的に見えても、あれらは破滅の因子によって構成された暗黒領域に変わりないんだ。どれだけ僕らが知っている物理法則が正しく適用されるか分からないし、何より知っての通り”姉虎”の脅威に対抗するためにはもっと多くの催眠・隷属能力に優れたノクターンユーザー、姉虎に対抗できるだけの実力を持った悪役令嬢・婚約破棄のジャンルに優れた女流作家の人達の協力が必要不可欠になってくる。……侵攻するための人員を厳選しなければならないのに頭数もかなり必要、更に姉虎を何とか出来たとしても、今度は領域支配者である邪神:ペニショク=シュが控えている。……この邪神を相手に女性ユーザーをぶつけるわけにはいかないし、どうやって討伐すれば良いのか。今の僕には皆目見当つかないな」


 メガネコブトリの鋭い分析による判断を聞いて、押し黙るなろうユーザー達。


 ノクターンではない全年齢版でも、催眠エロアプリのような能力を使用する作品はあるかもしれないが、姉虎はそれ以上に年齢制限を飛び越えるような過激な存在であるため、彼女達を相手に全年齢版の制限がある作品の能力が推し負けない、という保証はどこにもなかった。


 ゆえに、とメガネコブトリは続ける。


「ここは、暗黒領域の中でも最弱と言われている『アングラケイオス』から攻略すべきだ。マフィアは確かに侮れないが、それでも相手は人間に変わりないから、桁外れのチート能力じゃなくてもある程度の能力で味方を強化や支援などすれば、彼らは倒せない相手なんかじゃない」


 メガネコブトリの的確な戦況分析と決断を前に、他の者達が無言で――けれども、自分達のリーダーを信頼しきった力強い意思を込めた瞳で頷く。


 こうして、全員の方針が決まったかと思われた――まさに、そのときだった。





「ッ!?異常な数値を感知!!……み、未確認の暗黒領域の現界、確認しました――!!」





 オペレーターをしていた読み専スコッパーの女性が慌てた表情で、仲間達に緊急事態の知らせを告げる。


 それは言うまでもなく、新たな暗黒領域が浮上してきたという絶望的な現実であった。





 この場にいる全てのなろうユーザー達に、激震が走る――!!

『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。




企画の概要については下記URLをご覧ください。




(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』








※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。








慎んで、深く御礼申し上げます。

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