慟哭響く、黎明の空
激しく渇望していた者達との再会。
そんな彼らと共に、満足そうに虚無の彼方を目指して遠ざかっていく空亡を、意識を取り戻した赤城てんぷが安堵したような表情で見つめていた。
「いつまでも他人を凌辱して喜んでいるようなガキのままだったら、僕が地の果て空の彼方だろうとキッチリ”山賊”としての在り方を叩きこんでやるつもりだったけど……何だ、最後の最後で純愛とやらに目覚めたみたいじゃないか」
凌辱となればいくらでも語るべき事があるが、温い純愛ごっこに興じるというのなら、それは山賊にとって単なるジャンル違い以外の何物でもない。
ゆえに、ここでやるべき事は終えたと言わんばかりに、赤城てんぷは浮上しながらその先へ視線を移す――!!
『――自分が出来るのはここまでだ』と言わんばかりに、この虚無の空間に流れ込んできていた『スゲドウ=ハイ』からの力の供給は途絶えていた。
だが、それで構わないと赤城てんぷは、絶体絶命の状況に突破口を開いてくれた存在に向けて、深く頷きを返す。
『最後の希望は、”山賊”らしく自分自身の力で切り開いてみせる!!』
そんな決意を込めたかのように赤城てんぷは、空亡から自身の中に流れ込んできた”希望”の力を用いて、最後の奇跡を行使する――!!
”古城ろっく”という一人の人間が懸命に生きてきた証たる、彼が廃滅の宇宙を作りあげるまでに至ったほどの強い感情と。
全てを闇で覆い尽くそうとしていた長き暗黒の終わりを象徴するような、強い意思と輝ける希望に満ちた景色を。
赤城てんぷは自身の中に宿った渾身の”BE-POP”な力を込め、右手に”慟哭”、左手に”黎明”と名付けた双剣を生成していた。
全てを呑み込むような深い漆黒を帯びた”慟哭”と、未来を照らすような眩い黄金の輝きを放つ”黎明"。
それらを交差させながら、光が差し込んできた方向に向かって勢いよく斬撃を解き放つ――!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
裂帛の気合と共に十字型で放たれた強大な斬撃波が、虚無の宇宙を盛大に切り裂いていく――!!
盛大な破砕音が、けたたましく鳴り響く。
地上にいたメガネコブトリ達”山賊の軍勢”のメンバーが音のした方を見やる。
そこには次元の裂け目から、双剣を携えて登場した赤城てんぷの姿があった。
突然の事態に呆気にとられていたメンバーだったが、みるみる内に緊張した表情が崩れ、爆発的に歓声が上がり始める――!!
「ヤ、ヤ、ヤッタ〜!! 暗黒時代は終わりを告げたけど、赤城てんぷがいる限り、山賊文化は不滅なんだ!!」
「メ、メガネコブトリさん!!アイツです!……アイツが、ここに帰って来たんですよ!!」
「あぁ、もちろん分かっているさ……!!"また会える"って、信じていたとも……!!」
仲間の呼び掛けを聞きながら、涙ぐむメガネコブトリ。
そんな彼に淡い微笑みを浮かべた詩人女性と、苦笑したナイトが話しかけていた。
「メガネコブトリさん、彼に言いたい事があったんでしょう?……後悔しないためにも、ここでスッパリ言っちゃいましょう……!!」
「そうだぞ、メガネコブトリ。今まで暗黒領域やら廃滅神と戦ってきた男が、こんなところで躊躇ってどうするんだ?」
(強敵と死闘を繰り広げるのとは、違う質の緊張なんだよ!)と内心でごちりながら、意を決した表情のメガネコブトリが赤城てんぷに向き合う――!!
「明石埜君。以前年明けに職場で君に、急にアイドルアニメのカードが欲しいかどうかを訊ねたりして、本当にすまなかった……!!」
メガネコブトリ――いや、田所が職場の同僚として赤城てんぷこと明石埜 天賦黎徒に深々と頭を下げていた。
その光景を前にして固唾を呑んで見守る仲間達と、無言を貫く明石埜。
メガネコブトリは、皆を率いてきたリーダーとしてのプライドもかなぐり捨て、明石埜 天賦黎徒という一人の人間と真摯に向き合う事を選択した。
空亡という"人類最終試練"のような生死を掛けた危機を乗り越えた自分でも、この先の事態がどう転倒するのか分からないという恐怖。
だが、そこで留まることなく及ばすとも"山賊"達の首領を名乗った男は、前に進むための言葉を続ける。
「君がオタク趣味の人間だと思ったからとはいえ、あんな不躾な事をしてしまうとは……本当に僕という奴は、配慮が足りていなかった。……許してくれ、なんて口が裂けても言えない。……ただ、本当にすまなかった……!!」
不器用ながらも、何の小細工や虚偽などが入り込む余地のないまっすぐな言葉。
それに対して、明石埜は――。
「顔を上げてください、田所さん。――今は謝罪なんかじゃなくて、勝利を祝う瞬間のはずですよ」
田所が顔を上げて見つめた先には、柔和かつ自信に満ちた明石埜の表情があった。
本来ならば、こういった事は社会人であれ山賊であれ、常識・面子などの側面からキチンとけじめをつけるべきかもしれない。
だが、絶望的な状況から生還を果たした今の明石埜は、それ以上に今生きているこの瞬間の喜びを誰か――もしくは皆と共有したい気持ちで一杯だった。
その表情は、職場の同僚からオタク扱いされた事を気にし続けるような社畜のモノではなく、まさに世界を救うに相応しい"山賊"と言うべき風格が備わっていた。
劇的な二人の和解を目の当たりにし、”山賊の軍勢”の仲間達が一際大きな歓声を上げる――!!
「漢だよ〜〜〜!!メガネコブトリさん、赤城てんぷ!!アンタら二人とも、まさに漢の中の漢だよ〜ッ!!」
「ち〜ん!(笑)」
メガネコブトリと赤城てんぷ。
互いにその在り方は対極なれど、"山賊"としてどこまでも真剣であり続けようとした二人を讃える声が、盛大に広がりを見せていく――。
「赤城てんぷも無事に帰って来た事だし、どうやらこれで本当の意味で"人類最終試練"とやらはクリア出来た、と言えそうだな……!!」
超絶大人気高校生なろう作家:ナイトの作品の主人公である"としあき"が、作者であるナイトにそう語りかける。
「あぁ、これもとしあき達が協力してくれたおかげだ……って、お前……ッ!?」
気づくと彼の身体から、光の粒子が浮かび上がっていき次々ととしあきの身体から放出されていく。
そして、としあきの身体は徐々に半透明と化していた。
何が起こっているのか……と困惑する赤城てんぷとは裏腹に、としあきの作者であるナイトが、静かに呟く。
「そうか……そろそろ、”時間”なんだな」
そんなナイトに対して、としあきが「あぁ……名残惜しいが、ここまでのようだな」と答えていた。
見ればとしあきだけでなく、他のなろうキャラクター達も皆時を同じくして光の粒子となり始めていた。
戸惑いを見せる赤城てんぷが、ナイトへと訊ねる。
「時間って……一体何が起こっているんだ?」
「言葉通りの意味さ。今回の異変の原因である”十大暗黒領域”と”廃滅神:空亡”っていう存在がこの地上から完全に姿を消したことによって、世界の修復力がようやく働き始めたみたいだな」
そんなナイトの言葉に続くように、としあきが自身の意見を述べる。
「今回の元凶ともいえる空亡が消失し、赤城てんぷが帰還するのとほぼ同じタイミングで、十大暗黒領域の戦闘も決着が着いたようだ。……どうやら、運営神群も世界を救った”山賊”を助ける手立てを見つけられるようにと、ギリギリまで俺達の事を地上に残せるように頑張ってくれていたらしいがな」
「何?そうだったのか……運営神群もたまには粋な計らいってヤツをしてくれるんだな」
その情報は初耳だったらしく、軽く驚いた表情を浮かべるナイト。
そうこうしている内に、本格的に別れのときは近づいているらしく、あちこちでなろうユーザーと登場人物達が最後の挨拶を交わし合っていた。
ナイトととしあきも最後のやり取りを行う。
「これで本当に最後の別れだ。……ナイト、俺の勇姿を必ず最後まで書ききってみせてくれ……!!」
「言われなくても、そのつもりさ!……だから、としあき。お前も作者が味方しているからって、怠けることなく剣技を磨き続けろよな!」
「フッ……何を言うのかと思えば、そんな事か。それなら言われるまでもないな」
なんせ、ととしあきは続ける。
「例えシナリオが決まっていようとも、自身の意思で未来を切り開いていく。――それが、俺達”山賊の軍勢”なんだからな……!!」
「――あぁ、そうさ!!その事を絶対に、忘れるんじゃないぞ!!」
そう口にしながら、気丈で生意気ながらも耐え切れないと言わんばかりに涙を浮かべるナイト。
そんな彼に力強く頷きながら――としあきの姿は、静かに掻き消えていった。
なろうキャラクター達もそれぞれの作品内に還っていき、後にはなろうユーザー達が残る形となっていた。
赤城てんぷが彼らの意思を受け継ぐかのように、気楽ながらも決意を固めた声音で呟く。
「そんじゃあ、俺もそろそろ作品を完結させないとな~!!……アイツ等から受け継いだ”BE-POP”な意思を無駄にして、”山賊”なんて到底名乗れないしな……!!」
赤城てんぷの誓いを前に、いくつもの頷きが返される。
そんな彼の言葉に対して、一人待ったをかける者がいた。
「あぁ、明石埜君!小説も大事だけど、僕らはいい加減職場に復帰しないとマズイんじゃないかな?」
メガネコブトリの場違いな発言によって、明日からの現実を思い出した者や、苦笑を浮かべる者達がいた。
赤城てんぷは一人露骨に嫌そうな表情を浮かべながら、盛大にため息をついた。
「いや、確かにそうですけど……何も今言わなくても良いじゃないですか、田所さん!!そういうところですよ~!!」
「何がそういうところなんだい!……まったく、前から思っていたけど君ってヤツは……」
「僕が何だって言うんですかー!!」
そのような感じでしんみりした空気から一転、大の大人が二人そろってくだらない言い合いを始める。
そんな二人の様子を見て皆が目尻に涙を浮かべながらも、盛大に笑い声をあげていた。
メガネコブトリこと田所と言い合いをしながら、赤城てんぷは思案する。
世界が滅びかけても、存続している限りこのくだらない”現代社会”という日常は続いていく。
それでも、今の田所との交流や”山賊の軍勢”として自分を支えてくれた仲間達――そして、この世界とは違う世界で自分なりの生を懸命に生きる者達の事を思い出せば、明日からの日々も乗り越えていけそうだと、赤城てんぷは確信していた――。
そんな彼等の姿を見守り、満足したかのように。
一度きりの奇跡を行使するために復元を果たした『スゲドウ=ハイ』は、緩やかに黄金の輝きを失くし……そして、今度こそ完全に沈黙した。
やがて『スゲドウ=ハイ』は、破片とも言えぬ全ての意志を燃やし尽くしたかの如き灰になり、それを労うかのように一陣の風が、ここではないどこかへと優しく運び去っていく――。
様々な想いを乗せながら、あまりにも長すぎた『すげどう杯』という企画は、ようやくここに真の閉幕を迎えようとしていた――。
『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』
※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。
慎んで、深く御礼申し上げます。




