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山賊:赤城てんぷ

 赤城てんぷによって放たれた渾身の一撃。


 巨大なその身を斜めに切り裂くほどの強大な一撃によって、”世界廃滅”を引き起こそうとしていた空亡という存在は、消滅のときを迎えようとしていた。


 自身が広げていた虚無なる闇にゆっくりと呑み込まれながら、空亡の身体が宙に沈んでいく――。


 対する赤城てんぷは、刀身が根元から折れて使い物にならなくなった『赫疾駆(アカシック)天舞冷奴(・テンブレイド)』の柄の部分を握りながら、憔悴しきった笑みと共に力なく呟く。


「やはり、破損しまくった状態の”十種神宝とぐさのかんだから”を酷使していたから、『赫疾駆(アカシック)天舞冷奴(・テンブレイド)』はここまでが限界、か……。僕は生身だし、これからどうしたモノかな……?」


 空亡を倒したことによって、世界は滅びの危機から救われた。


 だが、現在赤城てんぷは空亡の上に乗っかった状態であり、このままならば、空亡とともに虚無の闇へと堕ちていくか、結局、生身のまま地面に落ちて命を落とすかのどちらか……という先程とあまり変わらない絶対絶命の状況であった。


「……まぁ、空亡(コイツ)が展開していた領域も終わりかけだし、あれだけ応援していた”山賊(Bandit)の軍勢(Rebellion)”のみんなや他の奴等が、僕の事を忘れていなければどうにかなるだろ。……なるよな?」


 もし、助けがこちらに向かっていたとしても、空亡ごと自分が闇の中に呑み込まれては意味がない。


 背筋が寒くなってきたのと同時に、赤城てんぷはそんな思考を振り払うかのように盛大に頭を左右に振る。


 そんな彼に対して、問いかける声があった。





『……何故だ。何故、我がこうまで敗れているのだ……?』





 声の主は、赤城てんぷと死闘を繰り広げていた廃滅神:空亡くうぼうであった。


 その巨大な眼球には、『赫疾駆(アカシック)天舞冷奴(・テンブレイド)』によって斜めに刻まれた斬撃の痕が残っており、焦点の合わなくなった虚ろな視線のまま、空亡は赤城てんぷへと問いかけていた。


『何故だ。何故、圧倒的な力を誇っていた我が、貴様のような”山賊”などに敗れる?……我も貴様も、ともに人間達の希望の力を糧としていたはず。それが、どこで差がついた?……”希望”とやらではないが、我は十大暗黒領域から力を供給していた以上、単純な質量で言えば劣っていたわけではないはず。……その疑問だけが、どうしても晴らす事が出来ない……!!』


 そんな空亡の問いに対して、赤城てんぷが柄にもなく真摯かつ柔和な笑みとともに答える。


「正直言うと、僕も途中まではお前と大差なかったよ。……”自分は他のみんなとは違う”。”唯一立ち向かえる存在として、山賊らしく立ち向かわないと”、ってな。」


 そこまで口にしてから、スゥ……と深呼吸する赤城てんぷ。


 彼は穏やかな表情のまま、続きを語り始めた。


「……でも、それじゃ駄目なんだって気づけた。僕はギリギリだったけど、自分が”なろうユーザー”の一人だって事を思い出す事が出来たんだ」


『……』


 どう思っているのかは分からない。


 だが、それでも言葉は届いているのだろうと、赤城てんぷは空亡の方に強い眼差しを向ける。


「アンタだってそうさ。……そんな”空亡”なんて訳の分からないモノになる前に、どーでもいいヤツなんかを相手にせずに、自分の愛したチャリチャンっていう作品と”魔王軍”みたいにアンタを応援していた連中……何より、そこまで熱意を込めた作品を書き上げ、多くの人間を惹きつける事が出来ていた”古城ろっく”という自分自身を! 最後まで信じきれば良かったんだ……!!」


 自分が孤高の中で佇む”魔王”という存在などではなく――。


 誰かと手をつなぐことで、何かを築き上げる事が出来る一人の”なろうユーザー(人間)”であると思い出す事が出来ていたら――。


 今とは違う結末があったかもしれない。


『信じる事で生まれる強さ、か……そんなモノがこの世にあるとは、古城ろっく(なろうユーザー)だった頃には、ついぞ思いもしなかったな……』


 空亡が純粋に感心したような声音で、そのように呟く。


 今なお空亡の身体は、虚無なる闇に向けて徐々に堕ちていっているが、赤城てんぷは無言のまま話に耳を傾けていた。


 そんな赤城てんぷに対して、空亡がなおも語り掛ける。


『誰かと繋がることで得る事が出来る力……それこそが我になかったモノであり、この地上で生きてきた者が我によってもたらされるはずだった”世界廃滅”という人類最終試練を乗り越える事が出来た答え、というわけか……』


 空亡が弱々しくも――しかし、強い意思を感じさせる声で告げる。


『……既になろうユーザーでなくなったこの身だが……我も貴様等のように、定められた結末とやらを覆してみたくなったわ……!!』





 刹那、空亡の身体から勢いよく黒き槍が赤城てんぷに向かって飛び出す――!!





 槍は正確無比に過たず、赤城てんぷの心臓を貫いていた――。









 赤城てんぷが再び、盛大に口から吐血する。


 空亡の力が尽きかけているからか、廃滅因子と瘴気によって構成された魔槍はこれまでに作られたモノよりもはるかに小ぶりだったが、そこから更に三本の槍が次々と赤城てんぷの身体を貫いていく。


 致命傷を負い、逃げる事も出来なくなった赤城てんぷだったが、彼の表情に浮かんだのは憤怒でも絶望でもなく――ある種の納得のようなモノであった。


 現在の赤城てんぷは、”十種神宝とぐさのかんだから”を生成するために力を使い切っており、既に彼は常人並の存在になっていた。


 そのために、渾身の力で『赫疾駆(アカシック)天舞冷奴(・テンブレイド)』を振るい勝負に出たのだが、一撃で倒しきれずに空亡が生きていた時点で、赤城てんぷは戦闘力が失われた自分が既に積んでいる事を自覚していた。


「……まぁ、仕留めきれなかった以上はこうなるのも当然だろうし……何より、お前がやられっぱなしで終わるようなタマじゃないもんな?」


 そんな赤城てんぷの軽口に答えることなく、空亡が沈みながらも赤城てんぷに問いかける。


『”世界廃滅”を掲げながら何も為せず、このまま無為に我のみが消える……そんな結末は到底認められない!!……ゆえに我は”廃滅神”として、この世界の救世主である貴様を道連れにさせてもらうぞ、山賊……!!』


 串刺しになりながらも赤城てんぷが視線を外に移すと、何かを叫びながらこちらに急いで向かってくるメガネコブトリ達”山賊(Bandit)の軍勢(Rebellion)”の者達の姿があった。


 ”地獄の双璧”に追いつめられていたときからは考えられないほど逞しくなった彼らの姿を見ながら、赤城てんぷが満足そうな笑みを浮かべる。


 口の端から一筋の朱を流しながら、赤城てんぷが再度空亡に向き合う――。


「……良いぜ。ここまで来たんだ、こうなったらトコトン付き合ってやるよ……!!」


 ただし、と赤城てんぷは続ける。





「僕の名前は山賊、じゃない。"赤城てんぷ"だ。……もしくは、高海(たかみ)千歌(ちか)をチカッチって略したり、アカシック・テンプレートをアカテンって略す感じで、親しみを込めて”赤城あかぎさん”って呼ぶんだ。……良いね?」









『……このような状況で親近感などあるわけがないだろう。ゆえに、本来ならば貴様の言葉を聞く必要など微塵もないが――神たる我が名もなき者に破れたとあっては、まさに名折れよな』


 ゆえに、と空亡は告げる。


『我が仇敵、"赤城てんぷ"よ。……この世界の未来と絶対なる廃滅神()にその名を刻みつけた栄誉と共に、この我と命運を共にすることを許そう……!!』


 世界の存亡を己の都合で盛大に引き起こしてきた廃滅神:空亡(くうぼう)という存在らしい、どこまでも傲岸不遜な物言いながらも――その言葉の根底に感じられたのは、これまでにはなかった穏やかな感情であった。


 赤城てんぷも、そんな空亡に釣られたかのように苦笑を浮かべながら答える。


「許そう、ってお前が強引に人を串刺しにしただけだろ。……"神"だの"王"だのそんな偉そうな奴の命令なんか、"山賊"である僕が聞かなきゃならない義務はないが……無理矢理で満足しているお前みたいな奴には、僕がみっちりと"凌辱に見せかけた純愛"道ってヤツを、教えてやらないとな?」


 そう口にしてから――苦笑ではない、心からの楽しそうな笑みを赤城てんぷは浮かべる。


 やがて、空亡はその身を完全に闇の中へと沈めていき――それに引きずられる形で、魔槍に貫かれた赤城てんぷも虚無の先へと堕ちていった。









 赤城てんぷの姿が闇の中に消えていくのを目にしながら、彼のもとに駆け寄ってきていたなろうユーザー達が悲鳴にも似た声を上げていた――。


「駄目だ、明石埜あかしや君!!……僕はまだ、あのとき・・・・の事をキチンと、君に謝れていないんだ!!……頼む! こんな形で終わりにしないでくれッ!!」


「赤城てんぷ!!アンタは空亡に対して、最後まで人間である事を貫き通すように言っていたはずだろう!? なのに、自分は簡単に敵と相打ちなんて……みっともなくても良いから、アンタも死ぬまで足掻いてみせろよ!!」


 そんなメガネコブトリやナイトの言葉に続くように、なろうユーザー達が必死に赤城てんぷへと呼びかける。


 けれども彼らの声援虚しく、赤城てんぷを呑み込んだ強大なる闇は、発生源である”空亡”に引き寄せられるように徐々に小さくなり……完全に消失していた。


 勝者のいなくなった戦場に、生存者となった者達の慟哭が響き渡っていく――。









 自分がどこに向かっていっているのか。


 もしくは、この先に終着地点などないのか。


 そんな取り留めのない事を考えながら、赤城てんぷが虚無たる闇の中を、空亡とともに無言のまま堕ちていく――。


 闇が閉じ切るその瞬間、赤城てんぷは自身の職場の先輩である田所ことメガネコブトリの声を聞いた気がした。


(そんなに親しくなかったけど、こんな形になってしまってすいません、田所さん。……でも、”魔王”を倒すのはやっぱり選ばれた”勇者”じゃないと締まらないって事なんですよ。こういうのは……!!)


 自分は”勇者”などではなく、どこまでいっても”山賊”に過ぎない。


 そういう意味では、今の自分は山賊としてこれ以上ない結果になったのではないか、と赤城てんぷは思考する。


 ――いっときとはいえ、この世界最高峰の至宝である”十種神宝とぐさのかんだから”を手中に収め、自身が暮らしてきた世界(縄張り)を守り抜いた。


 ――”魔王”としての絶対的な権威と”廃滅神”としての圧倒的な権能を誇る空亡という存在に叛逆を示し、そのうえで滅びの宿命を覆した新たな未来の可能性を切り開く事が出来た。


 まさに”山賊”として、これ以上はない最大級の戦果に違いない。





 ――だが、一人の”人間”としては?





 考えないようにしていたが、それでも、赤城てんぷの脳内にそのような思考がよぎる。


「やっぱり、もっと生きたかったな……」


 気になったのは、自分の作品や活動報告に届いていた赤文字の数々。


 それを皮切りに、やり残してきた事が次々と未練となって浮かび上がる。


 そして、そんな後悔を赤城てんぷに呼び起こしたのは、自身に向けられたメガネコブトリの叫びだった。


 何を言っていたのかは聞こえなかったが、それが気になった事が赤城てんぷの”山賊”としての納得を揺さぶり――彼の魂を一人の”人間”として、肉体につなぎとめていた。


「……まったく、ここまで来て未練タラタラにさせるとか、職場でアイドルアニメのグッズを勧めてきた事も含めて、少し恨みますよ。――田所さん……!!」


 そう言いながら、赤城てんぷは無明の闇の中を空亡と共に進んでいく――。









 全ての戦いが終わりを告げた戦場跡地。


 それでも、”まだ終わらせてはならない”という意思を示すかのように、赤城てんぷの名を呼び続けるなろうユーザー達のすすり泣くような声がいつまでも続いていた。


 感情をぶつける敵も、言葉を届けるべき相手も――既にこの地上にはいない。


 それでも、無力さに打ちひしがれるのではなく、何か策があるはずだと皆諦めることなく、自身のやり方でこの結末を覆そうとしていた。


 懸命になろうユーザー達が、仲間や自身の作品の登場人物達と協力したりするが、何の解決の糸口も見せぬまま時間だけが過ぎていく――。


 そんな中で、誰の目にも触れぬ場所で、小さな異変が起こり始めていた。





 ――それは、黒ずんだ残骸らしきモノだった。





 戦場跡地で粉々になっている膨大な残骸の数々。


 激戦に巻き込まれた影響によるモノか今は見るかげもなかったが、よくよく見てみるとそれらの残骸の数々は、巨大な杯らしき形をしているようであった。





 ――第零領域:奇跡到達神殿・『スゲドウ=ハイ』。





 そう呼ばれていたかつての黄金領域は、『古城ろっくに再び会いたい』という人々の願いを『廃滅神:空亡の顕現』という形で叶えた事により、その役目を終えたはずだった。


 かつての輝きを失っただけでなく、ここまで砕け散った以上、マトモな機能の行使など出来るはずもなくまさにガラクタと形容するほかない存在だったに違いない。









 けれども、この戦場跡地で今も燻っているなろうユーザー達の意思に呼応するかのように、残骸と化した『スゲドウ=ハイ』の内の一欠片が、淡い光を放ち始めていく――。

『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。

企画の概要については下記URLをご覧ください。

(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』


※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。


慎んで、深く御礼申し上げます。

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