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"小説家になろう"

 ――業火が燃え盛る。


 煉獄を想起させる全てを燃やし尽くすほどの業火が、この廃滅の宇宙を焼き尽くす。


 だが、その只中にいても『自身には何の罪業もありはしない』と言わんばかりに、この領域の支配者である空亡くうぼうが泰然としたまま宙に浮かんでいた。


 空亡の放った十本の”禍津咎槍まがつとがやり”にその身を貫かれ、盛大に吐血しながら、呆然とした表情で赤城てんぷが空亡を見つめる。


「ば、馬鹿な……!!僕が!全力を賭けて放った”降誕の焔”を受けて、なお無傷だと……!?」


 赤城てんぷがたった一人で展開していた”降誕の焔”が、かつてのなろうユーザー達の希望と暗黒領域で生きてきた者達の力の集大成ともいえる”空亡”に通じないというのは、まだ理解出来る。


 だが、現在のなろうユーザー達を始めとする世界中の人々の”BE-POP”な意思の力が集った最大限の威力を持ってしても――この廃滅神は依然として、不朽の威容を誇っていた。





 ――この地上で生きる者達の意思を集結させても、傷一つ負わせることが出来ないのか?


 ――いくら廃滅神とはいえ、”空亡”とはそれほどまでに桁違いの質量を誇るほどの存在なのか?





 そんな赤城てんぷの困惑を玩弄するかのように、空亡が睥睨しながら愉悦の色が混じった声音と共に告げる。


『どうやら、今の自身が置かれている現状を全く理解できていないようだな。卑賎なる山賊よ……!!我が貴様の攻撃を受けてなお健在なのは、互いの権能を行使するために必要な”質量”が原因なのではない。……すべては、我が身を構成する”廃滅属性”による当然の結果である……!!』


「は、”廃滅属性”だと?……ま、まさか!?」


 空亡の言葉を聞いてから、ハッと驚愕に目を見開く赤城てんぷ。


 それこそが答えだと言わんばかりに、空亡は赤城てんぷに残酷な事実を突きつける――!!





『ようやく理解したか。――貴様が察した通り、”炎上”の廃滅属性が我にある限り、この身を燃やす事はおろか、焦がす事すら出来はしない……!!』





 廃滅因子:”炎上”。


 それは魔王:古城ろっくの象徴であり、空亡という存在を構成している廃滅因子の中でも最強格と称される属性であった。


 現にそれらの廃滅因子によって生み出された領域支配者達が、自身の世界に乗り込んできた"転倒世界"の者達との交流や死闘によって廃滅因子を打ち砕かれていったのに対し、唯一”炎上”の領域支配者だけは最後までその因子を崩される事はなかった。


 ゆえに、赤城てんぷの”降誕の焔”が廃滅とは真逆な”創造”の力を宿していたとしても――もっとも強大である”炎上”の属性を宿した空亡に対して、炎を用いた攻撃は一切通用しない。


 むしろ、そんな空亡の性質が色濃く反映された虚無なる闇を、世界中から集まった力を糧に燃やし尽くせた事がまさに奇跡に近い事であり、それが結果として赤城てんぷに空亡という存在を誤認させる事に繋がってしまっていた。


 ――もしも、赤城てんぷが”降誕の焔”ではない別の山賊領域を展開出来ていたら。


 ――それどころか、この場にいるのが自分でさえなかったら……。


 普段なら雑念と切り捨てるような思考が、朦朧とした赤城てんぷの意識に浮かび上がる。


 そんな赤城てんぷの意識に追い打ちをかけるように、空亡が言葉を重ねる。


『どうだ、我の言った通りだっただろう?貴様が眼下に現れ、自身の領域を展開したそのときから! 我にはこの結末が見えていた……!!』


 全ては分かりきっていた事だった。


 どれだけ叛逆を吠えたところで、この宇宙そらには届かないと空亡は告げる。


『貴様の奮闘も抵抗も!何もかもがまさに無意味だった!!……あぁ、認めよう。転倒勢力の出現も、なろうユーザー達の復活も全てが私の想定外であり、非常に驚かされたとも! だが、そんな我の予測すら上回った彼らの懸命な努力、命を懸けた死闘を無為なモノにしたのがお前だ。……御大層な叛逆の意思とやらはどうした? この場にいるのが無力で無価値な自分で恥ずかしいとは思わないのか?』


 ぞぶり、と赤城てんぷの肉体を貫いている槍を乱雑に動かす空亡。


 赤城てんぷは、槍に込められた廃滅属性と生命を死に至らしめる膨大な瘴気、そして肉体から全く引き抜かれることのない禍津咎槍まがつとがやりによって、瀕死の有様となっていた。


『他の”誰か”ならば、これだけお膳立てをされたら勝てたかもしれぬな。だが、現実はどうだ? 世界中から物乞いの如く力を分け与えられておきながら、微塵も我に通じることなく無様に死に瀕した貴様の無力さ! これを”無意味”と呼ばずして何と呼ぶ!? 今現在、この地上……いや、三千大千世界を見渡しても、貴様ほど存在が無駄で全ての者達の期待を裏切った無能はいないだろうな!!』


 空亡の嘲笑が、領域内を埋め尽くすように響き渡る。


 現に空亡の勝利、そして、現在進行形で消えかけている赤城てんぷの命を象徴するかのように、展開されていた”降誕の焔”の炎の勢いが収まり始め、空亡の球体から再び”闇”が広がり始めていた。


(焼け石に火種を投入したところで、そりゃ、意味もなかったか。……悪い、みんな。僕は最早ここまでかもしれない……)


 そんな風に諦めかけていた――そのときだった。


 突如、カランという音と共に、赤城てんぷの懐から何かが零れ落ちた。


 それは、ギリギリ槍に刺し貫かれるのを回避した赤城てんぷのスマホだった。


 地面に落ちた衝撃からか、パッと電気がついた赤城てんぷのスマホは、彼の”小説家になろう”のマイページを表示していた。


 そして、そこには三種類の赤文字が煌々と赤城てんぷを照らすかのように輝きを放っていた。





 ――『感想が書かれました!』


 ――『レビューが書かれました!』


 ――『活動報告にコメントが書かれました!』





 この戦場に来る直前まで眺めていても、何も表示されていなかったはずの画面に浮かび上がる三種の文面。


 恐らく、”山賊(Bandit)の軍勢(Rebellion)”のなろうユーザー達や、自分に力をくれた者達の声援などが書かれているのだろう。


 あるいは、この事態においてすらイタズラや売名目的、あるいは敵意から赤城てんぷに向けられた誹謗中傷の文言かもしれない。


 何が書かれているかは分からなかったが、それでも――いや、だからこそ赤城てんぷはそれらを確認するためにも、ここで死ぬわけにはいかなくなった。


(そうだよな。僕は紛れもなく正真正銘の”山賊”だけど……”なろうユーザー”として小説家になろうで活動してきた事も、間違いなく嘘なんかじゃなかったんだ……!!)


 赤城てんぷは、唯一空亡に立ち向かえる存在である”山賊”として、自分の世界(縄張り)を護るために自身の力だけでこの戦いに決着をつけようとしていた。


 だが、圧倒的な個の力だけで物事を動かすのではなく、誰かと繋がりあう事の強さや尊さを、この赤い文字達は赤城てんぷに思い出させていた。


 彼は息も絶え絶えに――それでも力強く呟く。


「僕は、本当に大馬鹿野郎だ。……誰にも相談せずに自分一人で何とか出来ると思い上がったから、”魔王軍”の奴等にリンチに遭わされて一か月間も寝たきりで動けず、この場でも空亡(コイツに立ち向かえる特別な存在として自分だけで戦おうとしていた。……あれだけ田所さん達の強さを誇っていたはずなのに、自分も単なる”人間”だってことをどこかで忘れていたんだろうな」


 今度こそ、迷わない――。


 そんな決意を表すかのように、赤城てんぷが敵意や怒りとも違う強い意思を瞳に込める。


「……空亡、確かに僕はお前からすれば他の奴以上に取るに足らない雑魚だろうよ。……でも、そんな僕が今この場で、お前に唯一立ち向かえる存在である事に変わりないんだ。……だったら、どんなに絶望的だろうと最後まで足掻いてみせるッ!!」


 自身の胸部を貫く槍の穂先を掴みながら、赤城てんぷが盛大に力を込め始める――!!





「僕だって……”なろう(Bandit)ユーザー(Rebellion)”の一人だッ!!」





 刹那、地面に落ちた赤城てんぷのスマホが眩き輝きを放ち始める――!!

『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。

企画の概要については下記URLをご覧ください。

(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』


※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。


慎んで、深く御礼申し上げます。

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