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終極を超越する者

 ――終極領域:慟哭廃滅宇宙・『空亡くうぼう


 この地上だけではなく、遍く全ての世界を滅ぼし尽くそうとする廃滅神:空亡。


 赤城てんぷの抵抗を侮蔑するかのように睥睨していた空亡だったが――現在、この廃滅神のもとには暗黒領域の者達による断末魔やあるいは糾弾ともいえる思念の声が、捧げられるべき供物や贄の代わりにひっきりなしに届いていた。


 暗黒領域の者達にとって、『空亡くうぼう』とは魔王:古城ろっくの意思とそれすら遥かに上回る強大な力を有した絶対神ともいえる存在であったが、現在彼らが空亡に向けるのは礼賛からは程遠い感情ばかりであった。





『――『ダイナウェルダン(第九領域)』より通達!……我等が帝王:グレンカイザーの尊厳をどこまでも貶めた"検非違使けびいし"という存在に対する憤激を晴らす事が出来ない!!……空亡という神の掲げし”世界廃滅”という偉業に、我等雛鳥の如く惰弱な存在は不要と判断する!!……我等はどれだけ屍を積み上げることになろうとも、緋座鞍(ひざくら) 楼炎(ろうえん)という外道を雛鳥より劣る惨めな羽虫として必ず殺すッ!!』


『――『セプテムミノス(第四領域)』より通達。我等蛇神一同、テラス(あの娘)の悲哀に向き合ってくださった藤原ふじわら ペンぞう様の勇気と献身に報いるため、彼が愛する世界を廃滅せしめんと目論む邪神:空亡に反旗を翻す事を宣言します――!!』


『――『ベリアライズ(第十領域)』より通達……!!我等は、これまでひたすらに魔王:古城ろっくの無念を晴らすために全てを費やしてきた。……そんな我等にもたらされるのがこのような結末か!?我等だけでは飽き足らず、ギリアナ様への愛と忠義に生きたマグル様の生き様に唾を吐きかけ踏み躙るようなあの蛮行が運命さだめだとほざくのかッ!?この下衆がッ!!……呪いあれッ!偉大なる”古城ろっく”の名を穢す空亡くうぼうという偽りの化身に、我等ベリアライズ魔族軍の呪いあれッ!!』


『――こちら、『パラダイスロスト(第五領域)』!!……何故じゃ!貴様のもとについておれば圧倒的な勝利と繁栄が約束されているのではなかったのか!?なのに何故、儂の所有する建物やコレクションの数々が”転倒世界”とやらから来た屑共に壊されなきゃならんのじゃ!?……何が廃滅神じゃ!さっさと儂に賠償しろッ!今すぐだッ!!!!』


『――『ウルティマリア(第七領域)』より通達ッ!!なろう・転倒・民衆からなる反乱軍を前に、我等『ブルー・ノブレス』貴族連合、これ以上戦線を維持すること難しく既に瓦解寸前なり!!……奴等、この栄誉あるミザール家の血を引く私によくも、よくも……!!空亡なる神よ、ここから先は貴方への祈りは捨てさせて頂く!!私は神への信仰のために殉教の道を歩むのではなく、偉大なる父祖に報いるために!最後まで”貴族”として生きるのだッ!!』






 空亡のもとに伝わってきたのは、今も暗黒領域内でなろうの登場人物達や”転倒世界”勢力と戦い続けている者達であった。


 彼らは空亡に向けて、憤怒や決別、憎悪や嘆き、と言った意思を示したが――誰一人として、絶大なる存在であるはずの空亡に向けて祈りすがる者はいなかった。


 彼らは今もそれぞれの暗黒領域内でなろうユーザー達と戦闘を繰り広げていたが、『自身が抱えた激情は例え神である空亡であっても好きにはさせない』と言わんばかりに、己の意思の力のみで自身を蝕んでいた空亡の瘴気を振り払っていた。





 ――人は、十という数に王の影を見る。





 その言葉が示す通り、十の廃滅属性によって構成された空亡くうぼうという廃滅神の影響を自身の意思のみで打ち破った事により、彼らはみな簡易的な”超越者”とでもいうべき存在へと変貌を遂げていた。


 それにより、彼らは瘴気によって失ったはずの自身の誇りや理性を取り戻しただけでなく、これまでとは比較にならない爆発的な能力の上昇や異能に覚醒めており、数の劣勢をモノともせずになろうキャラクター達や転倒世界勢力と激戦を繰り広げていく――。





「今まで私が人生で学び、信じてきた事は何だったのだ!?何故、私が外道に堕ちてから貴公らのような存在が現れる!?……『まだ、間に合うのではないか?』――そんな希望を一瞬でも私に抱かせた”小説家になろう”という残酷な光が、私はたまらなく憎い……!!」


「――これが”なろうユーザー”の放つ煌きか!?これが”山賊”の誇る強さか!?……あぁ、空亡の圧倒的な権能も古城ろっくという絶対的な権威も、これらの至宝を前にしては全てが霞んでみえる!!……この輝き、失くしてはならぬ激情を我が魂に刻みつける事が出来るのなら、我が身がこの地で焼け落ちようとも何ら悔いなどありはしない!!」


「勝負だ、”山賊(Bandit)の軍勢(Rebellion)”!!……貴様等は今日この場で!俺と出会うこの瞬間の為だけに生まれてきたッ!!」





 己の命を燃やし尽くすかのような裂帛の気合と共に、超越者と化した者達が咆哮を上げる。


「気をつけて!!明らかに、コイツ等さっきまでとは比べ物にならないくらい強くなっているわ!」


「へっ、確かにそうだな!……けどよ、勝手な事ばっか言っているけど、今のコイツ等なら相手をしてやっても良いってそう思えるんだよな!!」


 なろう作品から飛び出した者達と暗黒領域の者達の死闘が熾烈を極めていく。


 だがそこには、どのような感情であれ、暗黒領域の者達にとって譲ることの出来ない彼ら自身の信念が色濃く宿っていた。


 暗黒領域では未だに各地で戦闘が続いているにも関わらず、なろうキャラクターや転倒勢力に呼応した住民達や守られた者達だけでなく、彼らと敵対している残党達からすら空亡に捧げられるはずの廃滅の力が急激に減少していき――遂には空亡への力の供給は、完全に途絶えることとなった。


 異常事態はそれだけではない。


 突如この廃滅領域に発生した亀裂を通じて、莫大な量の光が赤城てんぷへと降り注いでいったのだ。


 何故か亀裂を通じて”闇”を広げる事が出来なかったうえに、全世界から集結した力で強大化した赤城てんぷによる”降誕の焔”が、空亡がこれまで広げていた虚無なる闇を押し戻すかのような勢いで、盛大に燃やし尽くしていく――!!


 暗黒領域からの力の枯渇だけでとどまらず、現在進行形で焼け落ちる自身の廃滅領域……。


 それらの異常事態を前にしながら空亡は、現在起きている異常事態の数々に対して、これまでにない激しく苛立った感情を見せ始めていた。


『何だこれは……?何故、”十大暗黒領域”が山賊などという下等な者共が蔓延る”転倒世界”や衆愚の寄せ集めに過ぎぬ”なろう作品”如きに崩される!?それだけでは飽き足らず、我が廃滅の宇宙まで焼け落ちているだと!?……一体、どこで何が狂ったというのだ!!』


 数多の世界を併合し、膨大な数の可能性を塗りつぶしてきた。


 たった一つどれか一つの領域が顕現するだけで、この地上の文明全てを焼き払えるだけの脅威を秘めていた。


 魔王:古城ろっくが生み出した世界観の中でも、もっとも世界を廃滅する事に特化した悪意の軍勢であった。


 ――そんな”十大暗黒領域”という存在が敗れた上に自分から離反し、更に自身が支配するこの廃滅宇宙が、見るも無残に崩れ去ろうとしている……。





 ――自身がこの地上に完全なる顕現を果たすまで、間違いなく全ては手はず通りに動いていた。


 ――それが、どこをどう間違えればここまで歯車が狂うことになる?


 ――何故、今まで暗黒領域を一つもロクに攻略出来なかったこの世界の人間達が、突如これまでになかった予期出来ぬ力を発揮し始めたのか?





 暗黒領域の者達の離反とこの廃滅の宇宙に流れ込んできたこの世界の人間達の意思。


 なろうユーザーの復活とその登場人物達の登場。


 ……そして、忌まわしい転倒世界勢力の出現。





 一つ一つは強大な力を誇る空亡からすれば、取るに足らぬ者達のはずであった。


 それらの者達が起こした行動が、奇跡的に重なりながら自分の為すべき”世界廃滅”という祈りを妨げようとしている――!!


 否、それが”奇跡”などという代物ではなく、一人の人間を起点に繋がった当然の帰結である事を、空亡はここに来てようやく理解していた。


『――これらの因縁を引き連れてきたのは、貴様か!……山賊ッ!!』


 これまで万象を見下すかのような無機質なモノから一転、強い憎悪を宿した瞳で眼下の存在を睨みつける空亡。


 その視線の先にいたのは――世界中から集まった意思の力をその身に宿し、燦然とした輝きを放つ山賊:赤城てんぷの姿があった。


 これまでの苦し気な表情から一転、自身の中にみなぎる力を胸に赤城てんぷが余裕の表情で答える。


「これがお前が否定してきた”馴れ合い”の力ってヤツだ!……どうだい?言うほど、悪くはないだろ?」


 そう口にしながら、赤城てんぷはこの廃滅領域の外側で悪意の軍勢と戦ってきた者達や、自分に力を与えてくれた人々に想いを馳せる。


 確かにメガネコブトリ率いる”山賊(Bandit)の軍勢(Rebellion)”のなろうユーザー達は、この廃滅領域に到達できるような”山賊”ではなかったかもしれない。


 しかし彼らの行動は、完全無欠ともいえる空亡の廃滅宇宙に風穴をこじ開け、赤城てんぷへと意思の力を繋ぐ事に成功していた。


 絶望的な末路を切り開く、鮮烈なまでの魂が描く軌跡――それはまさに、この世界の人々が”BE-POP”と呼んできた意思の在り方に他ならない――!!


(何より、どこまで行っても”山賊”なんてのは、略奪する事しか出来ないロクデナシの集まりだ。……アンタ達は、そんな僕に出来ない事を既に成し遂げているよ。……田所さん!)


 誰かから奪うのではなく、誰かと繋がることで築き上げる尊さ。


 ”山賊”である自分や、”廃滅神”である空亡にも出来なかった事に挑み、それを成し遂げた田所達なろうユーザー達”人間”の強さを、赤城てんぷは誇りに思う――。


 そんな赤城てんぷとは対照的に、この宇宙を染め上げるが如く、隠すことなき憎悪や憤激をその身から空亡が放つ。





『馴れ合いの力、だと……?数が揃っている事がそんなに偉大なのか?貴様等はそれほどに万能なのか?……どれだけ正義を騙り自分達の力を誇ろうとも、貴様等なろうユーザーの力など無力そのものだッ!!真に誰かを救う事など出来はしないッ!!!!』





 冷徹さをかなぐり捨てた意思の声で、空亡が廃滅の宇宙に魂の慟哭を響かせる――。

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