新時代を刻む"なろうユーザー"達の物語
”山賊の軍勢”を包囲していた悪意の軍勢を駆逐したなろうの登場人物達は、先に乗り込んだ転倒世界勢力に加勢するように、十大暗黒領域へ進軍していく――。
「各地で現在起きている戦闘だが、明らかに『おいでよ!姉虎ランド♡』と『アングラケイオス』の両世界において”転倒世界”の人員だけでは対処が追い付いていない!至急行ける者は応援に向かってくれ!!」
「こちら『ベリアライズ』侵攻部隊から通達!!現在、魔族軍とやらの残党共が同じ魔族の被害者が出る事も厭わずに外国人街やアイドルグッズ店を襲撃している模様!!……戦うべき理由も自分から掃き溜めに捨て去るような腐れ外道共なんざ、徹頭徹尾どこまでもかませに過ぎねぇって事を身をもって教えてやる!!」
「……ようやく、ここまで来たんだもの。……”転倒世界”の山賊達だろうと、”暗黒領域”の住人だろうと、これ以上誰一人として!私の前から理不尽な悪意で失わせたりなんかしない!!」
空亡の瘴気によって理性を失くし、卑劣なテロ行為も厭わずに自身の世界で暴れ回っていた暗黒領域の暴徒達を、援軍として駆けつけた実力派なろうキャラクター達が一掃していく。
圧倒的なステータス能力を誇るなろうキャラクター達と、そのようなモノすら度外視して常軌を逸した力を発揮する転倒世界の戦士達。
彼らの猛攻を受けて、悪意に塗れた軍勢は次々と敗れ去っていく。
それと同時に、暗黒領域では”小説家になろう”から飛び出してきた彼らと関わることでこれまでとは違う大きな動きが起き始めていた。
第三領域:混沌無法地帯・『イビルオオツ』
領域支配者である束縛因 飛鳥の私兵として猛威を振るってきた警察兵・探偵兵がなろう勢力と交戦している中、市民達に熱心に呼びかけている者達がいた。
彼らはほぼ全員、物乞いの如く粗末な身なりをしていた。
明日をも知れぬ身と言っても、まさに過言ではなかっただろう。
平時ならば見向きもされない存在かもしれないが、人々は熱心に彼らの言う事に耳を傾けていた。
「……俺達はこういう日が来たときの為に、束縛因 飛鳥と奴の手下に成り下がってきた連中の悪事の証拠を集めてきた。……そして!これが奴等の犯してきた嘘偽り言い逃れの出来ない”真実”ってヤツだ!!」
彼らは全員、飛鳥の世界規模の凶悪未解決犯罪によって、権威や信頼を失墜し失職同然においやられた元・警察官や探偵達であった。
多くの警察官や探偵達が飛鳥の犯罪の物証を得るため、という名目で彼女の私兵となる契約を結んでいく中、彼らは最後まで巨悪に屈する事を良しとしない者達であった。
中には無実の罪を着せられ、重罪犯として投獄された者もいた。
ここに辿り着く前に、かつての同僚であったはずの者に『大義のため』という名目で闇に葬られた者もいた。
かつての職を追われ家族と離縁することになっても、被害者や犠牲者の無念を晴らすために最後まで”真実”を追い求めた者達であった。
その結果、彼らは飛鳥などに与することなく彼女やその配下に堕した者達の悪事の証拠を集めることに成功していた。
ただ、それを発表する事を邪魔するのは、この世界で圧倒的な権力を握った束縛因 飛鳥と、手段は違えども同じ正義や真実を追い求めていたはずのかつての同僚や同業者達であった。
今の自分達には証拠があっても何の権限や力もなく、下手に動こうとしても膨大な監視網の前にもみ消され葬り去られるのみ。
自分一人が犠牲になるならともかく、そこから芋づる式に抵抗している者達の繋がりを絶たれるわけにはいかないと、彼らは飛鳥が言い逃れの出来ない時期が来るのを待ち続けていた。
「だが、我々も最早そんな事を言っている時期ではないようだ……!」
「あぁ、そりゃそうだ。……なんせ、この『イビルオオツ』と何の縁もゆかりもないはずの奴等が、”これ以上、理不尽な犠牲者を出させない”って、それこそ命を懸けて戦ってんだ。……この世界で生きてきた俺達がここで躊躇していてどうすんだって話だわなぁ!!」
「当然だ。ここまでお膳立てされておきながら、”大義のため”という言葉に逃げて起ち上がりもしないのなら、俺達は束縛因の手下に成り下がった奴等と何ら変わりはしない。……この世界にも、巨悪と戦い続けてきた意思がいくつもある事を!正義や真実を求める心がどんな混沌の只中にあっても宿る事を!……何より、物乞い同然に身をやつしてきた俺達自身が『自分の半生は無駄なんかじゃなかった』と証明するために!全てを白日のもとに曝け出してみせる!!」
そう口々に言いながら、彼らが大衆へと膨大な資料とともに飛鳥達の悪事の証拠を見せつけていく。
人々はそれらの情報を前に驚愕し、混乱していたが――それでも、読み飛ばしたり否定したりせずに、噛みしめるように一つ一つの情報を読み込んでいく。
彼らとて詳細を知らずとも、この世界の支配者である束縛因 飛鳥という少女がどれほど危険な存在なのかは漠然としながらも薄々感じとっていた。
ただ、自分達が巻き込まれる事に怯えて、これまでずっと見て見ぬふりをしてきた。
だが、現在自分達が見ているのは単なる飛鳥達の悪事の証拠ではない。
『どんな選択の末に行動するにせよ、これ以上現実から目を背ける事を許さない』という”覚悟”の問いかけであった。
そんな人生の全てを擲った者達の想いに呼応するかのように、人々が声を上げ始める――。
「やってやる……!僕達が束縛因 飛鳥やその手下達からすればどれだけちっぽけな力しか持っていなくて、今までこういう事が起きていることを薄々気づいていたのに見て見ぬふりをしていたような卑怯者に過ぎないのだとしても!……引き起こされてきた凶行に怒る事が出来るんだって、証明してみせるんだ!!」
「私だってそうよ!……もう自分や家族や友達が、朝目覚めたときや家に帰る途中に急にいなくなってしまうんじゃないか、と怯える日々を過ごすのはもう嫌なの!!」
「転倒だかなろうだか知らねぇが、これ以上俺達の世界の事を他所から来た奴等に何でも抱っこにおんぶで万事解決、なんてさせてたまるか!……最後のケジメくらい、俺達自身の手でつけてやる!!」
この世界の底辺でもがき、隠れるように生きながら、愚直なまでに”真実”を追い求めてきた者達の意思を受け継いだかのように、束縛因 飛鳥の支配に怯えるしかなかったはずの『イビルオオツ』の人々が糾弾の声と共に、決起し始めていた――。
第七領域:封絶独裁王国・『ウルティマリア』 ~~支配地域~~
現在この地では、絶対終身女王:レティシア=ウルティマリアの圧制に反旗を翻す民衆の動きが活発化していた。
彼らを鎮圧するために乗り出そうとするウルティマリア軍と転倒・なろう勢力の戦闘が勃発する中、大きな動きを見せる者達がいた。
「我等、旧・ジスタニア公国騎士団!これよりウルティマリア軍を離脱し、護るべきはずの自国民に刃を向ける兇徒共の討伐を遂行する!!……覚悟が出来た者から、私に続けッ!」
そんな自分達の部隊長の呼びかけに応えながら、部下の者達が武器を手に続く。
彼らはかつて『ウルティマリア』という暗黒領域の支配下に組み込まれた世界の兵士達であった。
奴隷兵としてウルティマリアの侵攻作戦に幾度も参加してきた彼らは、現在敵対しているはずの転倒・なろうの勢力、並びにレティシアを糾弾する国民達に呼応するかのように、ウルティマリア軍と戦闘を繰り広げていた。
突然の裏切り行為を行った部隊長に、彼らの急襲を受けた部隊のウルティマリア軍の兵士が憤怒と共に激しく罵る。
「俺達が狂ってるだと……!?じゃあ、テメェらの行いがどんだけマトモなんだ!?やってる事は単なる火事場泥棒だろうがぁッ!!」
激しい舌禍と共に、兵士は部隊長に斬りかかっていく。
「テメェら奴隷兵だって、俺達と一緒にいくつもの世界を奪って!犯して!殺して回ってただろうが!!……それを何だ?俺らの旗色が悪くなったからってあっさり鞍替え出来ると本気で回ってやがんのか!?お前等一人残らず俺達と同類なんだよ!!」
反乱分子共や他の世界から来た外敵にならば、彼らがどれだけ御大層な理屈を説こうと、情に訴えかけようと、義憤を胸に怒りを示そうとも、それらを全て嘲笑いながら鉛の雨をその身に降らせていたに違いない。
だが、どれだけ身分の差があり普段から確執があったとしても、一時でも同じ旗のもとで命を預け合ったはずの者が自分達に銃を向ける事は許さない、と相貌を憎悪に歪ませていた。
「今更都合の悪い事は全部俺達に押しつければ、民衆のヒーローとして迎えられると本気で思ってんのか?甘ぇな!お前等は自分の世界一つ守れずに命惜しさで俺らに命乞いして、『命令で仕方ないから』とか言い訳しながら俺達と散々愉しんできた臆病者のクズの集まりだ!!……おまけに、ここに来て裏切りだと?そんなんが本当にテメェらの故郷の”誇り”とやらなのかよ!?……テメェらなんざ、”山賊”よりも遥かに劣る犬の糞以下の存在だッ!!さっさと、死ねェェェッ!!!!」
そんなウルティマリア兵の銃剣を、反乱部隊を率いる部隊長が裂帛の気合と共にはじき返す――!!
「もとより、我等は自身の命欲しさに貴様等の軍門に下った卑怯者よ!!貴様の言う通り、どれだけ言い訳したところで数多の世界に自分達がかつて受けてきた苦痛と絶望をばら撒いてきた罪業はどうしたところで拭えぬし、許されるなどと微塵も思っていない……!!」
だからこそ、と部隊長は続ける。
「これ以上、我々のような大事なモノを奪われた存在を更なる災禍に叩き込み、卑劣な”侵略者”としての列に並ばせる事など出来ない!……例えこの先、異世界からの軍勢や民衆によって、我々が貴様等同様の存在として断罪されようが、”自国民を護る”というなけなしの誓いすら容易く放り捨てようとする貴様等などとこれ以上轡を並べる気など毛頭ありはしない!!」
「ッ!!テメッ……!!」
睨みつける兵士に対して、部隊長が毅然とした眼差しで己の意思を告げる。
「我々は、この先一秒たりとも”ウルティマリア”である事を拒絶する――!!」
それはまさに決別の意思であった。
そんな部隊長に対して、ウルティマリア兵が激しく憤激する。
「……ふざけんな!今さら、テメェらだけそっち側に戻れると思ってんじゃねぇぞッ!!!!」
絞り出すような絶叫と共に、銃声が上がった――。
ここと同じように暗黒領域の至るところで旧・支配地域の兵士達による叛乱が勃発し、それらは共鳴するかのように更なる波紋を呼び起こしていく――。
転倒世界勢力やなろう作品の登場人物達、新しい時代を望む民衆、悪意の終わりを望む虐げられし者達によって、暗黒に呑まれた軍勢は自身の世界からすらも駆逐されようとしていた。
生き残ったなろうユーザー達と、次々と姿を現す膨大な数の登場人物達。
そして、暗黒領域の者達を蟻の子一匹逃さない布陣で展開される結界包囲網。
これらを前に、地上に出現した暗黒領域の者達は為す術もなく一掃されていった。
それだけではなく今や、自分達の本拠地である暗黒領域の攻略にまで踏み出している……。
信じる事が出来ない絶望的な戦況を前に、残り僅かな暗黒領域の残党が狂乱の声を上げる。
現在生き残った者達を率いる『イビルオオツ』の探偵兵が、険しい顔つきで残った者達に当たり散らすように叫び続けていた。
『アングラケイオス』のマフィア達は、自分達『イビルオオツ』の警察・探偵兵を中心に大規模検挙してしまったせいで、戦力として見込む事は出来ない。
それでも、まだ自分達は終わりではないと必死に声を荒げる。
「あ、ありえん!我々は最強の”十大暗黒領域”の精鋭だぞ!?……数多の世界を併合し、文明を滅ぼす力を持った我等が、何故”なろう作品”如きに負ける!!これのどこが論理的だ!!……誰か、説明しろ!!」
だが、彼に返ってきた言葉は――全くの希望が入り込む余地もない、どこまでも非情な現実であった。
「残った炎竜の数、僅か8体……いや、今の攻撃で7、さらに6に減少……!!あり得ん!それでも最強の一角を欲しいままにした存在か、貴様等ァッ!?」
「ウルティマリア軍、なろうユーザー達の執拗な攻撃に遭い完全に全滅!魔族に対してもなろうユーザー達は全く容赦も油断もすることなく、奴等を使った暗殺も困難!……これ以上の作戦の継続は不可能と判断する!!」
「電子ドラッグで廃人化した者達は既に正気を取り戻して使い物にならず、”姉虎”はすべからくノクターンユーザー共の手に堕ち、”石像”部隊は蛇共が謎の失踪を遂げた事により無力化……更には石化解除の術式を用いた者達によってかつての姿を取り戻した者達が次々となろう勢力の援護に当たっている模様!……何だこれは!こんな戦況でどうしろと言うのだ!?」
「馬鹿な……”なろう作品”など、この世界に生きる社畜の泣き言、ニートの妄言、灰色の日々を過ごす学生共の現実逃避以外に何の意味も持たぬ出来損ないの寄せ集めではないか!?奴等のどこに”古城ろっく”以上の優れた部分があるッ!?あの方が宿した絶叫以上の感情を秘めた者達がどこにいる!?……絶対なるあの方の権威も介さぬ塵共などに、我等を踏み躙る正当な理由など微塵もありはしないッ!!」
顔を憤怒で歪ませながら、空亡の瘴気に完全に呑まれた探偵兵が声を荒げる。
残存兵達があまりの剣幕に委縮する中、一人彼に向けて声をかける者がいた。
「優れた洞察力やらがあっても、そんな結論にしか行きつかない限り、君達はこの先何度僕らに挑んでも必ず敗北する事になる……それが、転倒しようのない絶対の真実ってヤツじゃないかな?」
……もっとも、それは味方がいる前方からではなく、後方からのモノだったが。
探偵兵は勢いよく後方に振り返って、凄まじい剣幕と共に相手の素性を問い質す――!!
「貴様、何奴ッ!?」
その問いに対して、声の主が堂々とした様子で悠然と答えを返す――!!
「――冷奴、ってね。……僕の名前は田所。みんなからは”メガネコブトリ”って呼ばれている山賊の軍勢の首領さ……!!」
「メガネコブトリ、だと……?貴様が、この忌々しいなろう作家達を率いている首魁とやらか!!ならば、ここで貴様を葬り去って山賊の軍勢を瓦解させるのみッ!!」
そう口にしながら、探偵兵が優れた犯罪的手腕を用いて見る見るうちに迷宮入り難事件を構築していく。
統率力に優れていても、覚醒めたなろう作品の力としては最弱クラスに等しいメガネコブトリでは、このまま為す術もなく闇へと葬り去られる事は必定である。
だが、現実はそのようにならなかった。
突如、探偵兵が構築した迷宮入り難事件に亀裂が入ったかと思うと、勢いよく粉々に砕け散っていく――!!
そして、闇を晴らす光を背にしながら姿を現したのは、推理系小説の主人公である少年探偵と――その作者である男装探偵少女だった。
『セプテムミノス』の領域支配者:テラスの”魔眼”の力が弱まったことによって、石化した者はなろうの登場人物達の術式などによって石化解除が出来るようになっていた。
そのため、暗黒領域に乗り込んだ者達とは別に、メガネコブトリの指示のもとなろうユーザー達は最初の『セプテムミノス』出現の際に石化させられた都市を速攻でもとの状態に戻す事に成功していた。
そして当然、その状態から復活した男装少女もなろうユーザーの一人として、この戦線へと参陣する事を決意する。
「ボクが来たからには、”完全犯罪”なんて寝言は通じないよ?……覚悟するんだな、暗黒領域!ここからは、野卑たる悪意ではなく、人類の知性と勇気が勝利する番だ!」
彼女の啖呵を前に、探偵兵が思わずたじろぐ。
しかしそれも一瞬の事であり、ここで退くわけにはいかないと、残存兵に発破をかける。
「クッ……優れた推理力があろうと、所詮相手は頭脳担当の単なる"探偵"に過ぎぬ!!人海戦術と実戦経験を駆使して、メガネコブトリごと敵を粉砕せよ!!」
『御意ッ!!』
『ぬほっほ~ん♡』
探偵兵の指示に従うかのように、『パラダイスロスト』のおっかけと『アトラクシオン』の狂信者からなる十名近くの敵が男装少女に迫る。
平時ならいがみ合う両勢力だがこのときばかりはそんな事を言っていられないと、メイスやサイリウムを携えながら、男装少女へと襲い掛かる――!!
まさに彼らの魔の手が迫ろうとしていた、――次の瞬間!!
「権力闘争や戦争なんかに関わりたくないのに、なぜだかみんなから引っ張りだこ♡」
そんなキメ台詞を唱えながら、『現代社会で生きることに疲れた主人公が、異世界の辺境でモノ作りに励みながらスローライフに自信ニキ!』な作品の主人公が、手にした工具で瞬時に敵の武装を解体していく――!!
「我が悪しき者達を誅戮するための聖具が……まさか、一瞬で!?」
「ぼ、僕ちんのライブ限定販売のアイテムが……!?マ、糞婆ァ~~~ッ!!」
そう言っている間にもスローライフの主人公が残党達の装備を無効化するのを見ながら、作者である大柄の男性なろうユーザーがおにぎりを自身の口に運ぶ。
「僕はみんなとゆっくりとおにぎりを食べられる時間が好きなんだな~!」
「そうだね、事件解決の後のティータイムというモノは、実に素敵なモノさ。……という訳で、大変長らく待たせたね、メガネコブトリさん!」
「……あぁ、本当に遅かったじゃないか、二人とも……!!」
もう二度と会うことが出来ないと思っていた仲間達との再会に、戦場である事も忘れて感激するメガネコブトリ。
そんな彼に謝罪の言葉を口にしたり笑いあったりしながら、軽くやり取りをしていた。
そんな光景を尻目に残党達は瞬く間に制圧されていき、今や動けるのはこの場をまとめあげていた探偵兵のみとなっていた。
対するメガネコブトリは、ナイト達を始めとする仲間達、そして男装少女のような戦線に復帰したなろうユーザー達に囲まれる形となっていた。
一人になりながら、それでもと探偵兵が叫ぶ。
「……私の分析は何一つ間違っていないはずだ。”なろう作品”など、所詮時代の敗残者共の泣き言・妄言の塊に過ぎぬはず!……それが何故だ?何故、我等がこのように追いつめられる羽目になっている?……答えろ、メガネコブトリ!!」
そんな問いかけに対しても、メガネコブトリは憎悪や侮蔑でもない――力強い意思と共に答える。
「今のこの状況が君の問いに対する答えそのものだ。……僕達の創作活動のきっかけが例え、君の言う通り泣き言や妄言のような感情から始まったモノだったとしても、そこから繋がった絆をもとに他者を認め、こうしてより大きな存在に立ち向かうだけの大きな繋がりを作り出す事が出来るんだ」
そう口にしてから、メガネコブトリの視線が探偵兵を鋭く射抜く。
これまでなろうユーザーという存在を自分達より遥かに劣った存在とみなしながら、探偵兵はその視線から逃げるかのように顔を背けていた。
そんな探偵兵にメガネコブトリが言葉を続ける。
「魔王から分かたれた”廃滅因子”という自分達の力の強大さのみを誇り、人が踏み出す最初のきっかけで全てを見下し、それ以降に僕達が築き上げてきたモノを認めようとせずに簡単に全否定という結論に至った……それが君達暗黒領域の敗因って奴だ……!!」
「……ッ!?」
言葉にならないくぐもった声を上げながら、静かにうなだれる探偵兵。
こうして、最後の一人となった探偵兵の投降と共に、地上の戦いは完全に幕を下ろした――。
まだ暗黒領域での戦闘は続いているものの、ひとまず地上での事態は収まりを見せ始めていた。
メガネコブトリ達”山賊の軍勢”は勢いのままに、廃滅神:空亡にただ一人で抵抗を続けている赤城てんぷを助けるために、終極領域へと進軍していく――。
”山賊の軍勢”が駆けつけた先には、赤城てんぷが決死の形相を浮かべながらも天に座する空亡と対峙している姿があった。
自分達は間に合ったのだ、とメガネコブトリは安堵したが、彼らに出来るのはそこまでであった。
「メガネコブトリさん、これ以上は俺らじゃ踏み込めねぇみたいだ……!!」
メンバーの一人であるなろうユーザーが、リーダーであるメガネコブトリにそのように呼びかける。
彼だけでなく、ナイトを始めとする超実力派人気なろう作家が自作品の登場人物の力を持って、廃滅領域に踏み込もうとするが、それらも赤城てんぷと空亡がせめぎ合う事によって生じた闘気に阻まれて一定距離以上は近づく事すら出来ない有様であった。
視認出来る距離まで近づいているというのに、何も出来ない――。
そんな現状を前に、メガネコブトリが歯がゆい表情を浮かべる。
「やはり、僕達じゃ”山賊の軍勢”と名乗ったところで、明石埜君のような本物の”山賊”になることは不可能なのか……!?」
――人々の”希望”の果てに顕現した、最強最悪の化身:空亡。
この世界で空亡を打破できるのは"正義"ではなく、空亡と同じように自身の野望のためだけに、世界の全てを巻き込んでしまうような”悪”を背負った存在である”山賊”のみ――。
ここまで死闘を潜り抜けてきたメガネコブトリ達は、今度こそ自分達は歴とした”山賊”として赤城てんぷと肩を並べて戦えるようになったはずだと、心のどこかでそう思っていた。
……だが現実は、違った。
”山賊の軍勢”と名乗ったところで、政府や国連から手厚い保護を受けながら暗黒勢力と戦っている時でも現代社会を満喫してきた自分達と、今回の大異変が起きる以前から会社員として働きながら、現代社会に組み込まれることなくひたすらに”山賊”としての意思を一人研ぎ澄ませ続けてきた赤城てんぷという男が、同じ存在として並び立つはずがなかったのだ。
しかし、ここまで来てメガネコブトリが――いや、全てのなろうユーザー達がそんな結論に納得できるはずもなかった。
メガネコブトリが悔しさを滲ませながら、自分達の不甲斐なさを口にする。
「駄目なのか……?ここまで勝ち抜いても、今目の前で苦しんでいる明石埜君に何も出来ないほど、僕らは無力なままでしかないって言うのか……!!」
他のメンバーも沈痛な面持ちで無言のまま俯く。
誰もが絶望的な状況を前に心挫け、諦めかけていた――そのときだった。
「――書きましょう、メガネコブトリさん。……私達は本物の”山賊”にはなれないかもしれませんが、それでも!”なろうユーザー”である事には変わりないはずです……!!」
皆が声のした方へと振り向く。
そこにいたのは、大異変以降からメガネコブトリ達と行動を共にしてきた詩を紡ぐなろう作家の女性ユーザーが、決意を宿した表情と共に立っていた。
皆の視線に物怖じすることなく、彼女は言葉を続ける。
「現代社会に染まりきった私達には、赤城てんぷのように山賊としての”BE-POP”な魂を自分の中に宿らせるのは無理かもしれません……でも、そんな今の状況を前に無力なまま終わりたくないっていうこの気持ちは本物のはずです!!……なら、これまで”なろうユーザー”として活動してきたこの力で、あの人のもとに私達の意思が届くまで……届かなくても別の形でこの終わりかけた世界に向き合うための自分だけの言葉を!たくさんの人達から未来を託されてきた私達は書き続けなきゃいけないんです!!」
詩ジャンルの女性が、自身の中から絞り出すように思いの丈を叫ぶ。
普段の彼女からは及びもない姿だが、それを指摘する者は誰もいなかった。
異論の代わりに、ナイトが賛同するように言葉を続ける。
「やってやろう、メガネコブトリ。俺達は大異変が起きる以前から、これまで散々自作品の中で全能感に浸った自意識を何の恥ずかし気もなく披露し続けてきたんだ。……今さら、こんなところでメソメソするなんて柄じゃないだろ?」
「ナイト君……!!」
やがて他のメンバーからも、次々とメガネコブトリに向けて声が上がり始めていた。
「やってやろうぜ、メガネコブトリさん!今までの作品達でこれだけの事が出来たんだ。――なら、ここから更にみんなで二倍分書いていけば、俺達なら何だって出来るはずだ!!」
「アンタねぇ……どういう理屈と計算よ、それって。無理に決まってるでしょ!……でも確かに、不謹慎かもしれないけど、『世界の危機』っていう絶好の題材があるのに、それを前に何もしないっていうのもなろう作家の名折れってモンよね!」
「みんな……!!」
気軽に見えても、奥底に強い決意が込められた仲間達の言葉を受けて、メガネコブトリが真剣な顔つきになる。
彼らの意思に応えるかのように、決意した顔つきのメガネコブトリは集ったなろうユーザー達へと強く呼びかける――!!
「――そうだよな。例え、今は届かなくても僕達が”山賊の軍勢”という旗に誓った想いは嘘なんかじゃないし、無駄にはさせない!!……現状で到達できないと言うのなら、そんな結末を僕達自身の力で!何度でも挑んで覆してみせるッ!!」
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
メガネコブトリの呼びかけに共鳴するかのように、なろうユーザー達が自身の思いの丈を作品として執筆し始める――!!
世界の終わりを前に、なろうユーザー達が思い思いの言葉で作品を執筆していく。
純粋に世界の終わりを防ぐために、絶望に立ち向かう物語を書く者がいれば、反対にそれすらも娯楽として喜々として描く者もおり、空亡を倒すため赤城てんぷを助けるためでもなく、この大異変で失われた大切な者に向けて想いを綴る者もいた。
同じような題材、類似した表現の作品はあったかもしれない。
それでも、誰一人として同一の答えに行きつく者はいなかった。
あらゆるしがらみを超えるかのように――それでも”山賊の軍勢”のメンバーとして、”山賊”を目指し駆け抜けてきた日々の結実を果たすかのように、なろうユーザー達が誰に強制されたわけでもない自分だけの文章で作品を執筆していく。
それは、かつて”魔王軍”と呼ばれていた古城ろっくを支持するなろうユーザー達ですら例外ではなかった。
彼らは強い想いを込めて、文章を打ち込む画面へと向き合い続ける。
「あの"赤城てんぷ"って奴がどんだけ凄いヤツで、世界を救えるような奴だったとしても……俺達の”すげどう杯”という企画を穢し、ろっくさんを貶めようとした事は許せないしやっぱり嫌いだ……!!」
「周りの人間がどれだけアンタの事を悪く言おうと、俺達はどこまでも本音でぶつかってきた”古城ろっく”っていう人間の事が、たまらなく好きだったんだからよ……!!」
それでも、と彼らは口にする。
「世界を終わらせる事がアンタの意思って言うなら、それだけは頷く事は出来ねぇ!!……アンタからすれば、俺達はただ自分の後から追従していただけの雑魚かもしれないが、俺達にだって書きたい想いがあってこの”小説家になろう”っていうサイトに登録したんだ!!……それだけは、聞いてやれないんだ。ろっくさん……!!」
「ろっくさん。例え、ピラフの中に生レーズンを入れるような世の中になったとしても、俺はこの世界に”未来”が欲しい……!!」
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!この一筆に俺の寿命の半分をつぎ込んでやるッ!!……だから、他の奴等の分は負けてやってね♡」
「……アンタがいないなろうは、炎上騒ぎもなくてスゲーつまらなかったよ。この騒ぎに怯えながらも、内心で心なしかワクワクしていた事も否めねぇ。……それでも、これで全てが終わって温い平和な時代とやらが来ることになっちまうとしても、俺はそこで生きていく事を決めたよ……決めたんだ!!」
そんな彼らなりの手向けの言葉と共に、”魔王軍”の者達がこれまでの古城ろっくへの感謝と、世界廃滅という道を選んだ彼への決別の意思を込めた作品を執筆していく――。
世界を救うためだけでもなければ、邪悪を討ち果たすためだけでもない。
世界の危機に立ち向かい続ける赤城てんぷを嫌う者もいれば、世界を破滅へと導こうとする古城ろっくを強く慕う者もいた。
例え、どれほど向いている方向が違い相反していても、皆、真摯な想いと共に書き上げられた作品である事には変わりなかった。
それらの作品や登場人物達は一つの方向に揃うことなく――けれど、書き上げられた執筆作品を打ち消すことなく、作者の想いに応えるかのように、それぞれの在るべき方向へと飛翔していく。
――この戦場を超えて、暗黒領域顕現の際に犠牲になった者達に癒しの力と言葉を届ける者達。
――暗黒領域で継続している戦闘から、現地で怯えている無辜の民を護るために駆けつけた者達。
――そして、自身を生み出した作者の想いを赤城てんぷに届けるために、何度も廃滅領域へと挑む者達。
それらが幾筋もの光となって連なり、赤城てんぷが展開した”降誕の焔”とも違う世界の亀裂を生じさせていた。
だが、そこから空亡の廃滅の”闇”が漏れ出すことはなく、亀裂を通じて膨大ななろう作品の力が赤城てんぷの身へと降り注いでいく――!!
「……通じた。僕達の執筆した作品が、明石埜君のもとに通じたんだ!!」
眼前で起きた輝きに満ちた光景に驚きながら、メガネコブトリがこの大異変以降すっかりお馴染みとなった興奮した面持ちで盛大に歓喜の声を上げる。
そんな彼に続くように――けれど、誰が言い出したわけでもなく、次々と彼に向けての声援が上がり始める!!
「いっけぇぇぇッ!!赤城てんぷ!……ここまで来ておいて、負けちゃいました♡なんて、絶対に許さないからな!!」
「私達の分まで頑張って!赤城てんぷさん!!」
「”魔王”だか”廃滅神”だか知らねぇが、そんなモンがお前みたいな本物の”山賊”の相手になるかよ!!……この世界が誰の縄張りかってことを、とくとその身に叩きこんでやれッ!!」
『絶対に勝って、赤城さん!!』
『俺はアンタに全てを賭ける!!』
『悪い奴なんか、やっつけて!赤城さん!!』
赤城てんぷのもとになろうユーザー達の声援だけでなく、ネットでも盛大にそのような書き込みが雪崩のように相次いでいた。
それだけでは満足できなかったのか、立て続けに怒涛の勢いで、”小説家になろう”の登録者数が跳ね上がっていく――!!
「オイオイ……いくら政府や国連が支援してくれているからって、これはいくら何でも回線パンクするだろ……!!」
ナイトが空を見上げながら、そう呟く。
その声に続くかのようになろうユーザー達が顔を上に向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「ス、スゲー!!……これが全部、今のなろうユーザーの数なのかよ!?」
「ハハッ、世界廃滅なんてとんでもないモノを既に目にしているはずなのに……まさか、ここに来て更に驚かされるとはな……!!」
彼らが見上げた先――そこには、きらめきを放つ膨大な光の群れが、まさに流星群の如く廃滅領域へと向かっていた。
それらの光は日本全国……いや、世界各地から発生していた。
国や宗教、人種や性癖の垣根を超えて、この世界の危機に最前線で立ち向かう”赤城てんぷ”という山賊に報いるために、”小説家になろう”に登録した外国人達の意思の力が今ここに集結していく――!!
一つ一つの想いは、どこまでも卑近かつ矮小なモノに過ぎないかもしれない。
善き方向を目指して一つの道に想いを束ねたとしても、今回の"すげどう杯"のように悪用されて、最悪の事態を引き起こす事もある。
どれだけ力を合わせても、破滅の化身の復活を阻止出来なかった苦い失敗もある。
――それでも彼らは、本当に大事な時に間に合う事が出来た。
ならば、まだ遅くはない――今度こそ、絶望を終わらせてみせる!!
そんななろうユーザー達の意思の力が、赤城てんぷをこれまでにない高みへと引き上げる――。
なろうユーザー達が真に新時代へと願う光景をこの星に刻みつけるかのように、赤城てんぷが展開する"降誕の焔"が、闇を払い尽くすかのような一際まばゆい輝きを放っていく――!!
『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』
※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。
慎んで、深く御礼申し上げます。




