刹那に全てを賭けた遺されし者達の物語
ユーザーの意思に呼応して出現したなろう作品の登場人物達。
彼らは暗黒領域の軍勢を相手に、快進撃を繰り広げていく――!!
「何だコイツ等は……一体、どんだけ数がいやがるってんだ!?」
「おまけに、”姉虎”が向こうに取り込まれているというのに、石像達まで突如活動を停止!……む、向こうは増えてるのに、こっちは減ってる状況でどうしろと言うんだ!?」
『セプテムミノス』の領域支配者であるメデューサ:ミノスに何かあったのか、彼女の支配下にある石像部隊が突如謎の一斉停止を行い、その中から石像達を操っていた蛇達が次々とこの戦いを放棄するかのように逃げ始めていたのだ。
単に領域支配者が敗れただけならば、空亡の瘴気に呑まれて敵に向かうはずなのに、それとは明らかに違う”戦線離脱”という蛇達の行動に動揺する廃滅の使徒達。
このままマトモになろう作品達と戦っていてもキリがない……そう判断した彼らは、別の存在に目をつけた。
それは彼らを生み出した創造主ともいえる存在である”なろうユーザー”達であった。
なろうユーザー達は自身がこれまで使用していた力の持ち主である主人公達が姿を現したことで、その能力を振るう事が出来なくなったらしく、なろう作品達に守られている形となっていた。
”コスモ・ミュール”によるハッキングによって能力を失ってからも、己の創意工夫で暗黒領域の猛攻を凌ぎ切った存在であるため、決して油断出来るような存在ではない。
それでも、このままなろう内から出てきた登場人物達を相手にするよりかはよほど勝算がある……場合によっては、作者を消せばそのまま作品ごと消えるかもしれない、と暗黒領域の者達は判断した。
「こうなったら……誰も呼び出す事が出来てねぇ、テメェから真っ先に死にやがれッ!!」
「……キャアッ!?」
自作品に登場人物らしき存在もおらず、自身の徒然なる想いを詩ジャンルで紡いできた女性なろうユーザーに向けて、ウルティマリア兵が銃を向ける――!!
……だが、その銃弾が彼女の身を貫く事はなかった。
「……?」
彼女が恐る恐る目を開くと、彼女の身を四方から覆うかのように数多の文字が下から上へと流動し続けていた。
最初は何が起きたのか分からずに、眼前の光景に怯えていた彼女だったが、そこに記されている文章らしきモノを眺めている内にふと、ある事に気づいた。
「こ、これって……もしかして、私が書いてきた詩編なの……?」
それは、彼女がなろう内で書いてきた多くの詩だった。
春の桜がとても綺麗だった事。
頑張っている人を癒してあげたいという想い。
……それと、職場で注意を受けたときの、ちょっとした愚痴。
喜怒哀楽の違いはあれども、どれもがたわいない日常の一コマであり、こんな非日常かつ理不尽がまかり通る戦場には不釣り合いなモノばかりだった。
一つ一つは単なる文字の羅列にしか過ぎないかもしれないが――彼女には、自身が紡いできた詩編の数々が勇気を振り絞って必死に自分を護ろうとしてくれているかのような、意思のようなモノを根底に感じ取っていた。
「な、何だこりゃあ!?テメッ、ふざけてんじゃねぇぞ……グハァッ!?」
ウルティマリア兵が声を荒げながら、なおも女性に襲撃しようとした――次の瞬間!!
「……お前みたいな三下風情が、その人に触れようとしてんじゃねぇよ……!!」
突然の呼び掛けに対して反応が遅れたウルティマリア兵を、ガタイの良い成人男性が横合いから思い切り殴りつける――!!
詩人である女流作家は助けられた礼を言うのも忘れて、詩編越しにその男性の顔を見やる。
彼女のこれまでの人生において、彼のような人物と出会った事など一度もない。
だが、彼からは――自分達のリーダーであるメガネコブトリをウルティマリア兵の凶弾から庇って死んだアクション男性作家の面影があった。
自身を守ってくれている詩編の文字列を鉄格子のように両手で掴みながら、手の届かない場所にいるその男性へと声をかける女流なろう詩人。
「ねぇ!もしかして……貴方は、”彼”の作品の登場人物なの!?」
違う。
本当に聞きたいのは、こんな分かり切った言葉じゃない。
今助けられた事に対する礼や、あのとき眼前で何も出来なかった自身の無力さからくる謝罪や……互いに意識しながら、それでも伝えきれていなかった想いがあった。
そんな葛藤に満ちた彼女にふと柔らかく笑みを浮かべてから、アクション作品の主人公が背中を見せる。
「作者は俺なんかよりも遥かに弱いはずの存在だった。なろう作品の力に覚醒めたとはいえ、生身の人間がいきなりそれらを使いこなせるわけなんてないからな。……けど、それでもアイツはアンタや自分達のリーダーを守る事が出来たんだ」
だから、と彼は続ける。
「男の自己満足……って言ったらそれまでだが、あのときのアイツはその一点において、俺達みたいな登場人物にも出来なかった事をやってみせたんだ。……今はアイツの死を悲しもうと、勝手な生き様を恨んでくれても構わない。……でも、アイツが懸命に生きてきた事だけは覚えてやってくれ……!!」
「……ッ!?」
そこまで聞いてから堪え切れないと言わんばかりに、詩編を掴みながら女流作家は泣き崩れていた。
アクション主人公はそんな彼女を見やりながら、詩編で出来た結界から絶対に出ないようにだけ告げて他の者達が混戦を繰り広げていく戦場へと飛び込んでいく――。
「……勝手だよ、本当に男の人って勝手すぎるよぉ……!!」
誰も応える者がいない中、女流作家を囲うように展開していた詩編達のみが慰めるかのように、この場において不釣り合いともいえる優しさに満ちた言葉を流し続けていた――。
現在この激戦地には全てを覆い尽くそうとする暗黒を打ち払うかのように、幾筋もの強大な光の柱が出現していた。
そこから出現した登場人物達は、ジャンルや人気を問わず、物語を生きてきた主人公達が何物をも断ち切る刃と化し、登場人物が存在しないエッセイや詩といったジャンルの作品などは、ユーザーを守る強固なる盾と化していた。
暗黒領域の軍勢にとってたまらないのは、現在生存しているなろうユーザー達だけでなく、先程のアクション作品の主人公のような故人となったなろうユーザー達の作品達まで、生前に親交のあった他の作者との”縁”を伝うかのように、この場に次々と姿を現している事である。
彼らは自身の作者と親しき者達を護るかのように――あるいは、その無念を晴らすかのように、果敢に暗黒の軍勢へと斬り込んでいく――!!
「……私の力を宿していたはずのあの子が、あんなあっけなく死んだりするはずがないじゃない……!!言えッ!!お前等、どんな卑劣な手段を使ってあの子の命を!尊厳を!踏み躙ってきたんだッ!?」
激しい輪姦行為の末に命を落とした女流作家の無念を晴らすかのように、裂帛の気合と共に典型的な悪役令嬢の主人公が愛用の拷問椅子車に騎乗して、ゴブリンを始めとする魔族の群れを一掃する。
「――情けないよな。俺はこんだけお膳立てされた強さを持って、自分の世界じゃ敵と呼べる奴なんかいない無双の力を手に入れた、って言うのに……どんだけ強い能力を持っていたところで、本当に作者が助けを呼んでいたときに、間に合いすらしなかったんだ……!!」
己自身の無力さを悔いながらも瞳に激しい復讐の炎を燃やした異世界転生小説の主人公が、自身の”神奏加護”によって極限まで高められた爆炎魔法を用いて、『ダイナウェルダン』という灼熱の地で生まれ育ってきたはずの炎竜達を一瞬で消し炭に変えていく。
見れば彼らだけでなく、様々な場所で護るべき作者を失いながら暗黒領域の者達に慟哭の声を張り上げて向かう者達がいた。
彼らの作者は、初めの瘴気発生の時点で何も分からぬまま命を奪われた者達や、死闘に挑むだけの実力と覚悟を有していながら、”コスモ・ミュール”の不当な作品削除による不意打ちで能力を失い、為す術もなく命を奪われていった者達であった。
――私という存在をここまで高みに導いてくれた存在を、卑劣な手段でその生の輝きごと貶めたのが許せない。
――例え、人気取りや既存の作品の猿真似と言われようが、流行を分析して自分を作り出そうとしたあの人の情熱は本物だった。
――俺があの場にいれば、こんな奴等になんて負けたりはしなかった……!!
ジャンルや人気、口にした言葉は違えども、彼ら彼女らは皆、自分を必死に生み出した作者の命を奪った悪意ある者達の存在を許せなかった。
『アカウント』という作者との確かな繋がりを持ったなろう作品達とは違い、既に作者という存在を失った彼らは例えどれほど強かったとしても、力を振るうたびに存在の力を急激に消耗していく。
それはまさに亡者を彷彿とさせる姿だったが、彼らはそれでも構わないと言わんばかりに、敵の軍勢に特攻を仕掛けて、存在の炎を燃やし尽くす事も厭わなかった。
「よ、よせッ!!それ以上戦えば君達が本当に消滅してしまう!……あとは、僕らに任せてくれッ!!」
一人の青年なろうユーザーが、作者を失いながら苛烈に戦い続ける異世界転生小説の主人公に強く呼び掛ける。
彼の身体からは光の粒子が出始めており、それに比例するかのようにその身体は半透明になり始めていた。
けれど彼はその呼びかけに応えることなく、拷問車椅子に騎乗した悪役令嬢を始めとする他の作者を失ったなろう主人公達と共に、暗黒へと挑み続ける。
――もう、どうしたところで彼の消滅は避けられないのかもしれない。
それでも、と青年は叫ぶ――!!
「僕は、君みたいな格好いい主人公を書きたくて、なろうで作品を投稿し始めたんだ!!……だから、こんなところで終わりだなんて、絶対に許さないぞッ!!」
自作品を応援してくれた者の声を無視するわけにはいかない、と言わんばかりに、異世界転生主人公が初めて復讐とは違う柔らかな笑みを向けながら答える。
「……俺には万能ともいえる圧倒的な権能があった。それに見合うだけの人気って奴もあった。ただ、それでも何かが足りないままここまで走ってきて、大事なときにも間に合わず、どこにもたどり着けないまま、ここで無様に終わることになっただけだ……」
だから、と彼は続ける。
「もしもお前が俺の気持ちを汲んでくれる、って言うんなら……俺なんかじゃない。お前の大事な”相棒”と一緒に、俺達には無理だった”完結”ってヤツに辿り着いてみせてくれ。……俺にはそれが出来なかった事だけが、心残りだからよ……!!」
「……ッ!!」
自分の言葉ではもうどうする事も出来ない悲壮な覚悟と、託された誓いを前に深く、力強く頷くなろうユーザー。
そんな彼を満足そうに眺めてから、異世界転生主人公や悪役令嬢達が戦場へと視線を戻す。
自分達が抱えたこの復讐や絶望の果てにも、またいつかどこかで自分達の作者に出会う事が出来るはずだと信じながら、古き因縁を全てこの場で薙ぎ払うかのように進撃していく――!!
作者を失った作品というのは、異世界転生モノの主人公や悪役令嬢といった戦闘に特化した者ばかりではなかった。
他者を害する事に向いていない者達や力が足りない者達もいたが、彼らは自身の力をまだユーザーとの繋がりを持った他の作品の登場人物に託したり、その身を盾にしてエッセイや詩編を書いていなかったユーザー、あるいは既に登場人物が倒されたなろうユーザー達を悪意の軍勢から守り抜いていた。
作者を失った聖女:レミエールから託された力で強化されたなろう作品の登場人物達が、新人のなろうユーザー達に迫ろうとしていたマフィアや悪魔侯爵、ウルティマリアの軍勢を蹴散らしていく――!!
「ゴメンね、レミエールさん……私や他のなろうユーザーの人達に未来を託してくれた貴方や他の作品達の想いに応えるために、こんな光景を乗り越えた先の”最高の結末”を、私達なろうユーザーが描いてみせるよ……!!」
レミエールから力を託された自作品の登場人物達――そして、戦場の跡地となった場所を見やりながら、なろうユーザーの女子大生がそう呟く。
彼女の視線の先には、目を覆いたくなるような――それでも、背ける事を許さないような悲惨な光景が広がっていた。
――臓物が飛び出るほどに、刃物で肉体を切り裂かれた子熊や、原形をとどめていないほど身体中に穴が空けられ黒ずんでいる顔が半壊した雪だるま。
――悪魔侯爵に杭で腹部を貫かれながらその身を凌辱された女の子や、銃で何発も撃ち抜かれながらも勝利を確信した笑みを浮かべた身なりの貧しい少年など、皆凄惨な拷問を受けたかのように惨たらしい姿を晒していた。
彼らは皆、作者を失った”童話”ジャンルの登場人物達だった。
彼らは童話の中でも最も戦闘などに関わりのない作品の登場人物であり、作者を失ったとはいえ、自作品内に留まっていれば例え完結・未完結であろうと残りの生を平穏なまま終える事が出来たはずの者達であった。
けれど他者の幸福を願う作者の想いから生まれた彼らは、自身が非力であろうと手が届く場所にいるなろうユーザー達を見殺しにする事を良しとせず、『まだ未来を描けることが出来る者達を僅かでも生き残らせる事が出来るのなら』と、”幸福な結末”が決まっていた自身の物語を飛び出し、消滅させられる事も厭わずにこの地上に姿を現し、その可能性に自分達の全てを賭けていた。
現にその勝利を証明するかのように、夥しい童話の登場人物達の残骸が埋め尽くす戦場跡地の中でも、人間の遺体は一つも存在していなかった。
これこそが自分達の戦果だと言わんばかりに、傷つき倒れながらも皆一様に満足げな笑みを浮かべ、自分達の最期に立ち会ったなろうユーザーや登場人物達に意思を託すかのように、ゆっくりと光の粒子と共に消失していく――。
皆のリーダーとしてなろうユーザー達の避難を手伝うために同行していたメガネコブトリが、静かな面持ちのまま、この場に集った仲間達へと呼びかけていく――。
「……恥ずかしながら、僕は普段”童話”なんてジャンルは全く読まなくてね。だから、正直言うと、今消えていった彼等が実際に面白かったのかつまらなかったのか、そんな事すらも全然分からないんだ」
僅かに眉間に険を寄せる者もいたが、ユーザーも登場人物の区別もなく、皆が黙って彼の言う事に耳を傾けていた。
「だけど!彼等が実際どんなキャラクターで作者がその作品にどんな想いを込めたのかは分かなくても、彼等がこんな目に遭わされて殺されなきゃいけない理由なんざどこにもないって事くらいは分かる!……彼等が一体何をした?間に合わなかった僕らに代わって、戦えなかったみんなを必死に護ろうとしていただけだろうッ!!!!」
全員に行き渡るような叫びと共に場が盛大に震える。
そんなメガネコブトリの発言を聞いた者達は――すでに光の粒子となった彼らが、実際はどんな存在だったのかを知る機会を永久に失くしたのだという事を改めて強く実感させられていた。
――自分達とは、これほどまでに無力だったのか。
――本当に、こんな惨状に行きつく前に止める事は出来なかったのか。
自身の非力を悔やむ者、莫大な喪失感に押しつぶされそうになって泣き出す者、――そして、こんな光景を絶対に許してはならないと誓う者。
反応は様々だったが、これまで自分が戦況を共にしてきた者達の意思が、芯の部分ではまだ折れていない事を信じているから、メガネコブトリはなおもその部分を呼び起こすように叫び続ける――。
「例え彼等がどんな悪人によって作り出され、作品内でどんな事をしていたとしても!彼等がこんな胸糞悪い光景の中で埋もれていく事が当然だと嘲笑う奴がいるのなら、僕はそいつが”運営”だろうと”古城ろっく”だろうと、絶対に許さない!……こんな結末を”運命”だと誰かに押しつける奴がいるのなら、僕達はそんなふざけた真似が二度と出来ないように、”山賊”の流儀を叩きこんでやるまでだッ!!!!」
本音も間違いなくあるのだろう。
だが、それ以上に彼が柄にもなく強がっているのは、その震える拳や我慢しきれていない目じりの涙を見れば誰にでも分かることだった。
だがそれでも、どれほど非力で恐怖に押しつぶされそうになっていても、むき出しの悪意を前に身を投げ出した”童話”作品の登場人物達のために、それはメガネコブトリが口にしなければならない言葉だった。
――それは、この光景を二度と繰り返させないという誓いの意思。
それと同時に、この戦いは魔王:古城ろっくに屈するためのモノでもなければ、運営神群に縋りつくようなモノでもなく、”小説家になろう”という世界を駆け抜けてきた自分達なろうユーザーと作品達によって、このふざけた”人類最終試練”を終わらせる、という”覚悟”を決めた答えだった。
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!』
メガネコブトリの叫びに呼応するかのように、この場に集いしなろうユーザーや登場人物達が、男女や種族に関わりなく、一斉に彼に連なる叫びを上げていく――。
戦力を激減させられていた暗黒の軍勢は、空亡による瘴気も関係なしに恐慌状態に陥っていた。
迫りくるなろう作品達と、眼前で討ち取られていく廃滅の具現たる同胞達……。
”こんなはずではなかった”、”何故、我等が追いつめられている?”――。
そんな疑問や絶望が次々と彼らの口から叫びとなって出始める。
「マ、マズいぞ……このままでは、魔王:古城ろっくの名を冠する選ばれし我等が!!”小説家になろう”などという木っ端風情の集まりに敗北を喫することになるぞ!?」
「否!否!……断じて否!!滅ぶべきは、この狂った生命の螺旋を描く現行世界の方である!……我々ではない!!断じて違う!――こんな結末は、認められない!」
「然り!……ならば、コイツ等でなくても良い。我等の手で誰か一人でも多く!一秒でも早く!……この場より少しでも遠く離れた場所で、この世界の者達の骸を天高く積み上げ、我等が絶対なる神:空亡に捧げる贄を用意するのだッ!!」
『然り、然りッ!!』
この戦線において、自分達がなろう作品と彼らが守るなろうユーザー達を打ち破る事は不可能である――。
そう判断した暗黒領域の残存勢力は、この戦線を離脱し自分達に対抗する力を持たない一般市民を虐殺する、という結論に至った。
今もなろう作品やユーザー達と戦っている味方は確実に全滅するが、そのような些事にかまけてなどいられない。
この場の敗北が決定づけられた以上、自分達に出来る事は僅かでも偉大なる廃滅神:空亡に捧げるための贄を用意する事である。
そのため、例え軍の様相を呈していなくても一秒でも早くこの戦線を離脱し、壊滅しないように一つに固まるのではなく散り散りになりながら、老若男女を問わず一人でも多くこの地上の人間を喰らい、犯し、殺しながら、その犠牲者の命や負の想念といった力を空亡に捧げるのみ――。
名誉も誇りも――自身にあったはずの最後の矜持すら投げ捨てた邪知暴虐の徒が、無辜の民を蹂躙していく――ことはなかった。
「――ッ!?なんだ、これはァッ!!」
暗黒領域の残党達は、現在見えざる壁のようなモノに阻まれ、一歩も前に進めない状態になっていた。
困惑しながらも懸命に壁を崩そうとする彼らの前に、いくつもの人影が姿を現した。
彼らはこちらに向けて視線を向けた暗黒の領域に対して、何を言うでもなく一斉に攻撃を放つ――!!
「グ、ガハァァァァァァァ!?な、なんだこれは!!……こちら側を全く通さずに、奴等の攻撃だけを通過させる結界だと!?」
「この卑怯者共がァァァァァァァァァァァァァァッ!?姿をはっきりと見せろ!!名を名乗れッ!!……貴様等が真に”なろうユーザー”だと言うのなら!こんな匿名に隠れるような真似をせずに堂々と戦ってみせろッ!!」
残党達が直前まで自分達が行おうとした事を棚に上げて、この攻撃を指揮していると思われる”なろうユーザー”達を糾弾する。
だが、そんな言葉を取り合う事もせずに、物陰から――あるいは、何らかの隠蔽が施されているのか、次々と見えざる相手から極大の攻性魔法や高威力の兵器による猛攻が、身動きの取れない悪意の残党達へと降り注がれていく――!!
『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!』
炎竜を皮切りに、廃滅神の尖兵達が断末魔の雄たけびを上げる。
その光景を自作品から出てきた魔術師少女の隣で眺めながら――瞳の奥に憎悪の炎を燃やした少女が静かに呟く――。
「卑怯で当然でしょ……何せ私達は、多くの仲間達が犠牲になっているのに真っ先に逃げ出した最低の臆病者なんだから……!!」
戦線離脱しようとした悪意の残党を包囲するなろうユーザーと登場人物達。
彼女の発言通り、現在この場にいるのは『ダイナウェルダン』と『ベリアライズ』の二大最強領域が地上に顕現し、”コスモ・ミュール”によってなろうのアカウントが凍結されたときに、自衛隊や国連軍の決死の奮闘の末に命からがら逃げだす事が出来たなろうユーザー達であった。
多くの仲間のなろうユーザーや兵士達が犠牲になったにも関わらず、我が身可愛さで逃げ出した臆病者――。
それに、彼女が自虐するのはそれだけではなかった。
彼女は、最初に『アングラケイオス』が出現したときに、そこから出てきたパルメザンファミリーのマフィア達によって強制的にスケベなビデオに出演させられた女子高生の一人だった。
彼女はそのときの復讐をするために、”小説家になろう”にユーザー登録し、メガネコブトリ率いる山賊の軍勢へと加わったのだ。
……今となっては、相手が暗黒領域の者とはいえ、誰かを傷つけるために小説を書くことを選んだ自分の決断が最低なモノだという自覚はある。
そのうえ、自作品の能力が使えなくなったからとはいえ、仲間が犠牲になっているというのに自分は真っ先に逃げ出していた。
都合の良いときだけグループを作りながら、自分が僅かでも不都合を被ればすぐに切り捨てる。
それはこの混沌とした世界で人々の規範となるべき“なろうユーザー”の在り方などではなく、集団で不正なランキング工作に励む恥知らずな“相互クラスタ”が如き振る舞いである……と彼女はこれまで苦悩に苛まれていたのだ。
それでもコスモ・ミュールが敗れて、自作品の登場人物である魔術師の少女が姿を現したときに、彼女の決意は定まった。
「もうこれ以上、私のような臆病さや卑怯さなんかで苦しむ人たちを増やしたくない……!!」
例え、仲間を見捨てて逃げ出すほどに臆病で、他者を傷つけるために小説を書き始めるような最低の卑怯者であったとしても。
それが誰にも許されずに責められることになっても、少女が叶えたい願いであった。
そんな彼女の想いに呼応するかように――あるいは、彼女自身が皆に共鳴したかのように、一度は逃亡したなろうユーザー達が戦場へと引き返していた。
彼女達は戦場に戻ると、魔術師や退魔師の登場人物を中心に結界を構築し、その包囲網を徐々に徐々に……狭めていっていた。
そうしている間にも、かつての仲間達やその作品の登場人物達が犠牲に遭っている事は伝わっていた。
それでも、何の覚悟や戦う力もない普通の人々を、かつての自分達のように剥き出しの悪意の徒の前に晒すような可能性は、かつて被害に遭った者として許せるはずもなかった。
ゆえに汚名を着ることになろうとも、引き返したなろうユーザー達は援軍として駆けつけるのではなく、逃亡を図る者達を逃がさないための包囲網を構築する事を選んだ。
――自分が助かるために見捨ててしまったかつての仲間達。
――自分達を逃がすために、最期の時まで敵を惹きつけてくれた自衛隊や国連軍。
――そして、今も犠牲を出しているかもしれないなろうユーザーやその作品達。
彼らに心の中で謝罪の言葉を述べながら、それでも、少女は強く誓う――!!
「かかって来なさい、暗黒領域の尖兵達――!!地下に潜ろうと空に飛ぼうと脱出不可能な障壁結界、どれだけ姿や形状を変えたり、隠形を使おうとも感知する術式を常時展開している!……これ以上まだ犠牲を増やそうというのなら、まずは立ちふさがる私達の存在を今度こそ壊しきってみせろッ!!」
彼女の言葉に呼応するかのように、闇の中でなろうユーザー達が頷く。
その中には、彼女と同じようにスケベなビデオに強制出演させられた者や、殴られ屋として酷使させられた者達の姿があった。
彼らは暗黒領域の者達も自分達も、互いの関係を清算し尽くさない限りこの先を一歩も進む資格がないのだと言わんばかりに、包囲網から一歩も動くことが許されない熾烈な闘争に身を投じていく――。
そして、この包囲網に加わっているのは彼らなろうユーザー達だけではない。
彼らのもとには、戦友の意思に共鳴するかのように、他の地域で展開していた自衛隊や国連軍の部隊が集結していた。
「亡き戦友達の想いに報いるためにも、奴等”暗黒”の者達に我が国土を一歩たりとも踏ませるな!!……この国が、奴等のような悪意に塗りつぶされるほど容易くはないと身をもって思い知らせてやれ!」
「これこそが、数少ない人類結束のときである。……この地球と言う狭い世界は既に、我々人類が数少ない席を巡って実りのない権力争いに興じなければならないほど、定員オーバーでね……先住者である我々ですらそうなんだ。”暗黒領域”などという新参者が闊歩出来るような”自由”な場所など、この世界のどこにもありはしない……!!」
自衛隊や国連軍は、彼女達なろうユーザーの想像力や知識だけでは足りない部分を補うかのように、最新鋭の設備や技術を用いて暗黒領域の者達を常時監視し、決定打にならない事が分かっていても、結界包囲網を打ち破るために猛攻を仕掛けようとしている悪意の軍勢に集中砲火を浴びせ、結界内に押し戻す事に成功していた。
なろうユーザーとその作品の登場人物、自衛隊、国連軍による包囲網を前に、手も足も出ない暗黒領域の尖兵達。
そして、彼らがその好機を逃すはずがなかった。
「――敵が迫っているというのに、背中を見せるとは随分と余裕があるようだが……そんな相手に遅れを取るほど私は甘くはないぞ!!」
「ッ!?グハァッ……!!」
暗黒の残党達が、背後から現れた姫騎士の一刀のもとに斬り伏せられる。
彼女に続くようになだれ込んできたなろう作品の戦士達によって、暗黒領域の者達は背後の結界で身動きも取れずにロクに抵抗出来ぬまま次々と討ち取られていく――。
かつて自分と轡を並べた戦友である優し気な少女が、「一緒に行こう」と結界内からこちらに呼びかけてきたが、外にいる彼女はその誘いを断った。
あらかた敵戦力の掃討が終わったとはいえ、万が一のために警戒を解くわけにはいかない――もちろん、そういった理由もあるが、決してそれだけではなかった。
そんな彼女の心中を察したかのように、なろうで出会った大事な親友が儚い笑みを浮かべる。
このまま何もかもが終わってしまえば、彼女は何も言わずに自分達なろうユーザー達のもとから去っていってしまうのだろう。
そして、それを引き留めるにはあまりにも遅く、何もかもが壊れすぎたのだろうとも少女は思う。
(それでも、また出会う事が出来たのなら――)
そんな願いをまだ見ぬ未来にほんの僅かに託しながら――少女は、結界内の仲間達のもとへと戻っていく。
かくして、地上を覆い尽くすかの如き勢いで進軍してきた暗黒の勢力は、なろうユーザーと彼らが生み出した作品……そして、紡いできた"縁"と受け継がれた"意思"の前に敗れ去っていた。
勝鬨を上げながら、なろう作品の登場人物達は休む間もなく次なる戦地へと向かうための準備を始める。
「"転倒世界"なんていう訳の分からない奴等に遅れなんかとってたまるかよ!……みんな、急いで奴等のもとへ向かうぞ!」
「オゥよ!……"山賊"やら何やら言ったところで、一番凄いのは俺達"異世界主人公"だって事を、暗黒領域で手こずっているアイツらにはっきりと教えてやるぜ!」
「もう、男の人って本当にいらないところで意地っ張りで面倒くさいんだから!……でも、そんなところもめちゃすこ♡」
口々にそんな事を言い合いながら、なろう作品の登場人物による軍勢が、今も苦戦を強いられている転倒世界勢力を助けるかのように――あるいは、遅れを取るまいと次々と暗黒領域へと繰り出していく――!!
『本作は「すげどう杯企画」参加作品です。
企画の概要については下記URLをご覧ください。
(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1299352/blogkey/2255003/(あっちいけ活動報告))』
※本作の執筆にあたって、『古城ろっく』さんの名義を使用させて頂く許可を、古城ろっくさん本人から頂きました。
慎んで、深く御礼申し上げます。




